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11歳…肩書きは「歌舞伎俳優」、 憧れは「パパ」市川右團次!

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
インタビュー中も「パパ大好き」オーラ全開の右近さん(撮影:すべて島田薫)

 「僕は、歌舞伎俳優です!」と小学生ながらもプロの自覚を持つ、俳優の市川右近さん。そして「歌舞伎とは“ごっこ遊びのプロ集団”」だと、究極を求め円熟味を増す市川右團次さん。親子2人の新しい挑戦とは!?

 現在、「市川海老蔵『古典への誘い』」に出演中の市川右團次さん&右近さん親子。右團次さんは、海老蔵さんからの声掛けをきっかけに2017年、初代市川右近改め三代目右團次を襲名し、海老蔵さんとの関係性もぐっと深まりました。

 11歳の右近さんは、「ラグビーワールドカップ2019日本大会」の開幕式で『連獅子』を披露。2019年7月期のTBS系日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』では大泉洋さんの長男役を演じるなど、未来の歌舞伎界を背負っていく存在として注目されています。

―まずは右近さん、ご自身の肩書きは何ですか?

右近:“肩書き”って?

右團次:「君の仕事は何ですか?」ってこと。学生かな?

右近:僕は、歌舞伎俳優です。(一同:「おー!(感嘆)」)

―歌舞伎俳優になろうと決めたのはいつですか?

右團次:3歳です。3歳で「やる」って言い出しました。

右近:覚えてないけど。

右團次:彼がやりたいかどうかは、3歳の時に聞きました。やりたくないのにやらせたらかわいそうだから。

―自分で覚えているのはいつですか?

右近:6歳です。右近を襲名した時です。

―世間一般では、3歳や6歳の子供が歌舞伎を理解し興味を持つのは難しいですね。

右團次:子供の頃から歌舞伎の舞台やビデオを見せていましたから。三幕仕立てのフルで歌舞伎を観たのは、スーパー歌舞伎II『ワンピース』が最初です。『ワンピース』は世界観が子供にも分かりやすいというのもあって、すごく好きでしたね。

―歌舞伎界の他の家や、子供同士の交流はありますか?

右團次:一座をしていますとお兄さんたちがたくさんいますので、倅(せがれ)は市川猿弥さんの膝の上でゲームをしたり、市川中車(香川照之)さんの息子の市川團子さんにもよく遊んでもらいました。團子兄さんはだいぶ大きくなって、今180cmくらいになっちゃったけど。

 市川海老蔵さんのところの勸玄くんや麗禾ちゃんは、年も近くて3人で遊んだりしていましたが、今は新型コロナウイルス感染拡大の影響で楽屋間の移動もできなくて、難しいんですよ。

 もともと僕は、市川右近として40年以上澤瀉屋(おもだかや)にいて、(2017年に)市川右團次になって(屋号は)高嶋屋になりましたけど、市川右近は澤瀉屋の名前なので、倅は澤瀉屋に在籍しているんですね。ですから、歌舞伎については(澤瀉屋の)市川猿之助さんたちにいろいろ教わっています。

 以前は僕も稽古に立ち会えていたんですが、このコロナ禍で、倅が出演した六月大歌舞伎『日蓮』の時も稽古場に入れませんでした。父母といえども、一切入れないんです。稽古場には送って行くものの、あとは1人です。お弟子さんが面倒を見てはくれるのですが…こういうご時世で、ここ2年近くそんな感じです。

―右近さんは、歌舞伎俳優としてのお勉強は何を?

右近:最初は声の出し方からやります。今は踊りをお稽古しています。

右團次:そのうち三味線とか鳴り物をやるのかな?

右近:それは難しそう。

右團次:基本的にお稽古は舞踊と発声を主として、実際は舞台で訓練していくことが多いです。今年6月は歌舞伎座に出してもらいましたし、去年は『連獅子』があって、その前に禿(かむろ/吉原遊郭の幼女)をやらせてもらったり、まさに実地訓練です。

―右團次さんが教えられるのですか?

右團次:子役指導の先生がいらっしゃるので、手ほどきをしていただいて、いわゆる“イロハ”を習います。僕ももちろん付き添って、その後は僕たちが見ます。

―他に習い事は?

右團次:今はお習字に週1回行っていまして、あとは学校ですね。学校は普段は行けていますが、舞台が始まるとどうしてもその期間は行けなくなります。なので、家庭教師の先生に来ていただいて、しっかり補足してもらっています。今は学校もタブレットで提出して添削していただくとか、リモートの世界ですから。

―何が得意ですか?

右近:得意と言うほどでもないけど…算数。

右團次:けん玉が得意です。学校で「伝承遊びの会」というクラブに入っているんです、地味にね(笑)

―右團次さんは襲名して約4年。変わったことはありますか?

右團次:僕は、市川宗家の海老蔵さんとご一緒させていただく機会がうんと増えました。各お家で演目は決まっているので、(襲名により)今まで自分のやらなかったものに挑戦させていただく機会が増えて、世界が広がりましたね。海老蔵さんは、僕がお願いしたら懇切丁寧に教えてくださいます。

―本来なら右近さんも、同年代の人たちともっと密にできるといいですね。

右團次:私も師匠・三代目市川猿之助(現:猿翁)のところにいた時には、子供の頃から、猿弥さんをはじめ皆で切磋琢磨しながらやってきたので、大事だと思いますね。そういう意味でいうと、この子たちの代は、この情勢の中で仕方がないですが、コミュニケーション自体が減っています。

―右團次さんが、右近さんから学ぶことはありますか?

