『映画 バクテン!!』黒柳トシマサ監督インタビュー

 2021年4月にフジテレビのノイタミナ枠で放送されたアニメ『バクテン!!』は、男子新体操をテーマにしており、放送当時からかなり話題になった。その『バクテン!!』が今年は映画化され7月2日に公開を迎える。

 今回は、『バクテン!!』の黒柳トシマサ監督に話をうかがった。『バクテン!!』の制作を通してクリエイターの目には男子新体操はどう映っており、どこが魅力だったのだろうか。

~そもそもなぜ男子新体操をテーマにした作品を作ろうと思われたのでしょうか。男子新体操との出会いを聞かせていただけますか。

「発端は、フジテレビの森プロデューサーがリオ五輪の閉会式で青森大学の選手たちのパフォーマンスを見ていたそうで企画会議の時に「男子新体操って知ってます?」と話題にしてきたことです。その時点では、正直、まったく知らなかったんですが、そんなに凄いんだったら一度見てみようかと調べてみたら、一番近い試合が千葉ポートアリーナでの全日本選手権でした。2017年のことです。」

2017年全日本チャンピオン・永井直也選手(当時・青森大学)
2017年全日本チャンピオン・永井直也選手(当時・青森大学)

~2017年! 永井直也選手が優勝した年ですね。小川晃平、臼井優華とのひりひりするような優勝争いの年、それはいきなり凄いものを見ましたね。

「はい。それでもう興奮してしまって。これは凄いぞ! と。このとき一発で永井選手のファンになってしまったので、アニメ『バクテン!!』のMVを永井さんにお願いできたのは本当に嬉しかったです。」

~それをきっかけにアニメを制作されることになったんですか?

「そうですね。その後、荒川栄先生(当時・青森山田高校監督)に連絡をとっていろいろな話を聞かせていただき、アニメの構想が進んでいきました。」

~アニメが大好評となり、映画化となったわけですが、すでに試写会や先行上映を観た人たちの間ではかなり高く評価されています。とくにその「リアルさ」が刺さったという感想が多いのですが、アニメーションを駆使すればどんな描き方も可能な中で、これほどリアルな描写にされたのはなぜなんでしょうか

「ぼくらが『バクテン!!』で描きたかったのは、男子新体操に出会った子どもたちの変化だったんです。アニメ、映画の制作過程でお会いした男子新体操の選手たちは、みんな今どき珍しいくらいにまっすぐな好青年でした。だから、それをそのまま描きたいと思いましたし、そうすることで「男子新体操っていいな」とより多くの人に感じてもらい、広まっていくことにつながればいいな、という思いがありました。」

~なるほど。フィクションならではの大技や恋愛や登場人物の過去など、大筋以外のものがほとんど入り込んでこない作りは、現実の男子新体操や選手たちをたくさん見てこられた結果の選択なんですね。

「実際に会った選手たちがほぼ「男子新体操に恋してる」感じで、恋愛が入り込む余地を感じなかったので。とにかく「男子新体操にまっすぐに向かっていく」という生の選手たちの持っている空気を大事にしたいと考えました。」

~アニメは、アオ高がインターハイ出場を決めたところで終わっているので、映画では当然「インターハイに向けてのアオ高」が描かれ、インターハイがクライマックスなんだろうと予想した人が多いと思いますが、ちょっと違っていましたよね。これ、ネタバレですか? 大丈夫?

「大丈夫です。実際、インターハイの話を期待して観にきてもらうと、あれれ? となる可能性もあるのでそこは隠してないです。ぼくらも2019年のインターハイを観に行ったんですが、それはもう素晴らしくてすごく興奮しましたが、でも、現実はインターハイがゴールではないし、すべてではないとも感じました。映画の制作にあたっては、インターハイそのものを描くかその後も含めるか検討しましたが、スタッフの間でもやはりその後を描いたほうがいいという意見が多かったです。」

2019年インターハイ団体優勝校・井原高校(岡山県)
2019年インターハイ団体優勝校・井原高校(岡山県)

~2019年のインターハイ! 井原と青森山田の激闘の年ですね。青森山田も素晴らしかったけど、井原が伝説級の演技で勝ったあの年のインターハイを見てらっしゃるんですね。男子新体操に限らず、女子の新体操や他の競技の人たちから見ても、その「インターハイの後も人生は続いていく」感じがとても「リアル」だったと言われています。また、アオ高の監督を務めている志田先生の選択も、かなりリアルだったと思うのですが。

