【新体操】「2020インターハイ中止」で私たちは何を失ったのか?~女子団体競技

2019インターハイ、団体で初優勝した常葉大常葉高校(静岡県)

新体操は、インターハイで行われる種目の中では、決してメジャーなほうではないと思う。

が、このインターハイという大会だけは、年間のどの試合よりも観客が集まる。ここまでの大観衆の前で演技できるのは、新体操ではインターハイだけ、と言ってもいい。だからこそ、「インターハイ」は、高校生にとって、いや、新体操人にとって「特別な、憧れの大会」なのだ。

その特別感が強く感じられるのが団体競技だ。優勝を争うようなチームから、インターハイ出場が夢だった、というようなチームまで、そこに集った全チームが、青春の全てをストレートにぶつけてくる、そんな演技が見られるのがインターハイなのだ。

2019年のインターハイプログラムを繰り返し見ていると、きっと今年のインターハイに懸けていただろうな、と思うチームがいくつもある。もちろん、どのチームも「懸けている」には違いないが、注目したいのは昨年のメンバーに3年生が少なかったチームだ。昨年のインターハイを1年生、2年生で経験している選手たちが、昨年の悔しさを糧に1年間頑張ってきて迎える今年のインターハイ。順位や点数は本番の出来次第だが、その演技には心をうつものがあることは間違いない。

高崎女子高校(群馬県)
高崎女子高校(群馬県)

たとえば、今年の開催地だった群馬県の高崎女子高校は、昨年のメンバーに3年生が1人しかおらず、2年生が4人。まさに地元インターハイに向けて強化されてきた選手たちだったのだろう。昨年のインターハイでは17位だったがここ数年、芸術性も高い、魅力的な作品を仕上げてきていたチームが、地元でのインターハイでどんな演技を見せてくれるのか、見たかったと思う。

岡山南高校(岡山県)
岡山南高校(岡山県)

岡山南高校(岡山県)は、昨年のインターハイ時に3年生がいないという若いチームだったが、非常に印象に残る美しい演技を見せた。インターハイでは11位でジャパン(全日本選手権)の出場権は得られなかったが、同じメンバーで出場した全日本クラブ団体選手権で見事にジャパン出場権を獲得。ジャパンではミスも出てしまったが、今年に向けてのよい経験を積んでいた楽しみなチームだった。

済美高校(愛媛県)
済美高校(愛媛県)

済美高校(愛媛県)も昨年のインターハイでは3年生が1人だけというメンバーで18位。例年、はつらつとした演技を見せてくれるチームだけに、経験を積んだメンバーで挑む今年のインターハイでは期待できるチームだったと思う。

新湊高校(富山県)
新湊高校(富山県)

昨年のインターハイでは12位ながら、順位以上の鮮烈な印象を残した新湊高校(富山県)も、昨年メンバーには3年生が2人。昨年すでに完成度の高い演技を見せていただけに、今年は上位進出のチャンスがあっただろう。

富岡西高校(徳島県)
富岡西高校(徳島県)

富岡西高校(徳島県)も、昨年のインターハイメンバーには3年生が1人しかいないメンバーで15位。今年も同校の特徴であるテクニカルな演技をやり切るだけの練習を積み重ねてきていれば、上位を狙えたに違いない。

これらのチームは、昨年は入賞には届かず、といったポジションにいるが、現在の新体操では1つのミスが大きく得点が上下する。1年間経験を積んで、演技の完成度が上がってくれば、十分今年は入賞の可能性があっただろうと思われる。おそらくそこに向けて、練習を積み重ねてきていたはずだ。

昭和学院高校(千葉県)
昭和学院高校(千葉県)

そして、昨年の入賞チームの中では、6位の昭和学院高校(千葉県)が、昨年メンバーに3年生が一人しかおらず、現在のメンバーも身体能力のポテンシャルが非常に高い。2018年にはインターハイ優勝もしている実力校にとっては、昨年の6位は不本意な結果だったろう。それだけに今年、どんな演技を見せてくれるのか、楽しみにしていたファンは多かったはずだ。

