そんな疑問がずっと頭から離れなかった東京五輪だが、昨日(23日)ついに、開会式が行われ、体操競技では、本日(24日)から男子団体予選が行われ、日本は14:25分から始まる第2グループで平行棒から演技が始まる。日本にとって強力なライバルとなることが予想される中国、ロシアは、第1グループ、ドイツ、アメリカは第3グループで登場する。

今回の五輪の代表メンバーは、橋本大輝、萱和磨、谷川航、北園丈琉の4名で、リオ五輪で団体総合優勝したときの選手は一人もいない(萱選手がリオでは補欠)。おまけに橋本、北園両選手はまだ10代、北園選手は、ユース五輪で優勝もしている実績のある選手ではあるが、世界選手権にさえまだ出たことがない。

体操競技は五輪くらいしか見ない人ならば、「これで日本は大丈夫なの?」と思うかもしれない。「内村選手や白井選手抜きで戦えるの?」と。

しかし、ここにきて「日本体操史上最強、団体金もいける!」という声もメディアが伝え始めた。五輪の1年延期を最大限に生かした若手2人の伸びが著しく、団体金、さらには個人総合での金メダルも期待できるというのだ。たしかに、橋本選手のDスコアの高さ、五輪の3か月前に絶体絶命の怪我をしながらも、驚異の回復を見せた北園選手の勝負強さを見ると、それもあながち夢ではないかも、と思えてくる。

一方で、このチームの中では「ベテラン」と呼ばれることになる2人、萱和磨と谷川航がここまで積み重ねてきた経験と「五輪に対する強い思い」も、日本にとっては大きな力になると思う、いや思いたい。

五輪の事前番組で再三フューチャーされているが、萱選手は、2016リオ五輪のときに補欠だった。遠いリオまで帯同し、直前まではおそらく同じように練習し、本番が始まれば観客席から見ていることしかできなかった。団体総合優勝が決まった瞬間の「歓喜」にはほど遠い表情に、あのときの彼の思いがにじみ出ていた。

リオ五輪には、萱、谷川とは同級生で幼い頃から競ってきた白井健三が出場しており、団体金メダルにおおいに貢献していた。このときに嫌というほど味わっただろうその「悔しさ」がその後の5年間の彼らの原動力になっていたことは間違いない。

2010年から体操競技の取材をしていた私が、彼らの存在を初めて意識したのは2013年のインターハイだった。このとき、すでに白井健三は世界選手権への出場を決めており、大注目選手だった。しかし、このころの白井は、ゆか、跳馬だけに特化した選手であり、インターハイでより目立っていたのは、オールラウンダーとしてすでに実力を発揮していた谷川航や萱和磨だった。

2013年国際ジュニア優勝時の萱和磨
2013年国際ジュニア優勝時の萱和磨

●2013年インターハイ個人総合 谷川航(2位)、萱和磨(3位)

●2013年全日本ジュニア個人総合 萱和磨(2位)、谷川航(5位)

●2013年国際ジュニア個人総合 萱和磨(優勝)、谷川航(2位)

彼らにとっては高校最後の年となった2014年、谷川航は、全日本選手権からNHK杯に駒を進めている。さらに、インターハイでは優勝。

●2014年NHK杯 谷川航(24位)

●2014年インターハイ個人総合 谷川航(優勝)、萱和磨(3位)

2014全日本ジュニアでの谷川航
2014全日本ジュニアでの谷川航

●2014年全日本ジュニア 萱和磨(白井健三と同点優勝)、谷川航(4位)

2014全日本ジュニアでの谷川航
2014全日本ジュニアでの谷川航

2015年には、2人そろって順天堂大に進学。春先のNHK杯で、萱が大躍進を見せる。

●2015年NHK杯 萱和磨(8位)、谷川航(20位)

●2015年全日本インカレ 萱和磨(2位)、谷川航(6位)

2015全日本インカレ表彰式
2015全日本インカレ表彰式

そして、リオ五輪代表のかかった2016年のNHK杯でも萱は大健闘し、代表こそは逃したが、帯同補欠という得難い経験をすることになる。

●2016年NHK杯 萱和磨(6位)、谷川航(10位)

2016種目別選手権での谷川航
2016種目別選手権での谷川航

●2016年全日本インカレ 萱和磨(3位)、谷川航(4位)

2016全日本種目別での萱和磨
2016全日本種目別での萱和磨

2020年に控える東京五輪への1年目となる2017年。

春先のNHK杯では、2人とも珍しくやや順位を落としたが、全日本インカレでは優勝こそ白井健三にゆずったものの、2位、3位につける。

●2017年NHK杯 谷川航(5位)、萱和磨(9位)

●2017年全日本インカレ 萱和磨(2位)、谷川航(3位)

2017種目別選手権での萱和磨
2017種目別選手権での萱和磨

2018、2019年は、2人揃って世界選手権代表入り。リオ五輪後の日本は、内村航平、白井健三ら、リオメンバーが不振に陥っていた。そして、この頃から、ライバルである中国、ロシアとの差が開き始め、「東京五輪での団体金は難しい」という悲観的な声も出始めていたが、その時期を彼らは間違いなく支え、牽引してきた。

2019年には、順天堂大を卒業し、そろってセントラルスポーツ入りし、「2020東京五輪」に向けて着々と準備を進めていたと言るだろう。

●2018年NHK杯 萱和磨(3位)、谷川航(5位)

●2018年全日本インカレ 萱和磨(2位)、谷川航(12位)

●2019年NHK杯 谷川航(2位)、萱和磨(3位)

●2019年全日本シニア 萱和磨(優勝)、谷川航(2位)

 2019全日本選手権での萱和磨
 2019全日本選手権での萱和磨

2019全日本選手権での谷川航
2019全日本選手権での谷川航

しかし、2020年の東京五輪は、まさかの延期。

そして、この1年間で橋本、北園ら下の世代からの激しい追い上げを受けることになった。高校時代から、かなり現実的な目標に見えていた「東京五輪出場」は、彼らにとってはほぼ手中にしているようでありがら、儚くその手からしまいそうな、そんな可能性もあった。

●2020年全日本シニア 萱和磨(優勝)、谷川航(2位) 

●2020年全日本選手権 萱和磨(優勝)、谷川航(3位)

それでも。2021年4月~6月の代表選考レースを、2人は見事に勝ち抜いた。

そこから五輪当日までも、「本当にできるのか?」と不安になった日もあったのではないかと思うが、とうとう「その日」は来たのだ。

リオ五輪に続いての「団体金メダル」にも期待はしたい。

橋本、北園の10代コンビの活躍も楽しみだ。

でも、それ以上に。

高校生のころから、ずっと「まだまだ」「もっともっと」と上を見続け、悔しい思いを何度もし、それでも自らを鼓舞して、体操にしがみつき、この日を迎えた彼ら。

最強世代「96年組」のみんなの思いものせて、萱和磨と谷川航が、「東京五輪」という舞台で躍動する姿が見たい。そう思っている。

<写真提供/Gymlove>