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上野水香、40代トップバレリーナの新たな挑戦に秘められた信念

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
バレエ界に還元すべく、様々な挑戦を続ける上野水香さん(撮影:すべて島田薫)

 上野水香さんは、「東京バレエ団」のプリンシパル(最高位のダンサー)にして、日本人女性で唯一『ボレロ』を踊ることを許されている稀有(けう)な存在。ファッション誌のグラビアにも登場し、幅広い年代から絶大な支持を受けています。現在も、全人生をバレエに捧げる日々を送っているという上野さん。とはいえ、バレエだけでは金銭的にも厳しいという現実を前に、今後を模索中だと言います。

—長年、第一線で踊っていらっしゃいますが、体の変化は感じますか?

 5歳から始めて38年、「牧阿佐美バレヱ団」に入った17歳から、バレエだけの毎日です。40代になりましたが、周りからは「体は柔らかいし、全く変わらない」と言われます。元々“疲れ性”でいつも疲れているので、特に大きな変化はないです(笑)。長く踊っていると、自分の体の扱い方が分かってくるので、より効率よく使えるし、理解力が上がってきます。

—体を維持するためにしていることは?

 やはり、太ってはいけないので。以前は「本番の時だけ痩せればいいや」という感じでしたけど、それは逆に面倒だということに気づいて、常に同じでいた方がいい、と考えが変わりました。

 基本、食べることが大好きなので、食べ続ければ太ります。だから“きょうは食べる”という日にしたら、翌日は気をつける。これが大事です。

—1日の食事量はどれくらい?

 舞台中だと、お腹が出ちゃうからあまりたくさんは食べられませんが、朝・昼は炭水化物や甘い物など、エネルギーになるものを取ります。舞台に上がるということは、人にエネルギーを差し出すわけですから、フラフラしていられないです。玄米をよく食べますね。舞台終了後、夜は野菜・タンパク質・油の少ないものを取ります。例えば、ゆで卵。これから先も踊り続けていくために、食べ物は大事です。

—バレエ以外の世界に出ることは考えていますか?

 以前から、他ジャンルの舞台にも出てみたいという気持ちはありました。そうしたら、ミュージカル『ドン・ジュアン』(今秋上演、すでに終了)に「是非、出てほしい」と強いオファーを受けまして。私、セリフも歌もやったことがないんですけど、キャストも素晴らしいし、挑戦する価値があるのでは、と思ってお受けしたんです。ただ、私の役(アンダルシアの美女)は踊りだけで、セリフも歌もありませんでしたけど(笑)。

—バレエ以外の舞台に興味を持ったきっかけは?

 柚希礼音(ゆずき・れおん)さん(元宝塚歌劇団星組トップスター)との出会いです。NHK「SWITCHインタビュー 達人達」で柚希さんとご一緒することになったので、彼女の舞台『レオン・ジャック』を観に行きまして。「コラボしたらおもしろそう」と感じたので、お会いした時に「一緒に踊りたいな」と伝えたら、それが『レオン・ジャック2』で実現したという。

 それまではずっとバレエ一筋でしたが、この時に初めてバレエ以外の舞台に立ちました。触れることのなかった別ジャンルの世界に、ものすごく刺激を受けたんです。ストレートに分かりやすかった。彼女が世界を広げてくれたのでミュージカルも挑戦してみようと思えたし、『ドン・ジュアン』も観に来てくれて、「ミュージカルの舞台で堂々と君臨している姿が、誇らしかったよ」と言ってくれたのが…もう、泣きたい。

—初めてミュージカルに出た感想は?

 大変!「とにかく無事に完走したい」という思いでいっぱいでした。皆、舞台が大好きで、毎回120%の力でやっている。お客様に届けたいという気持ちが強くて、それはどの世界も共通していると感じましたね。

—バレエとの違いは何ですか?

 バレエは芸術なので、少し抽象的な届け方をするんです。だけどミュージカルは、もっと分かりやすい形で提供しているので、届け方の違いはあると思います。言葉や声があるのも大きな違いですね。

 あとは上演回数!バレエは通常数回ですが、今回のミュージカルは1ヵ月で32回公演!それが毎回満席なんて、バレエではありえないです。きょうもあしたも、昼も夜も本番だと、どこにテンションを持っていけばいいのか分からない。皆にとっては当たり前な感じでしたけど、私には新鮮で、何度も繰り返していく意味を、今改めて感じています。

—バレエを知ってもらうために、積極的に動かれていますよね。

 今までも、メディアに出たことがきっかけでファンになってくださった方は結構います。上野水香という人物に惹かれてバレエにハマったという方たちは、バレエと人物、両方に興味を持ってくれているので、より深いファンでいらっしゃるなと。「『情熱大陸』(2000年9月放送)以来、ずっと観ています」とか「雑誌『ヴァンテーヌ』(休刊中)以来のファンです」という方は、現在もアツく応援してくれています。

