12月13日、体操競技男子強化本部長・水鳥寿思氏による記者会見が行われた。その様子はYouTubeでも公開されている。
今年開催された東京五輪でも、体操競技の男子は団体銀メダル、個人では総合と鉄棒で橋本大輝選手が金メダル、あん馬で萱和磨選手が銅メダル獲得と大健闘した。そのおかげで、男子代表選手たちをテレビや雑誌などのメディアで見ることも増えてはきたが、「4年に一度の五輪でメダル獲得」したところで、メジャーとは言い切れない程度の人気。それが体操の現状だ。
競技成績では抜きん出ている体操男子でさえ、そうなのだから、体操女子や新体操、さらにはトランポリン、男子新体操なども十分な魅力がありながら、フィギュアスケートのような「見るスポーツ」としての人気を獲得できずにいる。
その原因のひとつが、「競技会以外に見る機会がないこと」のように思う。選手たちの真剣さ、迫力は競技会に勝るものはないのだが、「ちょっと見てみたい」と思う人たちにはどうしてもハードルが高い。
体操競技の競技会は、いくつもの種目が同時進行するため(最大10種目)観戦慣れしていない人にとっては「いつどこで誰が演技しているのか」すら分かりにくい。お目当ての選手の演技がすでに終わっていた、なんてことも普通に起きる。
新体操は、とにかく試合時間が長い。10時に始まり、18時、19時までかかることも珍しくない。
そして、なんと言ってもルールがわかりにくい。一般人の目には「みんな凄い!」のに、落下や場外など素人目にもわかるミス以外にもたくさんの減点ポイントがあり、なぜその点数になるのか理解しにくいのだ。
そして、もうひとつ。
体操選手、新体操選手らは、凄まじいまでの身体能力をもっていると同時に本来は表現力も磨いている。が、競技の中ではその表現力を十分に発揮しきれていないことが多いのだ。勝負がかかっている以上は、少しでも加点はほしいし、減点は防ぎたい。曲や感情を表現することに注力しすぎては「勝てない」からだ。
フィギュアスケートは、おそらく芸術スポーツと言われるものの中ではもっとも表現力や芸術性が評価に占める部分が大きい(それでも技術>芸術性になりがちでよく議論は起きているが)。だから、あれほど「見るスポーツ」としての人気を獲得し、ファンが多いのではないかと思う。
そして、そんなフィギュアスケートの魅力を多くの人に浸透させるうえで大きな役目を果たしたのが、各競技会の最終日に行われるエキシビションやアイスショーではないかと思う。私も子どものころ、フィギュアスケートをテレビで見るのが大好きだったが、とくに好きだったのはエキシビションだった。試合は見なくてもエキシビションだけは見るくらい、その華やかさに夢中だった。
体操競技や新体操を長く見てきた。その素晴らしさはよくわかっているつもりだ。だからこそ、体操、新体操もフィギュアスケートのように、もっと多くの人に見てもらえる機会がほしい、見てもらえばきっともっと多くの人が好きになってくれるはずだと思っていた。
それが、やっと今、実現しそうだ。
しかも、指揮を執っているのが体操競技の男子強化本部長だ。これは期待するなというほうが無理だ。
「エンタメ化」を進める上で必ず問題になるのが「競技との両立」だ。「エンタメ化」することが、競技力向上への邁進の妨げになる、あるいは引退した選手が指導現場ではなくエンタメの道に進むことが増えてしまう、などの危惧があったように思う。
しかし、そんなことを言ってる場合ではないのが今だ。
まずは「体操の魅力」に触れてもらわなければ、やろうとする子ども、やらせようとする親も増えない。テレビ放送やネット配信しても見る人も増えない。メディアにも取り上げられない。そんなスポーツに未来はない。
強化本部長というもっとも「エンタメ化」からは遠いところにいそうな水鳥氏が立ち上がったのだ。これは本気だ。
そして、予定されている出演者を見れば、白井健三、田中理恵、寺本明日香、芦川うらら、杉本早裕吏、松原梨恵、横田葵子、熨斗谷さくら、国井麻緒とオリンピアンの名前がずらりと並ぶ。水鳥氏の本気が彼ら、彼女らを動かしたのだろう。
まずは、2月20日の公演におおいに期待したいが、本当に期待したいのはその後だ。単発のイベントで終わることなく、その先も折にふれ、こういったイベントを開催し、体操競技だけでなく、新体操も男子新体操もトランポリンも、アクロ体操も! 自らの体を鍛え、技を磨いてきた人たちの輝ける場を増やし、体操全般の普及につなげてほしい。見てもらう機会さえあれば、見る人を魅了できるそれだけの力をジムナストたちはもっているのだから。
すでにチケット先行販売は始まっており、1月5日まで申し込み可能だ。
体操の新しい世界の扉が開く瞬間をお見逃しなく!