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引退も考えた…神田沙也加が語る“自分の居場所”

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
独特な“減点方式”を明かす沙也加さん(撮影:すべて島田薫)

 神田沙也加さんには、可愛らしくてオシャレが好きで守ってあげたくなるような印象を持っていました。ところが、この日の現場で見た彼女は、そのイメージを見事に覆す“仕事人”でした。独自の自己評価方法、アルバイト生活、そしてターニングポイントを振り返った沙也加さんが目指す新たな“ラスボス”とは!?

—本当に落ち着きというか貫禄が出てきましたね。

 オヤジっぽくなったとも言われますが(笑)、現場で「初めまして」から「今回も一緒ですね」という人が増えてきたからだと思います。“ここにいてもいいんだ”という気持ちになれる場所を、年月を経て作れるようになってきたというか。そういう居場所って、自分で作るものだと思うんです。

—具体的に、居場所の作り方とは?

 作品に出続けることですね。キャスト、スタッフ含め、ずっと初対面の方ばかりだと、「どこにいたらいいのかな。ここに座っても平気かな。私ってどう見えてるのかな」と不安があるのですが、2度目、3度目の方が増えていくと、「今回もありがとうございます!よろしくお願いします」というふうに、「呼んでもらえることを誇らなくては」という気持ちに変わってくるんです。

—そのために努力していることはありますか。

 出演作品で必ず、「神田沙也加いいね」と思ってもらうことです。私たちにとっては何十公演のうちの1つでも、観てくださる方にとってはその公演しかないので。

 神田沙也加の全ての評価がその日の評価になるから、毎日がオーディションだと思ってやっています。

 私の場合は“減点方式”で、本番の舞台は100点から始まるんです。「今の語尾の言い方、好きじゃなかったな」とか「今の音の持っていき方、よくなかったな」とか、点が引かれていくんです。で、最後にカーテンコールであいさつをした時に何点残っているかというのを、毎日やっています。

 減点はつらいです。加点の方が楽かもしれないけど、私はこのやり方しかできないと思います。

—間もなく開幕の『ローズのジレンマ』はストレートプレイですね。

 久しぶりのストレートプレイ、セリフ劇です。私、ミュージカルは数学だと思っているんです。譜面があって、音の正解があるから。

 セリフ劇は国語…作文みたいな感じですかね。読書感想文みたいに、答えがいっぱいある。だから、『ローズのジレンマ』で何点いけるか、どうなるのか、まだ分からないんです。

—同作で大地真央さんとは13年ぶりの共演だとか。

 大地真央さんには17歳の時に「さやは私にタメ口を使いなさい」と言われてから、プライベートで「ママ」「さや」と呼び合っているんです。とはいえ、初めて舞台共演させていただいた『紫式部ものがたり』(06年、08年)は萎縮しちゃって。

 今回は13年ぶりの共演で、さすがにあの時よりは力を抜けるようになったかなと思いますし、今回、真央さんがいらっしゃることがとても心強いです!

—『紫式部ものがたり』は、芸名を「SAYAKA」から「神田沙也加」に変えて芸能活動を再開した最初のお仕事でしたね。

 そうです。ちょうど芸能界をやめようと思っていた時期でした。“普通に働く”ことを知らないまま大人になるのが怖くて、19歳で一旦お仕事をお休みしたんです。

 芸能のお仕事は、自分自身のパフォーマンスが商品となるもので、実感としては得にくいんですよね。

 それで、芸能とはまったく関係のない、飲食店でアルバイトとして働きました。そこが私に合っていて、正社員になってもいいかなと思っていたタイミングで、真央さんが様子を見に、食事に来てくださいました。

 本当に普通のレストランで、私はウェイトレスをしていました。お店が終わるまで待っていてくださったので、その時に、「接客業が好きで合っていると思うし、飲食で人の役に立つ道もあるのかなと思ってます」と話したんです。

 そしたら、「飲食業もいいけど、人生はワンチャンスだから」という話をされて、『紫式部ものがたり』への出演につながっていくんです。そこからは、『キューティ・ブロンド』、『マイ・フェア・レディ』、『アナと雪の女王』など、ターニングポイントになる作品にたくさん出合えました。

 今年で芸能活動20周年ですが、改めて“20年”と聞いても、ポカ~ンとしている感じではあります。

—昨年大みそかの「笑ってはいけない」への出演は驚きました。仕事の幅も広がっていますね。

 毎年、番組を見る側だったので、オファーがあった時は「どういう形で出るのかな」「私が出ておもしろいのかな」と思いましたけど、井上芳雄さんが一緒で安心しました。

 オープニングミュージカルとして、番組趣旨の説明とコロナ対策を呼びかけるという演出でしたが、とにかく「ミュージカルを実現させて去っていかなければ!」という気持ちでした。屋外だったので、土のぬかるみに足を取られそうになりつつも、楽しかったです!

—今後の目標は?

 役としては、“ラスボス”みたいに掲げていたのが『マイ・フェア・レディ』(2018年)のイライザでした。なので、イライザを演じてからは、分からない状況です。「当たり役だね」って言われる役に出合えたらいいなと思います。

 テンションが高くて明るいキャラクターが合っていると思われがちですけど、逆にヒール役が合うかもしれないし。自分に対してマイナスの評価しかできなくなるゾーンに入る時があるので、その時の黒いオーラが出るような、魔法石があったら濁っているような、あのマイナスのオーラを敵意として人にぶつける役とか(笑)。

 「あれを神田がやるのは想像できない」っていう役も、おもしろいかも。「笑ってはいけない」のように、びっくりするようなお仕事をいただいたりもするので、そこに関しては自分で決めなくてもいいかなと。とにかく、ここまで続けてこられたのが奇跡なので、これからも継続していければと思います。

■『ローズのジレンマ』

“ブロードウェイの喜劇王”ニール・サイモンの晩年の傑作。経済危機に瀕(ひん)している大物作家・ローズ(大地真央)が、最愛のパートナーだった作家・ウォルシュ(別所哲也)の亡霊に提案され、助手・アーリーン(神田沙也加)や売れない作家・クランシー(村井良大)と共にウォルシュの未完の遺作を仕上げる中で、残された人生と向かい合っていく様をユーモラスに描いた4人芝居。東京・日比谷シアタークリエで2月6日に開幕。東京公演後は大阪、愛知でも上演される。

【インタビュー後記】

お会いした第一声が「メッセージ、ありがとうございました」で、一瞬何のことだろうと思ったのですが、私がスタッフの方に送った、今回のインタビューについてのメールを見てくださってのことでした。そこに最近の沙也加さんについての感想も添えていたのですが、まさかご本人も見ているとは。このように、終始とても丁寧に、相手のことを考えながら答えてくれたインタビューでした。全体を通しての印象は、プロの仕事をする方。無駄や隙がなく、「ここでやったろ!」という強さも垣間見えます。30代、今まさに脂が乗っているように感じました。ミュージカルスターが4人集まってのストレートプレイ、楽しみです。

■神田沙也加(かんだ・さやか)

1986年10月1日生まれ。東京都出身。2001年にCMで芸能界デビュー。2002年に歌手としてシングル『ever since』をリリース。2004年の初舞台『Into the Woods』から数多くの作品に出演し、透明感ある声と演技力には定評がある。ミュージカル『キューティ・ブロンド』で「第43回菊田一夫演劇賞」を受賞。声優として『アナと雪の女王』のアナ役を担当し、「第9回声優アワード」で主演女優賞を受賞した。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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