—雑誌の影響は大きかったですね。

 そもそもは『白鳥の湖』の上演時、“若手が初主演”ということで「ヴァンテーヌ」の取材が入ったんです。そうしたら、副編集長が舞台をすごく気に入ってくれて、「別の企画でシャネルを着せたい」と言って、ファッションページをやったんです。次の号でもまたシャネルを着て、その次も…と、そこからはもう毎号続きました。私は当時21歳、ヴァンテーヌ世代そのもので、応援したいと思ってくださったようです。

—印象的だったのは前髪です。バレエダンサーで、あんなに厚く前髪を下ろしていた人は、水香さん以外いなかったと思います。

 撮影に携わってくださった、ヘア・メイクアップアーティストの藤原美智子さんにも「前髪がすごく印象的」だと言われました。役柄にもよりますが、「白鳥の湖」のようなお姫様の時は、前髪を下ろせません。雑誌「non-no」などでモデルさんが前髪を下ろしているのを見ては“可愛いな”と憧れていました。

 初めて前髪を下ろしたのは20歳の時です。その頃、ローラン・プティさん(フランスのバレエダンサー・振付家)に出会ったのですが、彼の舞台は前髪を下ろして舞台に立つことが許されたので、そこからですね。

—恩師である牧阿佐美さんが、今年10月に亡くなられました。受け継いでいることも多いと思います。

 子供の頃に英才教育というか、スターは舞台でどう輝くべきなのかということを教えてもらいました。オーディションで集めた人たちは皆、優秀です。その中でキラキラしている人を見て、自分も負けない…と思う心を育てる。「あなたは龍になりなさい」とも言われました。よく分からないことをおっしゃるの(笑)。

 でも後から考えると、自分が役をもらった意味や、技術だけではない、特別感や意識を育てていただいた気がします。阿佐美先生は日本のバレエ界を熟知していたし、そのために何が必要か分かっていらした。先生のようになるのは、一つの夢でした。

—「上野水香バレエ団」ですか?

 バレエ団は分からないですけど、もしそういうことができるとしたら、自分が教えたいと思う人にだけ教えます。この世界はとても厳しく、誰もが進めばいいというものではありませんから。

 私自身は、女優もやりたいです。今はまだ現役ですから、バレエの舞台に来てもらうためにも、自分が発信しなければという気持ちがありますが、映像の仕事はやりたいと思っています。草刈民代さんが映画「Shall we ダンス?」に主演した際、バレエを観る方がとても増えたので、すごい効果だなと思っていました。

 バレエ界は発信力が弱い…と、ミュージカル界を見て特に感じました。ミュージカル界で毎日お客さんが入っているのを目の当たりにすると、バレエ界ももっといろいろなことに目を向けないといけない、バレエだけやっていたらお金も厳しいですから、何か考えないといけないと思いました。

—バレエ団のトップである水香さんのレベルで、金銭的に厳しいんですか?

 そうです。それが現実です。そういった意味でも、しっかりと自分の足で立って生きていける人になりたいですし、そうあるべきだと思っています。私がバレエダンサーとして今まで感じてきたことを、少しでもいい方向に変えられる力になれたらいいし、人間として輝ける人でいたい。ただ、具体的に何ができるのかは、今考え中(笑)!

—今後のためにしていることはありますか?

 先のことは分からないですが、演技など、声を発することは学んでいかなければと思っています。他ジャンルのメディア・映像・舞台にどんどん挑戦をして、そこで新たに喜んでいただくことができれば、これほど光栄なことはないです。

 いろいろと挑戦をしていく中でも、やはりバレエは素晴らしいと感じるのです。世界を広げて、バレリーナの上野水香をもっと浸透させていくことで、バレエ界に還元することが夢です。

【インタビュー後記】

最初は“美の秘訣”を中心にお話を聞こうと思っていたのですが、40代で新しい世界に飛び込んで刺激を受け、まだまだ未知のことに挑戦しようとしている姿に共感し、すべてはバレエのために生きているのだと感じた瞬間、これこそが“美”だと思いました。一流のバレリーナの運動量や代謝が一般人と違い過ぎて、照らし合わせるのは簡単ではないということもありますが…内面が整えば、外面の美しさにもきっとつながる、と思えた時間でした。

■上野水香(うえの・みずか)

1977年12月23日生まれ、神奈川県出身。「東京バレエ団」のプリンシパル。1989年、埼玉全国舞踊コンクール、ジュニアの部第1位。1993年、15歳で「ローザンヌ国際バレエコンクール」にてスカラシップ賞を受賞し、モナコの「プリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミー」に2年間留学。2004年、東京バレエ団に入団。主なレパートリーは『白鳥の湖』『ジゼル』『眠れる森の美女』『ボレロ』など多数。12月29日は神奈川県民ホールにて『ファンタスティック・ガラコンサート2021』、2022年2月18、20日には東京文化会館にて『白鳥の湖』が控えている。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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