【新体操】「2020インターハイ中止」で私たちは何を失ったのか?~女子個人競技

高校3年生の小西野乃花(左)と山田愛乃(右)

女子の新体操は、基本的には試合数は多い。

高体連が主催するインターハイだけでなく、様々な大会があるので、中止になったのがインターハイだけならば、まだ救いはあったかもしれない。

「この悔しさは、次の大会にぶつけよう!」

現に、3月の高校選抜が中止になったときは、多くのチーム、選手がそうやって気持ちを切り替えてきた。

が、その後、多くの高校生たちの目標になっている「ユースチャンピオンシップ」が中止、県総体、ブロック総体も中止。そして、ついにはインターハイまでも中止が決まった。

例年、夏に開催される全日本クラブ選手権もすでに中止が決まっており、高校3年生の中には、「引退試合なき引退」を決めた選手も出てきているのではないかと思う。

誰よりもつらいのは選手たちだ。

インターハイで高校生たちの演技を見ることや応援することを楽しみにしていた保護者やファンの気持ちなどは、選手のつらさとは比べようもない。

が、ここであえて。

本来なら「2020年8月18~19日」に高崎アリーナで、見られるはずだったもの、つまりこの中止によって私たちが失ったもの を数えてみたいと思う。

それが彼ら、彼女らが、今、ここに存在していた証になればと思うから。

山田愛乃(クラーク記念国際高校)
山田愛乃(クラーク記念国際高校)

大会1日目。8月18日に行われるはずだった個人競技。女子は、昨年女王・山田愛乃(クラーク記念国際高校/千葉)の連覇が懸かる大会だった。山田は、ジュニア時代からトップレベルの選手だったが、高校生になったころから、身長がぐっと伸び、まさに国際規格の選手に成長してきた。

2019年は、ユースチャンピオンシップ、インターハイと2冠達成し、2024年に予定されているパリ五輪にはもっとも近い選手ではないかとも言われている。

恵まれたスタイルに加え、運動神経の良さ、さらに華やかさも併せ持つ日本期待の星だ。

所属するイオンの先輩である柴山瑠莉子(イオン/日本女子体育大学)が2017~2018に成し遂げたインターハイ連覇を引き継ぐ可能性は十分にもっていただけに、今回の中止は悔しかったことと思う。

小西野乃花(府立乙訓)
小西野乃花(府立乙訓)

その山田の連覇を阻む可能性をもっていたと思われるのが小西野乃花(府立乙訓高校/京都府)だ。

小西も、ジュニア時代から日本代表選手としてアジアジュニア大会に出場するなど、実績をもった選手だ。能力も十分に高く、魅力的な選手だが、高校生になったからは、現在のAD(手具難度)詰め込みルールに対応していく中で、惜しいミスが出て、実力を出し切れなかった大会もあった。が、その完成度は徐々に上がってきていたため、2種目で競う高校総体で2種目をバチっと決めることができれば、山田にも肉薄できたのではないかと思う。

山田、小西が優勝候補のトップ2ではあるが、他にも有力選手がひしめいていた。

坂本美彩(光明学園相模原高校)
坂本美彩(光明学園相模原高校)

昨年のインターハイ5位の坂本美彩(光明学園相模原高校/神奈川県)、

山田朱音(光明学園相模原高校)
山田朱音(光明学園相模原高校)

坂本と激しい代表争いを繰り広げたであろう山田朱音(光明学園相模原高校/神奈川県)も、高校総体の舞台に上がれば確実に上位争いに絡んできたはずだ。

鈴木希歩(常葉大常葉高校)
鈴木希歩(常葉大常葉高校)

今年の2年生では、鈴木希歩(常葉大常葉高校/静岡県)も、早生まれだった昨年は全日本ジュニアで6位、ジュニアの日本代表決定戦でも代表入りまであと一歩と飛躍した。今年は個人でも初のインターハイ代表となり、上位を狙える可能性があった選手だ。

竹内佑季(大垣商業高校)
竹内佑季(大垣商業高校)

2019年インターハイでは8位、高校選抜の出場資格も得ていた竹内佑季(大垣商業高校/岐阜県)は、華やかさ、伸びやかさを感じさせる選手で、最後のインターハイとなる今年に懸ける思いは強かったはずだ。

さらに、インターハイ個人の台風の目となりそうだったのが兵庫県の選手だ。

前田奈穂(須磨ノ浦高校)
前田奈穂(須磨ノ浦高校)

2019年に1年生ながら代表となりインターハイ3位だった前田奈穂(須磨ノ浦高校/兵庫県)は、ジュニア時代にはアジアジュニア選手権でメダルも獲得した実力者。高校1年目の昨年は、ややミスの目立つ試合が多かったが、2年生になる今年は、きっちり合わせてくるのではないかと思われた。

しかし、その前田をもってしても、「兵庫県代表」が確実とは言えないくらい、現在の兵庫県は選手層が厚い。

安藤愛莉(日ノ本学園高校)
安藤愛莉(日ノ本学園高校)

2019年3月の高校選抜では個人総合3位に入った安藤愛莉(日ノ本学園高校/兵庫県)は、最後のインターハイとなる今年に懸けていただろう。

堅田希颯(日ノ本学園高校)
堅田希颯(日ノ本学園高校)

また、高校選抜の出場資格を持ちながら中止に泣いた2年生の堅田希颯(日ノ本学園高校/兵庫県)、

鈴木菜巴(須磨ノ浦高校)
鈴木菜巴(須磨ノ浦高校)

さらに2019年全日本ジュニア3位の鈴木菜巴(須磨ノ浦高校/兵庫県)も今年から高校生になり、「全国一の激戦区」になることは必至だった。この激戦区を勝ち抜いて兵庫県代表として出場するインターハイでは、誰が代表になっても間違いなくトップ争いに絡んできたはずだ。

8月全国総体だけではなく、地区によっては代表権をめぐる戦いも熾烈であり、ドラマがある。

それがインターハイであり、そこに出ること、よい成績をおさめることだけに意味があるのではなく、そこを目指す日々を過ごせることに最大の意味がある。

しかし、2020年には、インターハイ出場だけでなく、そこを目指して戦う、努力するという経験すらできなかった高校生がたくさん生まれてしまった。

ただ一方では。「練習できる」「大会に出場できる」という、今までは当たり前すぎてその価値を見失いかねなかったことのありがたさを、かつてなく実感する高校生たちが増えたということでもある。

今の苦境を乗り越えて、彼女たちが新体操を続けてくれたならば、そして現役を終えてからもなんらかの形で新体操にかかわってくれたならば。

今、失ったものよりもずっと大きな、価値のあるものを、新体操界は得るのかもしれない。そうであってほしいと思う。

<写真提供:清水綾子/ビデオアルバム協会>