【新体操】みんなに愛された「97年組」を最高の形で送り出した長野県の心意気~テレビ信州杯2020

左から猪又涼子、河崎羽珠愛、古井里奈、桜井華子

例年とおりと言ってよいだろう。

今年もテレビ信州杯は、大盛況だった。

そして、今年のこの大会のエキシビションは、おそらく「後世に語り継がれるだろう」と思われるほどの感動に包まれた。

テレビ信州杯のエキシビションは、毎年素晴らしい演技を見せてくれる。

かつても、このエキシビションを自らの最後の舞台にした選手もいた。

「そうしたくなる雰囲気」が、この大会にはあるのだ。

今年のエキシビション演者は、2019年の全日本選手権をもって競技生活からの引退を表明していた大学4年生の4人。

猪又涼子、河崎羽珠愛、古井里奈、桜井華子の4人だった。

「97年組」という呼び方がいつの間にかすっかり定着してしまったこの4人は、本当に長い間、日本の新体操界を牽引してくれた名選手だ。

最後の全日本選手権を終えてからも、各地の演技会などには引っ張りだこで、衰えぬ演技を見せてくれている4人だが、テレビ信州杯では4人でのコラボレーション演技も行うと発表され、期待は高まっていた。

※2019全日本選手権前の97年組の記事

同じ大会に出る機会は多かった4人だが、所属はばらばらなので、テレビ信州杯になじみがあるのは、地元・長野出身の猪又涼子のみ。

あとの3人は、おそらく選手として出場したことはなかったのではないかと思う。

それでも、このテレビ信州杯で、「4人揃っての最初で最後の演技を披露する」ファンにとっては夢のような企画が実現したのだ。

レセプション会場での4人
レセプション会場での4人

エキシビションは大会3日目の19日に行われることになっていたが、4人は前日の夜に行われたレセプションから参加していた。

現役時代とは違う開放感の中で、4人はじつに楽しそうだった。

もともと非常に仲が良いとは聞いていたが、こういう形で4人で同じ時間を過ごせることが楽しくてたまらないことが伝わってきた。

そして、数え切れないくらい多くのレセプション参加者から記念撮影を頼まれていた。

大会3日目。

1回目のエキシビションは昼に行われた。

そして、この日の観客席は、例年以上の大入りだった。正面側は、最後列までびっしり人が入っていた。

テレビ信州杯といえどここまで人が入ったのを見たのは初めてのように思う。

午前中から最後列まで人で埋まった観客席
午前中から最後列まで人で埋まった観客席

昼のエキシビションでは、4人がそれぞれに演技を披露した。

競技作品とは衣装も違い、4人の個性がよく出た素晴らしいパフォーマンスに、喝采が起きた。

4人それぞれの個性が出た衣装と演技による午前のエキシビション
4人それぞれの個性が出た衣装と演技による午前のエキシビション

さらに、このエキシビションの後、会場のロビーに場所を設けて、4人のサイン&撮影会が催された。

アナウンスされるとあっという間に列ができた。子ども達はワクワク、ドキドキしながら列に並び、頬を紅潮させながらサインをもらい、一緒に写真に納まっていた。

撮影会ではみんな笑顔になった
撮影会ではみんな笑顔になった

子ども達が嬉しそうなことはもちろんだが、この催しは、きっと引退する4人にとっても得がたい経験だったのではないかと思う。

彼女たちは、素晴らしい選手だったし、立派な競技成績もおさめてきた。

が、いくらフェアリージャパンが世界選手権で金メダルをとったところで、日本では新体操はまだまだマイナー競技だ。

新体操の世界ではスターに違いない彼女達でも、こんなに多くの人たちからサインだ、写真だともてはやされたことなどほぼないと思う。

4人のサイン入りのプログラムは子ども達の宝物になるだろう
4人のサイン入りのプログラムは子ども達の宝物になるだろう

おそらく。

競技に打ち込んでいたときには、もてはやされることなんて望んでもいなかったと思う。

なにかの機会に、自分の演技が誰かに喜ばれている、誰かの力になっていると知ったときは、きっと嬉しかったと思うが、「サインください」「写真撮っていいですか!」と追い回されることなどは求めていなかっただろう。

ただひたすらに競技を究めること。

彼女たちがそう生きてきたことを知っているから、分かっているから。

こんなにも多くの人たちが、彼女たちの最後の演技を見たいと望み、彼女たちに「大好き」という思いを伝えたかったのだ。

そして、もう競技の場からは離れることを決めた彼女たちだから、「こんなに多くの人たちがあなた達のことを愛している」と、実感してほしいという気持ちで、運営側がこの一連のイベントを企画したのだろう。

いつも「新体操っていいね!」と子ども達に感じてほしいという思いでいっぱいのテレビ信州杯であり、長野県の先生方のその心意気やよし、だ。

サイン&撮影会場には多くの人が列を作った
サイン&撮影会場には多くの人が列を作った

昼のエキシビションと、競技終了後のエキシビションの間の時間に、サイン&撮影会。息つく暇もなく、練習する時間もなかっただろうが、4人はずっとニコニコと笑顔を絶やさなかった。

この日、エキシビションで踊ることも、こうしてサインに応えることも、すべて「幸せ」だと感じている、そんな笑顔だった。

演技を終え、観客の声援に応える4人
演技を終え、観客の声援に応える4人

すべての競技が終了してから、午後のエキシビションが行われた。

これは4人でのコラボレーション演技。AIの「Story」にのせて、4人が同時に、そして一人ずつ、今まで歩んできた道をなぞるように踊る。そして、最後は、フロアのいちばん前に進み、両手を大きく広げて満面の笑みでポーズ。

「やり切った」という笑顔であり、この場で4人で踊る機会が与えられたことへの「ありがとう」の気持ちもこもった笑顔に見えた。

「97年組」の4人は輝かしい活躍をしてきた選手には違いないが、一方で、傍から見ているだけでも感じ取れる「つらい時期」も経験してきた選手たちだ。思うようにはいかなかったことも多かったはずだ。

日本の新体操は、今でこそ「東京五輪で団体メダル獲得」なんて夢を口に出せるようになった。

が、彼女たちが新体操をやってきた10数年は、そんな希望に満ちた時代ではなかった。

「どんなに努力しても報われることはないのでは? だったら辞めてしまおうか」と思ってもおかしくない時期もあった。

最後はフロアを1周しながらのハイタッチ会
最後はフロアを1周しながらのハイタッチ会

それでも最後まで、彼女たちは自分をあきらめず、最後まで自分の「Story」を描き切った。

その姿勢が、多くの人の心を動かした。多くの人の希望になった。

彼女達が、日本の新体操界に希望を灯し続けてくれたことに対する、最大限の感謝の気持ちを、大会関係者と集まった観客が示してくれた。

だから、彼女たちの演技を前に、この大きなホワイトリングという会場が、ひとつになり、温かい空気に包まれた。

ずっとたくさんの夢を見せてくれた4人だから、できることなら最高の形で送り出したい。

みんなのそんな思いがここに、結実した。

新体操をずっと続けていれば、努力を続けていれば、こんな日が訪れることもある。

この日、ホワイトリングで見たのは、そんな奇跡だった。

<写真提供:清水綾子>※一部筆者撮影