【体操競技】2020年夏の東京五輪を失った体操競技が本気を出した「ファン獲得大作戦」

体操競技男子強化本部長・水鳥寿思氏もYouTubeチャンネルを開設

今日は8月2日だ。

もしもこの夏、予定通りに東京五輪が行われていたならば、開会直後から始まる体操競技は、すでに団体総合、個人総合を終え、種目別決勝が行われている日だった。

団体や個人総合でメダルが獲得できていれば、今ごろはテレビの生中継でも体操選手たちの姿が多く見られたはずだ。

それが。

体操に限ったことではないが、五輪はおろか何もない。

9月には、内村航平選手も出場予定の「全日本シニア」が開催を予定してはいるが、日々悪化する新型コロナ感染状況を見ていると、無事開催されるかどうか、暗雲たれこめてきたと言わざるを得ない。

体操競技、とくに男子の体操は、世界選手権やオリンピックのたびに「メダル期待種目」として話題にはなる。

2008年の北京五輪以降は、内村航平選手という世界的レジェンドにも恵まれ、世界選手権も男子だけはゴールデンタイムの地上波で放送され、番組宣伝のCMがテレビで流れる。そのときだけ見れば、そこそこの「人気競技」のようにも見える競技だ。

しかし、その実態は、日本体操協会の選手登録数を見ても、女子新体操、女子体操よりも少ない。

4~6月に立て続けに行われる「全日本体操選手権」「NHK杯」「全日本種目別選手権」のテレビ放送があったとしても、「日本代表」やその座を争う僅かな選手の演技は放送されても、その他の選手たちはなかなか映る機会もない。

大会会場には、それなりに観客は入っているが、ほぼ体操関係者。一般のファンはごくわずか。それが体操競技の現実だ。

それでも、「世界選手権で金メダルをとれば」「五輪で金メダルをとれば」、きっと人気に火がつくはず、体操競技関係者はそう思っているように見えていた。

大会の取材に行くと、「体操(新体操も含む)は、報道を歓迎しているように思えない」とよく言われた。

私は、体操・新体操以外のスポーツの取材に行ったことがほとんどないので比較できないのだが、様々なスポーツを取材している記者やカメラマンは、他のスポーツでは「報道されることで競技をより多くの人に知ってもらいたい! だから、報道よろしくお願いします!」という空気があるのだと言う。

対して、体操だと、報道が「取材させていただいている」という空気が濃厚だというのだ。この差に戸惑う報道関係者は少なくない。

私はずっとそれは、それだけ「競技第一だから」だと思っていた。

報道陣やファンを厚遇することよりも、競技力を上げ、よいパフォーマンスを見せ、よい成績を得る。

それこそが「体操はすごい! 素晴らしい!」と思わせる王道だ。きっとそう思ってるのだろうと感じていた。

体操協会も公式ホームページの更新頻度も増え、大会があれば速報が上がるのも早くなった。

公式Facebookでは、大会前後の記者会見の動画がフル配信されたりもする。

ひと昔前に比べれば、飛躍的に情報公開はされている。しかし、世の中の流れには追いついていない、という感は否めなかった。

ところが、コロナ禍により次々と大会が中止になり、五輪も延期という苦境が、短期間で体操界を大きく変えた。

選手達自身の情報発信が劇的に増えたのだ。

※参考記事「コロナの恩恵?アスリートが続々、YouTubeデビュー!」

それでも、この記事を書いたときはまだ半信半疑だった。

あまりにも大会がないので、やむにやまれず現役選手たちのYouTubeチャンネル開設が続いたが、快く思っていない体操関係者がいるのではないか。どこかで規制がかかったり、発信している選手が不利益をこうむることがないか。

