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コロナ禍だからこそ…“ミュージカル界の女王”花總まりがコメディー初挑戦

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
新作への思いを語る花總さん(撮影:島田薫)

 花總まりさんといえば、重厚な歴史物でマリー・アントワネットやエリザベートなどを演じている高貴なイメージ。最後は命を落とす役が多く、神経をすり減らす日々だと言います。その花總さんがコロナ禍で久しぶりに立つ舞台が、初めてのコメディーとなる『おかしな二人』です。やること満載で大変な中、初共演となる宝塚の大先輩・大地真央さんの登場で緊張感はマックスに。ミュージカル界の女王が初めて臨むコメディーの現場にお邪魔しました。

―お久しぶりの舞台ですね。

 演劇という生の舞台がまさかこんなになくなる、やってはいけないような世の中が来るなんて思ってもみなかったです。コロナで舞台が中止になった4月、私が出演予定だったのは『エリザベート』でした。宝塚時代から長く演じてきた作品ですが、製作発表では「これが最後だと思ってやります」とあいさつしました。

―『エリザベート』といえば花總さんの代表作。「最後」という言葉がかなり気になっていました。

 どの作品でもまたできるとは限らないので、常にそういう思いでやっていますが、『エリザベート』は次にあるとしても普通は何年後かになります。再演するにしても、だいたい3~4年後。もちろん、自分が次もやらせていただけるとは限らない。私、47歳ですし。そういうサイクルを考えると、普通に考えてもこれがいい機会というか、そういう気持ちで大切に臨もうと思っていたんです。

 公演は4~8月の4ヵ月を予定していましたが、まず稽古が中止になり、あとは段階的になくなっていきました。東京がダメになり、次に大阪、そして名古屋、博多と。ここがダメでも次があると思うから、モチベーションを維持するために、家で発声練習をしてエリザの歌を歌い続けていましたが、さすがに名古屋、博多が中止と聞いた時は、一瞬プチンと音がしました。ちょうど発声をしていた時だったのかな。「え、まさか、えー?本当になくなっちゃうの?」と呆然としました。

 まさに蜘蛛の糸が切れたような感じでした。でもジタバタしてもしょうがないし、考えてもしょうがない。不安に思っても不安を呼ぶだけだから、不安に思うことはやめようと思い直したんです。

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―コロナ禍の不安な気持ちをどう乗り越えたんですか?

 身近にいる人と思いを共有して、何でも話すようにしたり、ゆっくり本を読んだり、体を見つめ直してストレッチやトレーニングをしたりしました。今までは世の中が動いているので、公演がない時でもあれしなきゃこれしなきゃ、次のためにこれをしなきゃ、休んではいけない、と不安な気持ちを大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら動いていました。

 今思えば、常に何かに追われていた気がします。それが、世の中が全部ストップした時に、瞑想というか、自分の考えや心の中をゆっくり見つめることができて、それを繰り返していくうちに日々が静かに過ぎていきました。

 でも、オンライン配信が始まった時は、さすがに「う~ん」と思いました。無観客の映像だけなら舞台ではない。生の舞台にはその日その日のお客様と作る空気感があって、その空気感で演じる側も変わっていくのが良さだったので。

 この先、これが続いたら、もう舞台はいらなくなっちゃうのかなと考えさせられました。もしコロナが収束したら、生の良さをしっかり伝えたい。1回1回を本当に大切に、思いっきり客席に何かを伝える、全力で頑張らなきゃいけないと強く思いました。

―そんな中始まるのが『おかしな二人』。このキャリアにして初めてのコメディーになりますね。

 はい、ストレートプレイ、コメディー、大地真央さんとの共演と、初めてのことばかりです。宝塚はオリジナルミュージカルで、退団してからもその延長でミュージカルが多かったから、実はストレートプレイと言われるミュージカル以外の舞台もコメディーも、今回が初めてなんです。やってみたい気持ちはあったのに、機会がないままで。

―何が大変ですか?