中村学園女子高校(福岡県)
中村学園女子高校(福岡県)

昨年4位の中村学園女子高校(福岡県)も、3年生が2名抜けただけで今年のインターハイに臨めるはずだった。全国でもトップレベルに部員数の多い同校では、昨年のインターハイメンバーでも安穏としていられないほど、レギュラー争いは厳しい。そこを勝ち抜いたメンバーで、中村の持ち味である「表現力豊かな演技」をやり切ることができれば昨年の4位を上回ることも夢ではなかっただろう。

鹿児島純心女子高校(鹿児島県)
鹿児島純心女子高校(鹿児島県)

そして、今年に懸ける思いがひとしおだったろうと想像に難くないのが、昨年2位の鹿児島純心女子高校(鹿児島県)だ。メンバーのほとんどが今年3年生。しかも、1年生のときからほぼ同じメンバーでインターハイ出場。昨年は地元でのインターハイという重圧の中、見事準優勝まで駆け上がった。今年は、10月に鹿児島国体も予定されており、まさに3年間を新体操に注ぎ込んできた選手たちが最後のシーズンにインターハイでどんな演技を見せてくれるのか、楽しみでしかなかった。

常葉大常葉高校(静岡県)
常葉大常葉高校(静岡県)

さらに、昨年優勝校・常葉大常葉高校(静岡県)も、連覇の懸かる今年のインターハイを「戦えるメンバー」で迎えていた。昨年の優勝メンバーから抜けるのは1人だけ。インターハイ経験も十分な「勝ち方」を知っているメンバーが残り、昨年末の町田フレンズカップ、年明けのテレビ信州杯でもしっかり優勝をもぎ取っていた。高難度演技ながら、まるで簡単なことをやっているかのような正確性の高い演技は、工夫を凝らし、あらゆる状況に対応できるようにと積み重ねてきた練習の賜物という常葉大常葉。2019年は選抜、インターハイと2冠に輝き、今年も選抜、インターハイと連続2冠も十分射程距離にあっただけに、その無念さを思うと胸が痛む。

藤村女子高校(東京都)
藤村女子高校(東京都)

もちろん、昨年はインターハイ出場を逃しているチームの中にも「今年こそは!」と研鑽を重ねてきていたチームも多い。

3月の高校選抜に久々の出場が決まっていた藤村女子高校(東京都)も、近年はなかなかインターハイ出場に届かずにいたが、ここ数年はあと一歩に迫っており、昨年は全日本クラブ団体から勝ち上がり、ジャパン出場も果たした。満を持しての今年の選抜、そしてインターハイに懸ける思いは強かったに違いない。かつての古豪が、時間をかけ、努力を重ね培ってきた復活の証の輝く演技を、インターハイという舞台で見たかったと思う。

上位常連校・伊那西高校(長野県)、金蘭会高校(大阪府)は、昨年メンバーからは抜ける3年生が多かったが、それでもしっかり1年後にはチーム力を上げてくる伝統の力を持っている。

今年に懸ける勢いのあるチームと、受けて立つ強豪校、さらに、今年こそは!の出場に懸けてきたチームが、入り乱れての熱戦を繰り広げるインターハイは、何回観ても、いつ観てもエキサイティングな大会であり、感動がある。

2020年、今年のインターハイでも見られたはずだった、そんな演技の数々が、観られなくなってしまった。

その喪失感は、どうにも埋められそうにない。

それでも、その大会出場の機会を失ってしまった選手たちの喪失感とは比べようがないのだ。

※注:今年度はインターハイ予選もまだ行われていなかったため、出場校は未定。この記事は、昨年実績をもとに「出場可能性が高かったと思われるチーム」を取り上げています。

<写真提供:清水綾子/磯崎直之(岡山南・藤村女子)/筆者(済美)>