【男子新体操】アニメ「バクテン!!」に心ふるえた人、必見!~2019年全日本男子TOP10②

2019年全日本新体操選手権男子個人総合1~5位の選手たち

 アニメ「バクテン!!」の人気は上々のようだが、それがそのまま「男子新体操」人気につながるかといえば、そう簡単なものではない。競技人口も1500人弱と多くないうえ、選手寿命も短い。続けても大学生まで、大学を卒業したら引退する選手がほとんど。そんなスポーツに未来はないと、10年前に某雑誌の編集長に言われたことを思い出す。

 プロのある野球やサッカーはもちろん、このところ、水泳や陸上でも社会人選手の活躍には目を見張るものがある。男子以上に選手寿命が短いと思われていた女子の新体操でさえ現在の日本代表選手の多くが社会人選手だ。やれる環境があれば、きっと男子も20代の間くらいは十分競技を続けられるんじゃないか。そのくらいまでやれば、22歳で見せた「自己最高」を超えられる選手も多いんじゃないか。2019年の全日本選手権TOP5の顔ぶれを見ていてそう思った。この5人の中で、今も現役なのは5位の向山蒼斗だけだ。(注:堀孝輔選手は引退を明言はしていないので、もしかしたら? と期待はしているのだが)

 ほんの1年半前にはこんな素晴らしい演技を見せてくれた選手たちが、もうフロアに立つことはないんだろうな、と思うとちょっとせつない。そして、できれば社会人になって何年かは競技を続けられるような、そんなスポーツになってくれれば、と思わずにはいられない。

2019全日本新体操選手権男子個人総合5位:向山蒼斗(国士舘大学/当時1年)
2019全日本新体操選手権男子個人総合5位:向山蒼斗(国士舘大学/当時1年)

 この年5位に入った向山は、2018年のインターハイチャンピオン。大学ルーキーイヤーにして全日本5位は大健闘だったが、さもありなんと思わせるだけの安定感がこの年の向山にはあった。高難度演技にもかかわらずミスする気がしなかった。聞くところによるとこの年は、高校時代の演技からほとんど変えていなかったとのこと。しかも、優勝候補に名前が挙がるようになっていた高校時代と違って、大学1年生は思い切りやるだけでいい。その結果が、見ていても「ミスする気がしない演技」だったし、おそらく本人もそう感じていたのではないか、そのくらい完成度が高かった。表現力で魅せる! というタイプではなく、淡々と演技をこなしていく印象だが、彼の演技構成にはそのスタイルがよく似合っている。職人肌の選手だ。

2019全日本新体操選手権男子個人総合4位:城市拓人(青森大学/当時4位)
2019全日本新体操選手権男子個人総合4位:城市拓人(青森大学/当時4位)

 2019年の城市拓人は強かった。全日本インカレでは個人総合2位。同朋である安藤梨友をかなり追い詰めた見事な準優勝だった。「次こそは勝つ!」という意気込みで迎えただろう全日本選手権での4位は、彼にとっては悔しい結果だったかもしれないが、2018年は全日本インカレも全日本選手権も11位だったことを思えば、大躍進の年だったと言えるだろう。高校時代から「未完の大器」という見方をされてきた。ノーミスで通った演技の評価は高かったが、個人総合で結果を出すためには4種ノーミスが求められるが、それがなかなかできなかった。そんな選手が、この2019年は全日本インカレで4種ノーミスをやってのけた、そして結果もついてきた。「ミスしなければ自分の新体操は評価される」という確信をもった彼は、一回り強くなった。2019年の全日本でもその「強くなった姿」を見せてくれる。

2019全日本新体操選手権男子個人総合3位:堀孝輔(同志社大学/当時3年)
2019全日本新体操選手権男子個人総合3位:堀孝輔(同志社大学/当時3年)

