【男子新体操】あの鹿児島実業高校が、今年は日本最高峰の大会・全日本新体操選手権に進出!

演技終了後にはガッツポーズも飛び出した <撮影:清水綾子>

インターハイのなかった今年の夏は、今や「夏の風物詩」となっていた鹿児島実業男子新体操部の演技が見られない夏でもあった。

男子新体操ファンはもちろん、普段は男子新体操なんて見ないという人でも、きっと「鹿児島実業」の男子新体操はどこかで見たことがあるはずだ。

男子新体操においては、知名度ナンバーワン校であることは間違いない。

が、その実力は? と問われれば、コミカル演技が災いしての減点もあったり、「点数をとること」に徹しきれない部分もあり、インターハイに出場しても順位は下位に低迷していた。

それでも人気には翳りない、それが鹿児島実業というチームではあった。

しかし。

じつは、この10年あまり鹿児島実業の新体操は地力をじりじりと上げてきていた。

ユニークな振り付けや旬の選曲などばかりが話題になってしまうが、部員数も20人前後と全国屈指の大所帯でもあり、中での競争も熾烈になってきている鹿児島実業の選手たちの力は侮れない、例年の演技からそれは見てとれていた。

それを証明したのが、2018年の全日本選手権だった。

鹿児島実業を卒業して国士舘大学に進学した福永将司が、個人総合で優勝。福永はこの年の全日本インカレでも優勝しており、見事二冠を達成。また、福永とは鹿児島実業の同級生だった内村志朗も進学していた青森大学の団体メンバーとして全日本選手権に出場し、団体日本一に輝いた。

ジュニア時代から全国レベルの活躍をしていた彼らが鹿児島実業に在籍していた2012~2014年の鹿児島実業は強かった。

それでも、鹿児島実業ならではのコミカル演技ゆえに、成績には恵まれていなかったが、「じつは強い、じつはうまい」選手たちだった。

現在も、吉留大雅(国士舘大学2年)、石牟禮華月(青森大学2年)など、大学でも活躍している選手も多く、鹿児島実業は単なる「話題性だけのチーム」ではないことを示してきた。

それでも、インターハイで見る彼らの演技は、「点数」よりも「観客に笑いと元気を」を優先しているため、なかなか評価されず、インターハイで6位入賞すれば出場できる全日本選手権には縁のない年が続いていた。

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それが今年。

コロナ禍により、インターハイは中止。

男子高校生に関しては、今回の「新体操フェスタ岐阜」に個人、団体すべての全日本選手権出場権が懸かっていた。

地方によっては、県外の大会への出場を許可しない高校もあり、この大会には、インターハイのように多くの高校が出場したわけではない。青森山田、神埼清明、小林秀峰らインターハイ上位常連校も出場できなかった。

それでも、この大会に出場し、そこでしっかりと演技を通すための努力をしてきたチームの中に、鹿児島実業高校はいた。

「新体操フェスタ岐阜」の1週間前には「男子新体操オンライン選手権」もあり、鹿児島実業はそこにも出場、自らの役割をしっかりと果たした演技で視聴者賞も獲得していた。

2週間連続での「本番」は、もともと大会数の少ない男子新体操にとってはかなりハードだったと思う。

それでも、鹿児島実業は今回の大会に出場してきた。

そして、1週間前のオンライン選手権とはがらりと違うメンバー(1,2年生チーム)でしっかりと演技を通して見せた。

いや、正確に言えば、完璧な演技ではなかった。直前に選手の一人が脚を傷め、タンブリングを抜かざるを得なかった。

しかし、そこを差し引いても、かなりいい演技だったと思う。

今の鹿児島実業は、基本的な力がある。部員不足で苦労していたころのようなバク転がやっとできるようになった、という選手はおらず、ちゃんと男子新体操らしいタンブリングもできれば、交差技も決められる。おまけに、男子新体操の肝ともいえる徒手体操に関しては、かなり高いレベルにあるのだ。

さらに言うならば、男子新体操では強豪校といえど疎かになりがちな、「つま先の伸び」「かかとの高さ」に関しては目を見張らせるものが今の鹿児島実業にはある。

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今回の演技と成績で全日本選手権に出場を決めたことには、ラッキーな面もある。

例年通り23チームが出場しての大会だったならば、そこで6位以内に入ることは、いくら鹿児島実業が力をつけてきたとはいえ、難しかっただろう。だが、ラッキーだけで得られた出場権ではない。

たとえ審判からは評価されなくても、「話題性だけ」と言われても、地道につけてきた力あってこそ、だったと思う。

準備をしてきたからこそ、幸運の神様も微笑んでくれたのだ。

11月20~22日に開催が予定されている全日本選手権は、無観客での開催と決定した。

会場となる高崎アリーナでは、鹿児島実業の演技に笑いも拍手も起きないだろう。

それでも彼らは、テレビなどを通して、彼らの演技を見た人達に「笑いと元気」を与えるために、きっとこの先の2か月間、努力に努力を重ねるに違いない。

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現在の鹿児島実業を築いた樋口靖久監督は、1995年に鹿児島実業のコーチに就任。

1996年から演技にコミカルな要素を入れ始めたが、はじめは審判はもちろん観客や選手たちからも不評をかったという。

それが、2002年のインターハイでの「夏祭り」を使った演技で6位に入賞し、全日本選手権に初出場を果たしている。

樋口監督が監督になって2年目のことだった。この年が、「コミカルが観客に受け入れられた節目の年だった」と樋口監督は言う。

あれから、18年。

今年は、樋口監督と鹿児島実業団体にとって2度目のジャパンになる。

※今年の鹿児島実業の演技は、以下の「男子新体操オンライン選手権スーパーエキシビション」で見ることができる。

 (鹿児島実業の出番は28:00あたりから。新体操フェスタ岐阜のメンバーの多くが、エキシビションでは「維新dancin'鹿児島市」のほうに出ている)

<写真提供:清水綾子>