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「こいつにできるのなら僕にも!」、“きっかけ型俳優”目指す平埜生成

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
刺激的な共演者との舞台について語る平埜さん(撮影:すべて島田薫)

 話題作となった今年4月期のフジテレビ系ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』などに出演し、注目されている俳優・平埜生成(ひらの・きなり)さん。「黒木華さんは今まで出会った中で一番すごい人」「憧れは柄本明さん」「将来の夢はアイドルプロデュース」と振り幅の大きさを見せる、その素顔に迫りました。

ー現在『ウェンディ&ピーターパン』の舞台稽古の真っ最中ですが、共演する皆さんの印象は?

 最高です!特に、ウェンディ役の黒木華さんに出会えたことは大きいなと思います。今まで会った人の中で一番すごい人だと思いました!“どこが”と言われても、全部です。単純に「スッゲェ!」と思いました。見せ方も声の出し方も、表現方法がズバ抜けて上手い!この人は何でこんなに上手いんだろう、とずっと見ています。

 本読みの段階から「スッゲェ!」と思っていましたけど、立ち稽古に入ってからの演出家への対応やスピード感、演出家の言葉を汲み取る力、トライする心意気…すべてがすごすぎて、真似しようって思いました。いろいろと僕たちが演技で仕掛けて挑戦した時も「いいよ、稽古だからいっぱいやろう」と受け止めてくれて、器も大きいんです。

 あと、フック/ミスター・ダーリングの二役を演じる堤真一さんもすごいんです。あまりの運動量にビックリしますよ!体もキレるし見せ方も上手いし、アクションのレベルが違います。

 僕は以前、演出家の白井晃さんから体が硬いことを怒られたことがあったんです。今は柔らかくしましたけど、身体性は俳優にとってこんなに必要なことなんだと、堤さんを見て改めて考えさせられました。

 ピーターパン役の裕翔くん(「Hey!Say!JUMP」中島裕翔)は、何でもできる力を持っています。そもそも人間性が素晴らしくて、スタッフさんの名前も全員覚えているから愛される。出演者とスタッフがフラットにコミュニケーションを取っているから、裕翔くんも心を開いているし、皆に頼られてさすがだと思います。

ー今作は“普通の「ピーターパン」とは全然違う感覚”と伺いました。

 はい、ウェンディの視点で進んでいくんです。「ピーターパン」は、1900年初頭に発表されたものですよね。当時は男の子が冒険に行き、女の子やお母さんなどの女性は家にいるのが当たり前…という時代でしたが、今回はそれを現代に置き換えて描いています。今、世界は多様性の時代ですから、「冒険物語は男の子だけのものじゃないよ!」ということで、誰でも冒険心を持ってどんどん強くなっていこうという内容になっています。

 日本はジェンダー・ギャップ指数が世界的に低いということもあるので、これを上演する意義はあると思っています。

ー平埜さんが演じるのは?

 僕は3兄弟の長男、ジョンという11歳の男の子役です。お父さんとジョンは“男はこうあるべき、女は何をしてはいけない”というような偏った考えを持っていて、世界を支配しようとしていた大英帝国の気配を残した様子がシニカルに描かれています。

ーご自身はどんな子供でした?

 空っぽで、何にもない子でした(笑)。欲もなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている子。中学1年生くらいまではやんちゃだったんですけど、その後は思春期で、女の子を意識してふさぎこみ出しました…。

ー“ピーターパンは永遠の少年”と言いますが、少年のままでいたいという願望は?

 あります!僕は典型的な“ピーターパン症候群”です。ずっと子供でいたいし、誰かに守っていてほしいです。今は会社や親に守られて生きていますが、願わくは、ずっとぬくぬくと「イイ子、イイ子」してもらいながら生きていきたいと。演劇の現場は厳しいから楽しいですけど(笑)

ー演劇は厳しくてもいいんですね。目指す俳優像はありますか?

 僕は「こいつにできるのなら自分にもできる!」と思ってもらえるような俳優になりたいんです。

 憧れは柄本明さん。「劇団東京乾電池」の座長を務めながらも、一方では普通の生活者の匂いもするじゃないですか。聞くと、劇団の拠点である街(東京・下北沢)に普通にいらっしゃるらしいんです。そして、フラッと自転車に乗ってきたかのような雰囲気のまま、板の上(舞台)に上がったりカメラの前に立ったりしている。そんな姿にすごく憧れます。大ベテランの俳優さんなのに、普通のおじさん感もすごくあって、“僕もああなれるんじゃないか”と気軽に思わせてしまう空気があるというか。

 気軽に“ああなりたい”と思えてしまう存在といえば、今ならYouTuberがそうかなと。YouTuberを見ていると、「私もYouTuberならなれるかも」って。

 そんなふうに、僕の出演する映画や舞台を観て「あいつでもできるなら、自分にもできる気がする」と思ってもらえる、きっかけ作りの人になりたいんです。演技のこととかカタく考えず、気軽にこの世界に入っておいでよ、という感じです。

ー俳優として“成長できた”と思った出来事は?

 2014年の舞台『ロミオとジュリエット』で、演出家の蜷川幸雄さん(2016年死去)に人格をすべて否定された時に、ちょっと変わりました。

 当時言われたのは、“芝居が下手”というレベルにもなくて、「お前には欲がなさすぎる!」「お前は自分に価値があると思っているんだろう、お前に価値なんかない!」「やめちまえ!」といったことです。その辺からあらゆることを考え始めました。また、「教養がない!」と言われて、そこから演劇をしっかり勉強しようと。当時は20歳ですぐには変われなかったんですけど、それ以降、生き方・世界の見方・意識が全く変わりました。

ー将来の夢は?

 僕はアイドルが大好きなので、アイドルのプロデュース&演出をしてみたいです!アイドルって、元気をもらえるんですよね。歌って踊るアイドル活動はもちろん、劇団を作ってアイドルたちを主役にした演劇を作りたいと思っています。その後の人生設計までをちゃんと考えて、プロデュースしてあげたいなと思っています。

 別軸でいうと、将来は、全国の小学校や障がい者施設を回る移動演劇のようなものをやりたいです。

 ちなみに、きょう着ているTシャツは、人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」のものです。『ウェンディ&ピーターパン』の演出家であるジョナサン・マンビィさんは、「ももクロ」だと分かっていなくて、このTシャツを見て「COOL!(カッコイイ)」って言っていました(笑)

【インタビュー後記】

10代から活動しているのに、業界にスレていないピュアさを持った人だと感じました。強く自己主張するわけではないけど、フラットに物事を見られるタイプ。かと思えば、アイドルの話をするとキラキラした目で将来の展望まで話す積極性を見せたり、いろいろな面を持っているようです。若者が自分の夢や目標を定めにくい現在の社会状況。「自分にもできるかも」と希望をつかむきっかけになりたいと言う平埜さんは、若者たちの奮起を呼び起こすことができる、優しいお兄ちゃん的存在になり得るのではないでしょうか。

■平埜生成(ひらの・きなり) 

1993年2月17日生まれ。東京都出身。2007年にドラマで俳優デビュー。舞台『私はだれでしょう』、読売演劇大賞2017年上半期5部門ベスト5男優賞にノミネートされる。近年の主な出演作は、舞台『アーリントン』、フジテレビ系ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』、日本テレビ系『親バカ青春白書』、日本テレビ系『今日から俺は!!』、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、映画『空母いぶき』など。舞台『ウェンディ&ピーターパン』は、8月13日からBunkamuraオーチャードホールにて上演。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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