 この年の全日本インカレでは5位。しかし、この全日本選手権では3位にまで順位を上げてみせた。思い返せば、2017年。大学1年生のとき、堀の全日本選手権での順位は6位だった。高校2年のときにはインターハイ優勝もしている力のある選手とはいえ、練習環境が十分とはいえない同志社大学に進学したことで、これ以上の成長は難しいのではないかと見るむきも多かった中での6位は、「同志社にいても自分はやる!」という宣言のようだった。2018年の全日本選手権では4位、そして2019年は3位。専用の体育館もフロアマットもない環境で練習している選手が、年々順位を上げていくなんて、誰が想像していただろう。それも年を重ねるごとに、手具操作の難易度は上がり、課題と言われていた表現力も凄みを増してきていた。この年の堀孝輔の演技には「あと1年でどこまでいくのか?」と楽しみにせずにはいられないものがある。

2019全日本新体操選手権男子個人総合2位:安藤梨友(青森大学/当時3年)
2019全日本新体操選手権男子個人総合2位:安藤梨友(青森大学/当時3年)

 この年、まだ大学3年生ではあったが、この年も、彼が全日本選手権のタイトルを獲れなかったことを意外に思った人も多かったと思う。2019年の全日本インカレチャンピオン。ジュニア~高校時代の無敵っぷりを思えば、そろそろ全日本チャンピオンになっても誰も驚かなかったのだが、個人総合ではスティックだけ1位で、あとの種目ですべて川東拓斗の後塵を拝した。のちに安藤は「2019年の全日本では川東さんの気迫に負けた。勝つだけのことをやってきたという堂々とした雰囲気にのまれてしまった」と言った。

 個人総合では2位に終わったが、それはおそらく彼にとってはとてつもなく悔しい結果だったのだろう。3日目に行われた種目別決勝ではその鬱憤を晴らすかのごとく、スティック以外の3種目で1位をもぎ取った。安藤梨友にとっては「来年は絶対に誰にも負けない!」という思いを確固たるものにした2019年の全日本選手権だったのではないだろうか。

2019全日本新体操選手権男子個人総合優勝:川東拓斗(国士舘大学/当時4年)
2019全日本新体操選手権男子個人総合優勝:川東拓斗(国士舘大学/当時4年)

 人はよく「無欲の勝利」というが、こんなに「勝ちたい勝ちたい、絶対に勝つ!」と思い続け、言い続けて勝ったチャンピオンも珍しいように思う。それだけ自分自身を追い込んで、逃げ場をなくしてでも、「日本一」になりたかった。川東拓斗はそんな選手だった。高校時代にはすでに同世代ではトップクラスの選手として頭角を現してはいたが、全国大会での優勝経験はないまま、最後の全日本選手権を迎えていた。8月の全日本インカレでは故障を悪化させ、個人総合も3位に終わり、種目別棄権という不本意な終わり方をしていた。それだけに、まさに背水の陣で迎えた大会だったと思う。強い思いはときとして体を萎縮させる。良くない結果に終わる可能性も少なくなかったと思うが、この年の川東は、「気持ちで勝った」。男子新体操の個人競技は、近年どんどんタンブリングと手具操作が高度化してきている。その技術の進化は素晴らしく、見る側をエキサイトさせる。が、一方で、本来の男子新体操の良さであった「体操」で魅せる選手は減少の一途にある。そんな時代に、「体操」でまっこう勝負を挑み、勝ち切った川東拓斗は、稀有な選手だった。最後の全日本で、この演技ができたのは、もちろん彼の努力の賜物に違いないが、努力すれば誰もがそういう終わりを迎えられるわけではない、ということを考えると、神様にも守られていたような気がする。そんな優勝だった。

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 今日の放送時に、4月30日発売の「男子新体操完全ガイド」(メイツ出版)のプレゼント情報もあるそうだ。男子新体操の魅力、見どころがあますところなくわかるこの本を、この機会にぜひゲットしよう!

<写真提供:清水綾子>