ついにIOCからも、安部総理の口からも、「東京五輪の延期も検討」という言葉が出た。

おそらく。

かなり高い確率で、7月24日に東京五輪が始まることはないのだろう。

さらに、そうなった以上は、日本でも今以上に行動が制限されることも十分に考えられる。

現時点でも、高校選抜をはじめ、数多くの演技会、発表会、大会などが中止または延期になっている。

多くの人が残念な思いをしているのに、今の状態がさらに、いやあるいはより厳しいものになっていつまで続くかわからない。

私が新体操に関わるようになってからすでに20年以上が経過しているが、ここまでの事態は初めてだ。

気安く「頑張りましょう!」「やまない雨はありませんよ」なんて言えない。

言えないので、せめて、少しでも元気が出るものをと考えたときに浮かんだのが、昨年12月1日に、武庫川女子大学で見た演技発表会の集団演技だった。

武庫川女子大学は、新体操の強豪校ではある。

西日本では、常にトップ。全日本でもメダル争いには絡んでいたが、なかなか優勝には手が届かずにいた。

それが、2018年の全日本選手権で初の団体総合優勝。2019年はユニバーシアード代表決定戦にも勝ち、ユニバーシアードでも銅メダル獲得と大躍進の1年だった。

そんな勢いのある武庫川女子だが、もともと演技発表会のエンディング作品が「凄い!」という評判はあった。

まずなにが凄いのか、というと、その会場だ。

この体育館が圧巻のエンターテイメント会場に変身する
この体育館が圧巻のエンターテイメント会場に変身する

ごくごく普通の体育館だ。

観客席もパイプ椅子を並べてあるだけで手作り感満載。

が、このごく普通の体育館だからこそ、できることがある。

以前からホールなどを借りて開催することも検討されているそうだが、学生たちが「ここでやりたい」「ここでなければできない」とこだわりを持っているのだと言う。

そのこだわりは、演技を見ればわかる。

たとえば、演技中盤で、フロアに向かって次々にフープが流れ込んでくる場面がある。

これは、長いゴースを、2階のキャットウォークからフロアに向かって張り、その上をフープを転がしているのだ。

最後には、選手たちの背景になっている壁を跳び越してフープが飛んでくるが、これも2階から選手が投げている。

(団体での交換さながらに後ろ向きで投げていた。)

2階からフープを転がす選手
2階からフープを転がす選手

このキャットウォークを、最大限に利用して、なんの変哲もない体育館を、シアターにしてしまうのが武庫川女子大学の演技発表会なのだ。

巨大なゴースと照明で幻想的な空間を描き出す
巨大なゴースと照明で幻想的な空間を描き出す

場面転換の際に、観客席の上を赤い巨大なゴースがおおっていく。観客がその通りすぎていくゴースを目で追っているうちに、正面ではまったく違う物語が始まる。その見事さ。その巨大ゴースも部員たちが走って動かしているのだ。

照明器具を使用はしているが、扱っているのも部員たち、またはOGや指導者などだ。

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演技中盤には、大きなフープを使ってのエアリアルも披露するが、これも、自前でやっているというから凄い。

大勢の観客に、いいものを見せたいという気持ち、自分たちの納得できる、思い出に残る作品を創りたいという思いは、演技を制作、演出する側の誰もがもつはずだ。

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ただ、人数や会場、予算など様々な障害があり、あきらめざるを得ないことも多い。

「このくらいでいいか。仕方ないよ」と妥協した経験は誰にでもあるだろう。

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しかし、ここの発表会からは「あきらめない姿勢」が伝わってくる。

十分な条件が揃っていなくても、やれる方法を工夫して、努力すれば、きっとできる! という信念が感じられる。

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部員16名で、これだけの演技をやりきるには、演じることに専念できる選手はほとんどいないはずだ。

フロアで踊っていた選手が、裏手の階段を駆け上って、ゴースをもちキャットウォークを全力疾走する。

そして、また階段を駆け下りてフロアでは笑顔で踊っているのだ。

その体力、集中力が凄まじい。

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2018年は全日本選手権での優勝も経験した武庫川女子大学だが、2017年には全日本選手権進出を逃すという苦い経験もしている。

当時は部員数も今より少なかったが、それでも演技発表会はいつも通り、華やかに盛大に、そしてやはりエンディングの演技はスペクタクルなものだった。

競技成績の良し悪しにかかわらず、このエンディング作品が武庫川女子の新体操部の誇りであり根幹なのだと思う。

どんなときでも、これをやり切る力があるから、2018年からのV字回復もあったのだ。

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日本有数の部員数を誇る体育大学の発表会と同じようにはできない。

でも、だからこそ、自分たちにしかできないものをやろう! と先輩たちが積み重ねてきた工夫は、後輩たちに脈々と受け継がれ、今のこの演技がある。

新体操に関わっている人ならもちろん、一般の人であっても、武庫川女子大学新体操部の演技発表会は、ぜひ一度見てほしい、体験してほしい発表会だ。

今は、先が見えないけれど。

あきらめなければ、きっと誰にでも明るい明日は来る。

そう信じて、彼女たちのように強くたくましく前に進みたいと思う。

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それは武庫川女子だけでない。

今までもいつも、なにか辛いことがあっても、新体操に打ち込んでいる選手たち、そして彼女たち、彼らが見せてくれる演技を見ることで元気をもらってきた。

今も、そうだ。

新体操には、いやスポーツにはそういう力がある。

私はそう信じている。

<映像・写真提供/武庫川女子大学新体操部>