リオ五輪金メダルメンバーが1人もいない。

平均年齢21.5歳。

全員が五輪初出場。

そんな日本チームは、ベテラン揃いのROCや中国と並ぶと、かなり若く見えた。

それでも団体予選は1位通過。金メダルをとったリオ五輪の時でさえ、予選は4位通過だったことを思えば、その若さは決して悪いほうには出ていなかったと思う。

ただ、1位通過といえど予選も僅差。そして、予選ではROC、中国は1班で朝早い試技だったため、今ひとつ本調子ではない様子も見受けられたため、決勝は厳しい勝負になるだろうことは予想されていた。

しかし。まさかここまでの接戦になるとは。

そして、こんなにも劇的な展開になるとは。

男子団体決勝は、予想をはるかに超えた名勝負となった。

予選1位通過の日本と2位通過の中国は、同じ班でいわゆる正ローテーション(ゆかで始まり鉄棒で終わる)。しかも、今大会は、両国の選手が交互に演技を行うことになっており、嫌でもお互いの演技が見える。得点もわかってしまう。

それだけに、自分の演技に雑念なく集中することが難しい試合だったと思う。

1ローテ。

日本のゆかは、北園、橋本の10代コンビが共に14.600という素晴らしいスタートを切り、谷川航も代名詞の着ピタを連発し14.500。中国は、着地でいくらかの乱れがあり、チーム得点42.132、日本は43.700と、1位スタートを切ったが、1種目目がミスのでやすいあん馬だったROCが、3選手ともあん馬をまとめ43.140と、この時点で日本と中国の間に入ってきた。

2ローテ。

ロシアは、得意種目のつり輪で、チーム得点44.399をたたき出す。

日本と中国も、落下の怖さのあるあん馬を全員が大きなミスなく通す。とくに中国のZOU14.800、SUN15.000とつま先まで伸びた美しいあん馬で、萱、橋本を少しずつ上回る。結果、あん馬では中国が43.966、日本が43.566とわずかに中国が日本を上回り、チーム得点の差を1.168までつめる。しかし、この時点でつり輪で得点を稼いだROCがチーム得点を87.539とし、日本に0.273差をつけてトップに躍り出た。

3ローテ。

日本にとってはいちばんの我慢の種目・つり輪だったが、萱、谷川、橋本ともに出し得る限りの演技を見せ、チーム得点42.433とつり輪としてはまずまずのチーム得点をマーク。日本よりはつり輪にはアドバンテージのある中国は、43.599をマークし、ここで日本との差を0.002までつめた。

が、このときROCは、高得点の出やすい跳馬で44.765をたたき出しており、日本との差を2.605まで広げ、日本、中国には跳馬での追い上げが必須となった。

4ローテ。

D6.0の跳躍をもつ谷川、橋本を擁する日本にとっては勝負の跳馬だった。

そして、谷川は予選でのミスを払拭する「リセガン2」をこれ以上はないほどの実施で行い15.233と期待に応え、ヨー2を跳んだ北園、D6.0 のヨネクラを回避しロペスを跳んだ橋本もしっかりと跳躍をまとめたが、中国は全員がロペスを完璧に近く実施で行い、跳馬でのチーム得点は中国が44.332、日本が44.232。この時点で、中国が日本を逆転し、ROC⇒中国⇒日本の順となり、ROCと中国の差は3.374、中国と日本の差は0.098。

5ローテ。

日本と中国は平行棒を行うが、この種目、中国には16点台を出せる「平行棒の神・ZOU」がいる。日本としては、ここで中国に引き離されないこと、さらにはトップを走るROCは、得点が出にくい鉄棒のため、ROCとの差もつめておきたいところだった。

日本の先鋒・萱はここで15.000をマークする会心の演技。中国のSUNも脚のラインの美しさが際立つ演技を見せるが着地がわずかに動き、14.800。

元気な挨拶の後に始まった北園の演技は、幼いころにバレエを習っていたという基礎に裏打ちされた体線の美しさをいかんなく発揮した演技で、15.000。

XIAOも、着地までピタリと止める演技で14.933。と素晴らしい演技の応酬で、この時点で日本が中国を逆転していた。

しかし、中国のトリにはZOUがいるため、再度逆転を許すだろうことは想定内ではあった。平行棒での日本の最終演技者・谷川もていねいに演技をまとめていたが、着地で片足を一歩引いて14.666。しかし、ZOUも演技中に2か所ほど動きに停滞があり、いつも通りの演技とはいかず15.466とZOUの平行棒としては低めの得点にとどまった。平行棒での中国の得点は、45.199、日本は44.666。鉄棒でのROCのチーム得点は42.465にとどまったため、最終種目を前に、暫定首位はROC、