 全部です(笑)。まず、今まで歌っていたところが全てセリフなので、膨大なセリフを覚えるところからです。しかもコメディーだから、テンポというか、相手との“間”が大事。1人で練習していて覚えられたと思っても、人を相手に集中すると、覚えていたものも飛んじゃったり。そのうえ、今回の役は今までになく喜怒哀楽が激しいので、表情というか、顔がぐちゃぐちゃになるくらい感情を全部出してやっています。

 確実に見たことのない私がいます。本当にいいのかな、こんな顔していて…という状態なんですけど、怖いのは、今、マスクをしているから誰も何も言わないこと。そこが心配なんです。実際、舞台に立ったらどう思われるのだろうと今から不安です。

―大地真央さんとは初共演。宝塚の先輩後輩はやはり特別ですか?

 特別だと思います。大地さんとは初めて共演させていただきます。「いつもと様子が違う」「落ち着きがない」と言われますが、しょうがないです。今までごあいさつをしたことはあっても、しっかりお話しする機会はありませんでした。ですので、緊張しています!大地さんが稽古場にいらっしゃる時から、稽古中も、お話ししても、お芝居しても、目を合わせても、なかなか目を見られないのですが、とにかくずっと緊張しています。

 なぜかと聞かれても、私にとっては当然のことです。大地さんは大上級生(59期生)であり、私はめちゃめちゃ下級生(77期生)。大地さんは大スターさんであり、もう雲の上の人です。粗相があってはいけない、私のことでやりづらいということがあってはならない。とにかく失礼がないように心がけています。

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―大地さんはどんな方ですか?

 今、お稽古は動きをつけている段階です。お互いがお互いの役の動きを一生懸命確認しているところなので、まだ皆、自分のことで必死です。そんな中、大地さんが「フローレンス(※花總さんの役名)はこっちの方がいいんじゃない」とか「この方がフローレンスが可愛く見えるんじゃない」という感じでおっしってくださるので、それがすごくうれしいです。

 大地さんはご自分でゆっくり作っていくタイプとおっしゃっていましたが、普通は皆、そこまで余裕がないんです。特に今は自分のセリフ以外は周りが見えていない段階。それなのに、全体を、カンパニーを、物語を作るうえで、誰がどういうふうにして、どう見えたらこの話がまとまっていくのかということを、考えていらっしゃるのはすごいです。

 大地さんはおそらく、いろいろなことをきちんと視界に入れながら、噛み砕いて自分の中に落とし込んでいく。自分ではなく周りを見ながら、全体像を見ながら作っていかれる方なのかなと思います。

■『おかしな二人』

ブロードウェイ随一の喜劇作家ニール・サイモンの代表的コメディー。初演のブロードウェイは8ヵ月のロングランを記録し、映画化・ドラマ化もされ大ヒット。マンハッタンのアパートを舞台に、無精者のオリーブ(大地真央)と几帳面なフローレンス(花總まり)の対照的な2人がそれぞれの幸せを見出すまでの姿を描く。

【インタビュー後記】

花總さんはいつも気高くて落ち着いていて、何かあっても慌てない人だと思っていました。時折見せる笑顔が少女のようで可愛らしいのですが、なかなか奥の部分には届かない。ところが、今回は今まで見たことのない花總さんがいました。今、世の中も変わっていく中で新しいことをやらざるを得ない人もたくさんいます。そんな中、必死で新しい環境で頑張っている姿を見せてくれる彼女に大きな刺激をもらいました。明日も頑張ろう!

■花總まり(はなふさ・まり)

1973年2月28日生まれ。東京都出身。1991年に宝塚歌劇団に入団。1994年の『風と共に去りぬ』新人公演では、娘役でありながら主人公のスカーレット・オハラを演じ、同年、雪組娘役トップスターに就任。1998年に新設された宙組へ組替え。トップスターを12年3ヵ月続けたことは歴代最長記録。“宝塚100年に1人の娘役”と言われながら2006年に退団。代表作は『エリザベート』など。『おかしな二人』(東京・日比谷シアタークリエ、10月8~25日)に出演。東京公演後、大阪公演も行われる。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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