そんなことを案じていたのだ。

ところが、そんな不安を払拭する出来事があった。

体操協会の男子体操代表監督・水鳥寿思氏がYouTubeチャンネルを開設。

1,2回目は、株式会社スポーツビズ・山本雅一社長との対談を配信している。

この動画を視聴すると、水鳥氏が、本気で体操の普及、人気拡大を目指していることが感じられた。

そのためには、YouTubeをはじめ、SNSがカギになることもじゅうじゅう承知だということもわかる。

●水鳥寿思YouTubeチャンネル

代表監督自らが、発信を始めたとなると、選手たちはやりやすくなったに違いない。

今後は、選手やチーム、クラブ単位でより発信が増えていくだろう。

そして、その発信を通じて、体操に興味がなかった人が興味を持ったり、体操ファンもより深く体操を知ることができたり、体操競技にとってはいい影響があるに違いないと思う。

さらにその流れは、女子体操、女子新体操、男子新体操などにも広がっていくだろう。

ロンドン、リオと2大会連続で五輪に出場している加藤凌平選手(コナミスポーツクラブ)も、最近、YouTubeチャンネルを開設したが、以下の動画が話題になった。加藤選手と弟・裕斗選手による実演「ゆか技25連発」だ。これは、体操競技者にとってもファンにとってもおおいに勉強になる。

●加藤凌平YouTubeチャンネル

すでにチャンネル登録者が1000人に迫り、じわじわと人気が高まってきている今林開人選手のYouTubeチャンネルでは、体操漫画「ムーンランド」を全力で推していた。この漫画の監修も水鳥氏が務めており、今林選手も感心するほどリアルな、それでいて感動できる青春モノになっているという。体操漫画に対する手厚く詳細な監修ぶりも、水鳥氏の「より多くの人に体操を知ってほしい。体操の魅力を伝えたい!」という思いの表れなのだろう。

●今林開人YouTubeチャンネル

さらに、水鳥氏が、Twitterでリツィートし、応援の意思表示をしたのが、現役体操選手・志田拓巳選手がぶち上げたオンライン体操競技会「シダックスチャレンジ」だ。

●シダックスチャレンジ開催、告知!

志田選手は、現在、日本体育大学の4年生で、国際大会にも派遣された実績のある選手。だが、今の「情報発信解禁!」の流れになるかなり以前から、自身の練習動画やチームメイトの練習実況など、体操ファンにはたまらない動画を数多く配信してきている。いわば体操界のさきがけ的YouTubeチャンネル運営者だ。大会動画などはほとんどないにもかかわらず、そのチャンネル登録者数は1.5万人! 

志田選手が、ここまで積み上げてきた実績と信頼があってこそ実現したのが「シダックスチャレンジ」だと言えるだろう。

●志田拓巳選手がYouTubeをやる理由(とてもよくまとまっている!)

水鳥氏は、9月に開催が決まっている男子新体操のオンライン選手権に関しても、注目している旨のツィートをしている。

※水鳥氏のツィート(Twitterも始めたばかり)

対戦型ではなく、「人に見てもらう」ことを主とすることが共通する体操と新体操。まずは男子新体操のオンライン選手権が成功すれば、体操にも弾みがつく、という思いもあるのではないかと思う。

ましてや、「シダックスチャレンジ」は、現役選手自らが開催するオンライン大会だ。これはひとつの試金石になる。

どんな大会になるのか? 応援の気持ちを持ちつつ、見守りたい。

もうひとつ、興味深いのが、2013年世界選手権であん馬の世界チャンピオンになった亀山耕平選手のYouTubeチャンネルだ。

東京五輪を目指す日々を、毎日、記録配信するという日記のようなチャンネルだが、世界チャンピオンレベルの選手のリアルが垣間見える貴重なチャンネルだ。すでに体操選手としてはかなりのベテランの年齢になっている亀山選手。一度は、引退を決意もしたというが、今でも自身のプライドを懸けてあん馬の技を磨き続ける彼にもいつかは来るだろう「現役最後の日」まで、その人となりと思いのたけを伝え続けてほしいと思う。

※亀山耕平YouTubeチャンネル