【新体操】佐賀県のSSP杯で見せた女子高校生たちの「魂の演技」

公式練習終了後に仲間同士で称え合う佐賀北高校新体操部

SSP杯の新体操会場となったSAGAサンライズパーク体育館はいつもの大会会場とはかなり違った雰囲気だった。

佐賀県の3つの高校の新体操部が出場するこの大会は、いわゆる「国体方式」で行われた。

1つのチームが団体と個人競技(4種目各1選手)を行い、その合計点数で競うというものだ。

新体操の名門・佐賀女子高校と、佐賀北高校はそれぞれ2チームずつのエントリー。さらに佐賀清和高校からも1チームが出場していた。

総合優勝:佐賀女子高校A
総合優勝:佐賀女子高校A

朝9時から団体公式練習が始まったが、なんと言っても、新体操独特のかけ声がほとんど聞こえてこない。

選手同士での「いちにっさん」「ここから~」というようなかけ声も、観客席からの「がんばー!」「よーし!」などの声もない。

ただ、音楽と選手たちの呼吸、手具を落とせばその落下音がやけに大きく響く。

はじめはその雰囲気に驚いたが、いつも通りに動く選手たちを見ているうちに、この大会が全国にさきがけて行われている代替大会だということ、この3か月以上、全国のどこでもこういった競技会は行われてこなかったことを忘れそうになった。

いや、ここでこうして本番用のレオタードを着て、笑顔で踊っている選手たちも、この3か月間、体育館で練習することさえままならない時期もあり、「インターハイ中止」という非情な知らせに涙したこともあったはずなのだ。しかし、よい意味でそんな困難を乗り越えてきた悲壮感はなかった。そこにあるのは、じつに清々しく、ごく当たり前の大会、という練習風景だった。

総合2位:佐賀北高校A
総合2位:佐賀北高校A

6月13日といえば、例年なら九州ブロック大会の時期であり、インターハイの県代表もすでに決まっている。

佐賀県は、佐賀女子高校という伝統校があり、インターハイ出場を続けているが、県立の佐賀北高校も近年、めきめき力をつけてきており、九州大会は常連だ。進学校のため、高校までで新体操は辞める選手が多い佐賀北にとっては、九州大会がいわば集大成の大会であり、佐賀女子にとっては、インターハイに向けてのステップボードの大会だった。

しかし、今年は、その九州大会もない。

SSP杯は、佐賀県の「SAGA Sperts Pyramid」というスポーツ強化プロジェクトの名称を冠とした大会で、コロナウィルスの影響でほとんどの大会がなくなった高校生たちのために急きょ企画された。

この大会の意義は大きく、この日も、大会終了後に話を聞いた指導者、選手ともに「ここで演技を発表することができて本当によかった」と喜びを口にしていた。

総合3位:佐賀女子高校B
総合3位:佐賀女子高校B

が。

本当は、そうじゃなかったはずだ。

とくに3年生は、毎年、3年生たちが「部活最後の年」をどう過ごしていたか知っている。

今年はついに自分たちがその立場になり、「青春のすべてを懸けた」と言えるような日々を過ごすはずだったのだ。

SSP杯は、本当にありがたい大会だったと思う。

それでも、保護者以外は無観客であり、仲間や保護者からの応援の声がけもなく、次の大会に繋がるわけでもない。

彼女たちが本当に目指していたのは、ここではなかったはず、なのだ。

それでも、「自分たちは、先輩から代替わりしたときに、日本一を目指すと決めてやってきました。だから、たとえインターハイがなくなっても、最後まで日本一を目指した練習を続けると思ってやってきました。今日まではとにかくこの大会に懸けてやってきて、進路などもまったく考えていません。これから考えます。SSP杯を開いてくださったことに対しては感謝しかないです。自分にとっても仲間にとっても本当によかったです。」と佐賀女子のキャプテン・中牟田乃亜は言った。

総合4位:佐賀清和高校
総合4位:佐賀清和高校

「佐賀県が全国にさきがけて大会を開催してくれたことに感謝しています。自粛生活の期間には、練習もできず気持ちが下向きになったこともありましたが、今日この演技ができたことで、あきらめないことの大切さを学ぶことができました。この経験はこれからの自分の力になると思います。」と佐賀北のキャプテン・朝日ほのかは言った。

「こんなはずじゃなかった」

「なぜ私たちが高校3年生の年にこんなことになってしまったのか」

そんな思いは、もうとっくの昔に彼女たちは消化していた。

だから、「感謝」という言葉には真実味があった。

不平不満など言えない、そんな状況を経験してきたのだ。

そして、今もなお、部活動の再開さえもできてない地域もある。

それを思えば、感謝の言葉しかでてこない。それが彼女たちの現実なのだ。

総合5位:佐賀北高校B
総合5位:佐賀北高校B

佐賀県では、感染拡大の状況に応じて、休校は断続的に行われていたが、それでも日本全体が緊急事態宣言下にあった時期は、もちろん休校、部活も休みが続いていた。

例年ならもっとも練習量をこなすこの3~6月という時期と比較すると、その練習量は「5分の1にも満たない」と横川由美監督(佐賀女子高校)は言う。が、一方で、

「休校明けの久しぶりの練習で、初めて1本通しをやったときに、ノーミスが出たんです。いつもはあれだけ練習を積み重ねてやっとだったのに。練習量では測れないものがあるんだな、とそのとき感じました。ずっと練習できず、仲間とも会えなかった状態から解放されたときの選手たちの思いは特別なものがあったんだと思います。」

という経験を語ってくれた。

本番の演技を終え、審判の前で深く一礼をする佐賀女子高校Aチーム
本番の演技を終え、審判の前で深く一礼をする佐賀女子高校Aチーム

たしかにこの日、この大会で披露された演技も、さすがにどのチームもノーミスというわけにはいかなかったが、それでも、最小限のミスで抑え、自分たちの演技、自分たちのやってきたことを存分に発揮はできていた。

それだけ選手たちは、強い思いで新体操をやってきたんだ、練習自粛期間もそれぞれにやれるだけのことはやってきただろうと感じられる演技だった。

※SSP杯新体操の演技は、SAGA PLUSで配信中。

彼女たちがSSP杯で見せてくれた、この演技は、全国の新体操選手たちにとって希望になるだろう。

今はまだ練習できないチーム、大会の予定も立っていないチームは、うらやましいと感じたり、焦りを感じたりもするかもしれない。

が、きっと大丈夫だ。

「いつも通りに練習できない中でも、得られることがある」と彼女たちの演技が教えてくれる。

「最後まであきらめないこと」にこそ、なによりも価値があるんだと教えてくれるはずだから。

<写真撮影:筆者>