【男子新体操】「JAPANで観たい!」vol.12~面白いだけじゃない! 鹿児島実業高校の本気

お馴染みのコミカル演技ながらも今年の鹿実は、ひと味違う!

「新型コロナの感染拡大はもちろんいいことではないですが」と前置きをしながら、「うちのチームにとってはプラスになった面が多かったです。」

鹿児島実業高校男子新体操部の樋口靖久監督は言った。

画像

今では鹿児島市の観光誘致PRにも3年連続で担ぎ出されるまでになった鹿児島実業の男子新体操部。

男子新体操の人気アップ、知名度アップには間違いなく大貢献しているが、そのコミカルな演技によってときには審判を怒らせ、監督は反省文の提出を求められる、それが鹿実だ。

2011年からは、2017年を除きインターハイにも出場し続けているが、大会成績はいつも下の方。

画像

その鹿児島実業が、今年は日本最高峰の大会・全日本選手権に出場する。

「え? 鹿実ってそんなに急に強くなったの?」

と驚く人も多いだろう。

が、そこには2020年ならではの事情があった。

画像

全日本新体操選手権の団体競技の出場チームは、例年なら以下の大会で選出される。

◎全日本男子新体操団体選手権(上位3チーム)

◎インターハイ(上位6チーム)

◎全日本インカレ(上位5チーム)

◎全日本社会人大会(上位2チーム)

しかし、今年はコロナ禍により、全日本団体選手権とインターハイという高校生にとっての予選大会が2つとも中止になってしまったのだ。

そこで、9月に行われた新体操フェスタ岐阜での男子クラブ選手権団体競技に高校生対象の「全日本選手権予選の部」を設けた。そこで最大9チームの高校生枠の出場校を決めることになったのだ。

画像

ところが、9月はまだ地方によってコロナに対する対応がまちまちだった。学校の判断、または自治体の判断により出場できない高校も多く、例年なら全日本選手権に名前を連ねる青森山田(青森県)、小林秀峰(宮崎県)、盛岡市立(岩手県)、坂出工業(香川県)などはエントリーさえしなかった。2019年度インターハイ3位の神埼清明(佐賀県)はエントリーはしていたが、出場許可がおりず棄権。

その結果、例年なら全日本選手権にはなかなか手が届かないチームにも出場権が転がりこんできた。

鹿児島実業もその恩恵を受けていることは否定できない。

※参考記事 2020年9月Yahoo!ニュース

画像

しかし。

この「全日本選手権出場」という18年ぶりに巡ってきたチャンスに向けて、鹿児島実業は、真摯に研鑽を積んできた。

夏から秋にかけては、例年なら演技会などのオファーが相次ぐ鹿実だが、今年はこのご時世なのでそういうイベントもなく、今までになく練習に打ち込めたという。

「今年は本当に練習できました。おかげで基本からしっかり見直すことができて、選手の力がすごくついたと思います。」

という樋口監督。冒頭の「プラスになった面が多かった」とはそういう意味だ。

画像

全日本選手権を目前に控えた11月8日。

鹿児島実業の練習を取材したが、試合が近いにも関わらず、朝9時から11時まではひたすら基礎練習を繰り返していた。

ストレッチ、筋トレ、アップ、タンブリング練習。

団体メンバーも控え選手も、この日はジュニア選手たちも練習に来ていて、みんなで同じ練習をやっていた。

レベル差は大きく、中にはまだバク転もできない選手もいる、連続バク転がおぼつかない選手もいる。

そんな選手たちは、希望すれば樋口監督が、柔道の帯を使って補助をしてくれる。

画像

高校から新体操を始める選手ばかりだった10年前の鹿児島実業ではこの帯を使った練習がよく行われていた。

私が初めて鹿実を取材した2011年3月。「今度、入ることになった新入部員です。これでやっと団体が組めます」と樋口監督が紹介してくれた中学3年生たち(入学前に練習に参加していた)は、バク転はもちろん開脚も満足にできていなかった。

そんな子たちを、この帯を使った練習で、なんとか技を覚えさせ、力をつけ、2011年8月の青森インターハイに鹿児島実業団体は、4年ぶりに出場してきた。

この年の3月には東日本大震災があり、被災地である東北でのインターハイということ、まだ新体操を始めて半年という選手が半分を占めていたことから、このときの鹿実は、「とにかくお客さんを笑顔に」だけを目指して演技をした。タンブリングはバク転と前宙がやっと、という選手もいたこの年は、それが精いっぱいだったのだ。

画像

が、そこから。

コミカル演技でどんどん有名になっていく傍らで、鹿児島実業はしっかり力もつけてきた。

のちに全日本チャンピオンになった福永将司や内村志朗を擁した頃のチームなどは、かなり強かったのだ。

しかし、その強さのを「得点につなげる」ことを鹿実はしてこなかった。

ときには、曲や衣装などで減点されるなど、余分な失点も犯し、能力相応の結果は得られなかった。

が、それは、男子新体操の広告塔として、また鹿児島実業男子新体操部の長い目で見た強化策としては正解だったのだろう。

画像

今、鹿児島実業の男子新体操部は、毎年3~4チーム団体が組めるくらいの部員数がいる。

併設するジュニアクラブ「鹿実RG」のクラブ員も増え、全日本ジュニア出場などの力のある選手も育ってきている。

他県でやっていたジュニア選手があえて鹿実に進学してくる例も出てきた。

結果。

今の鹿児島実業高校は、「お笑いだけ」のチームではなくなっている。

もちろん、「笑い」を捨てたわけではない。

いつも樋口監督が言うように「ちゃんとふざけて」はいる。

画像

それでも。

たとえ振付はコミカルでも、曲がアニソンでも。

今の鹿実の実力は無視できないところまできている。

今回の全日本選手権に出場するメンバーには、1人だけ3年生が入っているがあとは1,2年生だ。

9月の岐阜で見たときと11月では見違えるように力をつけていた。

この先の1年、あるいは2年で、高校トップレベルにも迫る力をつけるのではないか。

そんな予感がする「実力による注目チーム」に鹿児島実業はなりつつある。

画像

前述のような理由で、今年の全日本選手権出場は、真に実力で勝ち取ったもの、とは言えない。

が、そう遠くないうちにもう一度、鹿児島実業の演技を全日本選手権の舞台で見る日がくるかもしれない。

そんな夢を見せてくれる。

彼らはそんなチームだ。

画像

今大会は、無観客で開催されているがライブスコアが一般公開されている。

団体競技が行われる今日、ぜひライブスコアで会場にいる気分をあじわってほしい。

画像

※全日本選手権のテレビ放送予定は以下のとおり。

「スカイA」全日本新体操選手権放送予定

<撮影:筆者>