新体操の全国規模の大会が最後に行われたのは、2月21~23日の「全日本新体操チャイルド選手権」だった。

あれから2か月が経ち、もうかなり長い時間、多くの新体操選手たちはまともに練習できる環境もなく、目標にする大会も次々に中止という苦境にある。

が、苦しいときこそ、突破力が問われる。

会社でもテレワークが一気に進んだように、新体操の世界でも、オンラインでやれること、に積極的に取り組む流れが出てきている。

新体操の老舗であり、長年、日本の新体操のトップブランドだった東京女子体育大学の新体操部監督で、自身も選手としてオリンピック出場経験もある秋山エリカさんは、自らのYouTubeチャンネルで、自宅でのトレニーングに役立つ情報を精力的に発信し始めた。

今のところ入門編的な内容が多いが、決して初心者だけに向けているわけではなく、ある程度、新体操をやってきて大会経験もあるような選手でも、基本の見直し、弱点の補強の参考になるに違いない。

秋山さんは、この動画を誰もがフリーに見られるようにしている。

「所属も性別も超えて、全ての人の役に立てれば」という志からだ。

その秋山さんのトレーニング動画に大変助けられているという、アメリカ・シアトルの新体操クラブの指導者・Hitomi Sliva氏からは、「リングバランスチャレンジ」というオンラインイベントの情報が届いた。

※オンラインによる「リングバランスチャレンジ」参加要項

オンラインで、日米同時に開催されるのでいわば国際大会だ。

日本からもぜひ多くの子ども達にチャレンジしてほしい。女子に限られていないので近年、柔軟性の進化著しい男子選手も参加すれば、かなり盛り上がるのではないだろうか。

こんなイベントに軽々と国境を超えて参加できるのも、オンラインならでは、と言えるだろう。

新体操は、競技レベルの選手になると、ほとんどが週6日は練習している。

それなのに、今は体育館でまったく練習できないクラブも多い。そんな中で、選手たちの能力、モチベーションの維持のために、オンラインレッスンを取り入れるクラブも徐々に増えてきた。

神奈川県川崎市の白土新体操クラブもその1つだ。

ZOOMを使ったオンラインレッスンの様子。見本を示す先生の映像の上に受講している生徒たちの様子が表示される。
ZOOMを使ったオンラインレッスンの様子。見本を示す先生の映像の上に受講している生徒たちの様子が表示される。

※白土新体操クラブ公式サイト

選手レベルのレッスンと小さな子ども達相手のレッスンでは勝手も違い、まだまだ手探り状態だというが、それでも受講中の子ども達は真剣そのものだ。オンラインレッスンは、今回のコロナ禍が終息してからも、大きな可能性を秘めていると感じる。

全国どこにいても(もちろん海外でも)、オンラインならレッスンを受けられるし、指導もできるのだ。今回を契機に新体操の指導の在り方に大きな変革が起きそうな予感がする。

個人でオンラインレッスンを実施している元新体操選手もいる。

現役時代は、日本トップクラスの選手、現在はダンサー、パフォーマーとしても活躍している浅沼圭さん(東京女子体育大学卒)だ。

浅沼圭さんのオンラインレッスン。思った以上に反響が大きく、中級、上級向けのクラスも増設した。
浅沼圭さんのオンラインレッスン。思った以上に反響が大きく、中級、上級向けのクラスも増設した。

はじめは、「家で少しでも体を動かすきっかけになれば」とお試しで始めたそうだが、「練習できていない!こういうレッスンを求めていた!」という選手たちが想像以上に多く、要望もあったため、当初予定よりも高度な内容のクラスも作り、定期的にレッスンを行うことにした。

「私が新体操選手だった頃は、力でやれていたことがたくさんありましたが、コンテンポラリーダンスに移行してからより身体の繊細な部分に気づき表現する幅が広がりました。

この機会にその経験と知識を伝えられればと思いたち、体の軸や、根本的な運動の基礎、そこからの筋力トレーニングをベースとしたクラスを展開しています。身体が自由自在に動く楽しさに出会い、新体操の人たちへは特に新体操の表現の幅に(手具操作や、運動能力、身体能力、動きのバリエーションなど)生かしてもらえたら嬉しいです。」

と浅沼さんは言う。

※浅沼圭さんのInstagram

一方で、「思い切り体を動かして練習できない今だから、頭を使って新体操が上達する手助けになれば、と始めました。」と言うのが、ジュニア、高校時代は全日本レベルの競技選手として活躍。現在は、新体操指導者兼パフォーマーとして活動している神谷梨帆さんだ。

神谷さんは、小中学校の休校に伴い、ほとんどのクラブが練習できなくなったため、4月7日からほぼ毎日、ツイキャスとインスタライブを使って、新体操の「ジャッジ解説」を配信している。審判歴3年という自身の経験を生かして、実際の演技の動画を見ながら、審判はどこをどう評価して、どの部分で何点とれているのか、を歯切れよく解説している。

神谷梨帆さんのジャッジ解説。配信情報はTwitterで発信している。
神谷梨帆さんのジャッジ解説。配信情報はTwitterで発信している。

3年という経験は、審判では若手のほうだ。そんな神谷さんが採点について、それもオンラインで公開しながら解説するのは、かなり勇気のいることだ。自分がやっていいのか? という不安はあったと言う。それでも、現状でやれることをと考えたとき、これは必要だと判断し、覚悟を決めて配信を始めた。毎回、「審判の見方は様々なので、私の言うことが絶対的に正しいわけではありません。参考程度にしてください。」と前置きをし、「間違いがあったら遠慮なく指摘してください。」と言い続けているが、日に日に視聴者も増えてきている。

多くの人が求めていた情報がここにあるから、だと思う。ジャッジ解説の配信予定は、神谷さんのTwitterで告知している。

※神谷梨帆Twitter

新体操をやっている人だけでなく、観戦は好きだが、ルールがよく分からないという人にもぜひおすすめしたい。

 

男子新体操関係でも、様々な動きがある。

青森山田高校は、先日のダンス動画に続き、「ぶるーリズム体操」を男子新体操部全員で行った動画を公式チャンネルで公開。

これは、同校の卒業生も多く在籍するパフォーマンスチーム「BLUE TOKYO」が考案したオリジナル体操で、一般の人の健康増進にも役立つと同時に、男子新体操の基本的な徒手体操がふんだんに取り入れらているので、自宅でのトレーニングにも最適だ。とくにまだ新体操歴の浅い子ども達なら、青森山田の選手達の体操は格好のお手本になるだろう。

さらに、Twitterでは、「#全日本新体操自粛選手権」なるハッシュタグが静かに広まっている。

春から夏にかけてのほとんどの大会が中止になった今、選手達が自らの練習動画や過去の動画を投稿しているのだ。

男子選手から始まり、女子にも広がり、現役選手だけでなくすでに引退している選手たちにも広がっている。

新体操は「見てもらってなんぼ」の競技だ。それが見てもらえる機会を次々に失っている中、「つらいね、悔しいね、でも、一人じゃないよ」と励まし合っているようなこのハッシュタグの展開は、新体操っていいもんだと思わせてくれる。

誰もが苦しい、誰もが辛い今だが、そんな中でも光は射している。

アフターコロナを明るいものにするためにも、新体操は今が頑張りドキだ。