右團次:ははは、どうかな。親が言うのもなんですが、彼は凛としたところがあるので、そういうところは褒めてやりたいし、自分も磨いていきたいです。

 歌舞伎が好きで純粋無垢なところは、少年ならではだと思うんです。童心と言いますか…おもちゃと戯れるように芝居に取り組むことを一生できればいいんですけど、いつまでも子供のようにはできない。だんだん皆サラリーマンみたいになってきちゃって、決まった時間に来て、バッと化粧して、舞台に出て、出番が終われば「それじゃお先に」と帰っちゃう…職業化するんですね。

 しかし、そうでない歌舞伎との向き合い方が、三代目市川猿之助にはありました。海老蔵さんもそうです。

―右團次さんが思う理想の歌舞伎俳優とは?

右團次:三代目市川猿之助ですね。童心を忘れないということです。子供が“ごっこ遊び”をするのは微笑ましいですよね。子供は損得勘定なく“何々ごっこ”をしているわけで、その“何々ごっこ”を突き詰めたところにあるプロ集団が我々だと、僕は思うんです。だから常に童心を忘れずに貫くことができれば、お客様にも楽しんでいただけるのではと思います。

―右近さんはどういう歌舞伎俳優になりたいですか?

右近:パパみたいな歌舞伎俳優になりたいです。立ち回りがかっこいいので、僕もできるようになりたい(と、横にいるパパを笑顔で見つめる)。

―10月は『伝統芸能 華の舞』に親子で出演されるんですね。

右團次:昨年からスタートしたのですが、新型コロナウイルスの影響で、福岡・博多で1日だけやらせていただいた後は、すべて延期になりました。結局行けなかったところもありましたが、今年は16ヵ所を予定しています。

―今年の見どころは?

右團次:まず『鳴神(なるかみ)』ですが、これは歌舞伎十八番でございますから、派手な立ち回りもありますし、最後は“飛び六方(片手を大きく振って、勢いよく足を踏み鳴らしながら花道を引っ込む演技。力一杯に走っている様子を表現)”という“ザ・歌舞伎”な世界をご覧いただきます。

 もう一つは、私が倅の年くらいの頃、日本舞踊家である父と一緒によくやっていた『楠公(なんこう)』という演目で、楠木正成と正行親子の物語です。正成が合戦に向かうところに、「自分も同行させてくれ」と倅の正行がやってくるのですが、正成は「君は必ずや楠木を立て直し、自分が討ち死にしたら敵を討ちなさい」と諭して親子の別れをするという、非常にドラマティックな物語です。上下巻に分かれていて、下の巻では戦いの場面を素踊りでご覧いただきます。

 今回あえて甲冑(かっちゅう)等の衣装をつけずに、男性ばかりがスッピンで出てきますので、男臭くはありますが勇壮さがあります。非常に難しいのですが、お客様のイマジネーションを引き出して、想像して観ていただきたいと、僕が提案いたしました。素踊りは「そぎ落としの美学」です。

右近:難しいです。

―最後に、右團次さんが右近さんの世代につないでいきたいものは?

右團次:僕は子供の頃から師匠に師事してまいりましたので、僕の体の中には三代目市川猿之助そのものがあると思います。それを、今は市川右團次という世界に照らしながら、新たなジャンルにも挑戦しているわけですが、僕の体から出てくるのは、やはり三代目市川猿之助の芸術に対する理念や、歌舞伎に対するパッション。この世界を少しでも後世に伝えていくのが、僕なりの恩返しだと思っています。

【インタビュー後記】

パパが一番!右團次さんの舞台上での魅力・迫力はもとより、三代目市川猿之助さんの教えを大切に守りぬく誠実さ、皆を引っ張りまとめてきた頼り甲斐のある存在は、父親としてだけでなく、俳優の先輩としても右近くんの憧れです。ダンディな声で次々と言葉を紡ぐ父・右團次さん。質問に、たっぷり時間をかけて熟考してから短い言葉を発する子・右近さん。一見対照的ではありますが、2人とも終始背筋をピンと伸ばしたまま、右近くんはまっすぐ前を向き、膝に手を置いたまま、右團次さんの言葉を静かに聞いていました。実は他にも好きな俳優や憧れの人について何度か聞いたのですが、迷いなく「パパ」の一言。お父さんへの憧れと尊敬は、他の“好き”とは比べものにならないようです。

■市川右團次(いちかわ・うだんじ)

1963年11月26日生まれ。大阪府出身。日本舞踊・飛鳥流家元の長男。慶應義塾大学法学部卒業。1972年、京都南座『天一坊』で本名・武田右近として初舞台。1975年、三代目猿之助の部屋子となり、市川右近を名乗る。2017年、上方歌舞伎大名跡・三代目市川右團次を襲名。屋号は高嶋屋。舞台はスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』、『義経千本桜』など多岐にわたり、情熱と気迫に満ちた精悍な魅力を放つ。オペラの演出、2017年10月期のTBS系日曜劇場『陸王』や今年4月期の同枠『ドラゴン桜』、さらにバラエティ番組に出演するなど、マルチな才能を発揮。

■市川右近(いちかわ・うこん)

2010年4月18日生まれ。東京都出身。市川右團次の長男。屋号は澤瀉屋。2016年歌舞伎座『義経千本桜』に本名・武田タケルの名で初お目見得。2017年、新橋演舞場『雙生隅田川(ふたごすみだがわ)』で市川右近を名乗り初舞台。スーパー歌舞伎II『ワンピース』、スーパー歌舞伎II『新版オグリ』などの舞台の他、ラグビーワールドカップ2019開幕式にて『連獅子』で最年少の仔獅子を披露、TBS系日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』では大泉洋の長男・君嶋博人を演じた。

『伝統芸能 華の舞』(10月14日〜11月23日全国16ヵ所21公演)には親子で出演。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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