私が鹿屋体育大学に取材で行くようになったのは、現在、セントラルスポーツに所属する前野風哉選手が在籍していた2017年からだ。前野選手にとっては大学生最後の年となる2018年、ピカピカのルーキーとして鹿屋にやってきたのが藤巻竣平選手。前年にはインターハイで団体優勝を成し遂げた埼玉栄高校から「期待の新人」として入学してきた。

2018全日本インカレでの藤巻選手
2018全日本インカレでの藤巻選手

2018年の全日本インカレではいきなり団体メンバー入りすると、個人総合21位。鹿屋体育大学の団体3位にもおおいに貢献し、期待に応えた。

しかし、その後、2019年には試練が訪れる。

4月に行われた全日本選手権では60位で予選落ち。全日本インカレでも個人総合33位。団体も5位に終わり、まさに「2年目のジンクス」を体現するような年となってしまった。

2019年3月、卒業目前の前野風哉選手と杉野正尭選手(当時2年)と藤巻選手
2019年3月、卒業目前の前野風哉選手と杉野正尭選手(当時2年)と藤巻選手

そして、巻き返しを図るはずだった2020年は、4月の全日本選手権が延期、例年なら8月に行われる全日本インカレは9月に延期された。

どの選手にとっても、このイレギュラーなシーズンの調整は難しかったはずだが、藤巻はこの「なかなか試合がなかった半年間」を非常にうまく使った。

「2019年は練習も試合もうまくいっていなかったが、今年になってコンスタントにいい練習を積めるようになってきたことが自信になった。中止や延期になった試合が多かったこともかえって“早く試合がしたいな”という気持ちに繋がったと思う。」と彼は言った。

目の前に試合がないとモチベーションを保つのが難しい選手もいるかと思うが、藤巻はその期間を使って着実にD得点の底上げをしてきた。そして、それが良い結果につながった。

2020年秋の藤巻選手
2020年秋の藤巻選手

全日本インカレでは個人総合9位。団体でも、鹿屋体育大学は史上初の準優勝に輝いた。このときは、1学年上に杉野正尭(現在・徳洲会体操クラブ/鹿屋体育大学大学院)がおり、チームとしてものりにのっていた。1年前には苦杯をなめた全日本インカレだったが、藤巻もしっかりここに間に合わせてきた。

さらに、新型コロナにより12月に延期された全日本選手権では21位と、先輩である杉野の23位を上回る活躍を見せた

2021年6月の藤巻選手
2021年6月の藤巻選手

2021年4月には、東京五輪代表を懸けた全日本選手権が開催されたが、ここでも藤巻は個人総合17位。代表には届かないが、大学生の中では5位にあたる成績をおさめ、全日本インカレでは個人総合5位となる。鹿屋体育大学も2年連続団体準優勝。2年目こそややブレーキがかかったが、大学4年間で着実に進化し続けてきた選手だ。

内村航平の例を出すまでもなく、このところ体操競技の選手寿命は長くなりつつある。今夏の東京五輪で代表として活躍した萱和磨、谷川航も「五輪代表」に名を連ねたのは社会人になってからだ。現在の大学生たち、藤巻竣平にも「パリ五輪での代表入り」の可能性はおおいにあると言えるだろう。

来年3月には大学を卒業する藤巻も、すでに徳洲会体操クラブ入りが内定している。この4年間での成長を礎に、さらに世界で活躍するような選手になっていくことを期待したい。

藤巻選手はもちろん、素質にも恵まれてはいると思うが、それだけではない。前野風哉、杉野正尭という先輩たちがいて、上り調子だった時期の鹿屋体育大学に在籍していたこと。とくに今年の代表選考レースで凄まじいまでのごぼう抜きを演じ、代表まであと一歩にまで迫った杉野とは3年間共に過ごしてきたこと、など。非常に巡りあわせに恵まれている選手だな、と感じるのだ。いわば「運」をもっている。そして、それは得難い才能だ。

日本の体操、それも男子体操は、大学を卒業してからも選手たちが成長を続ける。だからこそ世界と伍して戦えるのだ。

藤巻選手にもその一角を担える日がくることを期待しつつ、彼が大学での仲間たちと一緒に「団体日本一」を目指して戦う最後の全日本団体をしっかり見届けたいと思う。

また、今大会は、テレビ放映はないが、インターネット配信が行われる。

東京五輪個人チャンピオンの橋本大輝選手を擁する順天堂大学、萱和磨選手、谷川航選手を擁するセントラルスポーツ、北薗丈琉選手を擁する徳洲会体操クラブの熱戦の行方とともに、チャレンジャー・鹿屋体育大学と藤巻選手にもぜひ注目してほしい。

配信は男子1班11:10~、男子2班16:40~。

※演技順などは、日本体操協会ホームページにて確認できます。

※ インターネット配信はこちら。