「志田先生に関しては、やはりもっと掘り下げたいという思いがぼくらにもあって。男子新体操って関わっている人達がみんな繋がっている感じがしたんです。横にも縦にも繋がっている。志田先生がいたから翔太郎たちもいるし、その先も繋がっていく。そしてその繋がりこそが『バクテン!!』でいちばん描きたかったことなんです。志田先生の選択はわがままにも映りかねないけれど、だからこそ男子新体操は繋がっていくんだな、と感じさせるものにしたいと思いました。」

~「繋がっていく」その思いが、クライマックスに込められていたように感じます。たしかに男子新体操は競技人口の少なさゆえか関係性が濃いと感じていました。とくにキッズやジュニア選手などに対して温かいんです。せっかく男子新体操に出会って選んでくれた子たちを歓迎する、見守る雰囲気があると思います。

「そうですよね。だから高校から始めた翔太郎も成長できたし、男子新体操に夢中になっていきました。『バクテン!!』で描きたかったのは、アオ高がミラクルを起こしてインターハイ優勝! とかそういうドラマではなく、男子新体操を通して翔太郎や他の選手たちが変化していく様だったんですよね。」

2019年インターハイ団体準優勝校・青森山田高校(青森県)
2019年インターハイ団体準優勝校・青森山田高校(青森県)

~私は、長く新体操を見ていますが、選手たちは本当に競技生活を通してかなり変わりますし、成長します。とくに立場が変わると大きく変わる。そのあたりも映画ではリアルに描かれていたように感じます。

「2017年の全日本選手権も凄かったですが、ぼくらは2018年の全日本選手権も観に行ったんです。2017年のトップ争いを演じた永井選手や小川選手が抜けてどうなるかと思えば、それでもやっぱり素晴らしい演技がたくさん見られたし、熱い試合でした。男子新体操って一度見れば絶対に面白さや凄さがわかるし、フィギュアスケートにも劣らないものがあって、まだまだいける! と感じています。『バクテン!!』で描かれている世界は、現実よりは少し男子新体操がメジャーな設定になっていて、大会で照明があったり、地方大会でも観客が多いし、出場チームも多い。このへんは、そうなったらいいなという願いがこめられています。」

2018年全日本チャンピオン・福永将司選手(当時・国士舘大学)
2018年全日本チャンピオン・福永将司選手(当時・国士舘大学)

~2018年は福永将司選手と川東拓斗選手の国士舘大学対決の年ですね。この年も僅差の優勝争いでしたし、まったくタイプの違う選手同士の手に汗握る戦いでした。『バクテン!!』効果で大会を観に行きたいという人は増えている実感はありますが、コロナ禍で無観客開催や入場制限が続いているので、男子新体操を生観戦する機会が極端に少なくなっているのが本当にもったいないです。

「そうですね。ぼくらも試合会場により多くの人が足を運ぶようになってほしいというのが一番の願いなので、早く誰でも観戦できる日がくるといいですよね。」

~『バクテン!!』は、ストーリーのリアリティーはもちろんのこと、作画のリアリティー、クオリティーの高さが話題です。これは実際の男子新体操選手たちを使ってのモーションキャプチャーの威力なのでしょうか。

「もちろん、モーションキャプチャーの力は大きいですが、それだけでは細かい部分までは描き切れないんです。たとえば指先の動きなどは、作画スタッフが描いています。また、音にもすごくこだわって男子新体操のクラブチームに協力いただき、間近で音を録らせてもらいました。企画し始めたときから数えると5年近く男子新体操に関わってきて、とにかくリアルな彼らが一番なのでそれを描き切るためにできるだけのことはしてきたつもりです。」

~指先の動きはとくにリアルだなと感じていましたが、そこは作画なんですね。つまりそれだけたくさん男子新体操を見て、研究してこられたということを感じて改めて感動しています。

 いよいよ今日。映画公開となりますが、最後にメッセージをいただけますか。

「できるだけたくさんの人に映画を観ていただき、その中から男子新体操の試合会場に足を運ぶ人や、男子新体操をやってみたいと思う人が出てくること、それがぼくらの願いです。男子新体操の魅力をまずは映画で感じ取ってもらいたいと思います。」

※『バクテン!!』を観て、男子新体操に興味をもった方はぜひこちらのサイトをご覧ください。男子新体操の歴史を知ることができます。

<写真提供:清水綾子>