0.64差で2位に中国、さらに0.631差で日本が続くという息づまる展開となった。

6ローテ。

ロシアの最終種目は「ゆか」のため着地が多く、減点は多くなりがちな種目。とくにメンバーの一人・DALALOYANは、3か月前にアキレス腱の怪我をしており、東京五輪は絶望と思われるところから奇跡の復活を遂げた選手だったため、100%の演技をすることは難しいのではないかと予想されてた。

日本と中国が挑む「鉄棒」は、日本にとっては得意種目ではあるが、落下すれば大きな減点となる怖さのある種目だ。ここまでの接戦で力を出しきることは、五輪経験のない若い選手たちにはかなり困難なのではないかと思われた。

1番手。

中国のSUNは鉄棒でも美しい線を見せ、着地も決めて14.200。

萱は、着地で後ろに一歩下がったものの手放し技などは安定感のある実施で14.200。

ゆかではABLIAZINが両足のラインオーバーで減点0.3があり、13.900。

中国、日本はそろってロシアに一歩迫った。

2番手。

XIAOは、着地までしっかりと止め、14.333。

北園は、カッシーナ、コールマンなどの高難度の手放し技も見事に決め、着地は1 歩動いたものの14.500。

そして、ロシアは脚に不安を抱えるDALALOYANが登場。難度をやや落としての演技だったというが、両足ラインオーバーの減点0.3がありながらも14.066と踏ん張る。この時点での順位は、ROCが首位。それを中国が0.073差、日本が0.537差で追うという、どこが勝ってもおかしくない接戦だった。

そして迎えた最終演技。

中国のLINは、気迫のこもった演技だったが着地で後ろに一歩動き、14.133。

日本のトリ・橋本は、14.597を出せば、まず中国は逆転できるという状態で鉄棒に向かった。これは、橋本にとっては大過失がなければ十分可能な点数だったが、ROCとの得点差を考えれば、少しでも高い得点を出してプレッシャーをかけておきたいところだ。

しかし、橋本はこのとき「メダルの色は気にせず、自分の今できる演技をしようと決めていた。」と、競技終了後のインタビューで語った。

そう思ってもなかなかできることではない。

なにしろ、初めての五輪。そして、自分の演技次第でメダルの色は銀にも金にもあるいは銅になってしまう可能性だってあったのだ。

それでも、橋本の演技はどこまでも雄大で、美しく、落ち着いて見えた。最後の着地に入るとき、「決めてくれ」と祈りながらも、「きっと大丈夫」と思わせる勢いがあった。

そして。

橋本の着地は、吸い込まれるように決まり、微動だにしなかった。真上から降りてくるような着地には、誰もが知っている名場面、アテネ五輪での冨田選手の「栄光の架け橋」を彷彿とさせるものがあった。

得点15.100をたたきだし、中国を逆転。最後に残ったROCのNAGORNYYの演技には、金メダルのためには14.563以上が必要となった。

この男子団体決勝のゆかでそこまでの最高得点は、橋本、北園、XIAOが出していた14.600。すでに演技を終えたROCの2選手が続けてラインオーバーを犯していたこともあり、この最大級のプレッシャーの中で完璧に近い演技が果たしてできるのか。それは、どんな選手にとってもかなり難しいようにも思えた。

しかし、NAGORNYYは、そのプレッシャーに負けなかった。

途中で予定とは違ってしまったところも、演技中で見事に修正し、0.1でも高い得点をという執念の演技をまとめきった。得点が出るまでの時間、ROCの選手たちは肩を抱き合い、祈るように得点掲示を見つめていた。泣いている選手もいた。

「頼む。出てくれ!」

そんな彼らの祈りが聞こえてくるような時間があり、そして。

14.666

という得点が表示され、ROCの金メダルが確定した。

日本との差は、わずか0.103。

日本の18演技には大きなミスはなかったが、終わってみればこの点差であれば、「あのときこうだったら」と思う箇所はいくつもあっただろう。それだけに、悔しい思いもあると思う。

それでも。

2018、2019年の世界選手権では団体銅メダル。

それも、ROC、中国の背中はかなり遠くになりつつあったあの状況から、よくここまで力をつけた。そして、初めての五輪というどれだけ緊張してもおかしくない舞台で、ほぼ力を出し切ることができた。「値千金の銀メダル」だと思う。

なによりも、金メダルを争ったROC、中国にも大きなミスがなくかつてないハイレベルな団体決勝となった中での銀メダルだ。誇っていい。

そして、この借りを返すチャンスは、3年後。

もう目の前に迫っている。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】