【新体操】公開練習に見るフェアリージャパンPOLAの成熟

2015年,エキシビションで演技披露するフェアリージャパンPOLA

熊本での公開練習のあと、取材に来ていた報道の記者が、Twitterでこんなことをつぶやいていた。

「フェアリージャパンの練習は凄まじい。本気度がすごい。

 他の競技の人にも見てほしい。」

12月の福岡での公開練習は、熊本に比べるとふんわりとした明るい雰囲気の中で行われた。

山崎強化本部長のトークショーともセットだったため、練習の間も、山崎氏がマイクを握り、練習の解説をする場面もあり、やや「公開用の練習」という雰囲気もあった。

それ以上に時期が違う。

12月7日に行われた福岡での公開練習時は、「新しい演技がやっと完成しました」という段階だった。

なので、ミスはまだ出ても当然。

たまに、落下なしである程度の長さ演技が続くと、山崎氏も「今のはけっこう続きましたね~」と声を弾ませることもあった。

選手たちも、まだミスの出るところをあぶり出している、といった空気だった。

そして、そんな空気のところ、観客がいることで、程よく張り切り、緊張感もあったため、「思ったよりもできる!」という手ごたえを選手たちも感じているようだった。

熊本での公開練習は、年が明けて1月13~14日に行われた。

年末年始に少しは休みがあったかもしれないが、「演技ができたばかり」だった福岡の公開練習から1か月以上経っている。

2020シーズン初戦と目されていたモスクワグランプリは、2月8~9日に予定されていて、試合まであと1か月を切った時点での練習で求めるレベルは、当然、1か月前とは違ったはずだ。(注:現在、日本体操協会の公式サイトでは、モスクワグランプリには団体は欠場となっている。国内での調整を優先したものと思われる)

手具落下はもちろん避けたいが、落とさなければよいというものではない。

現在のルールでは移動してのキャッチによる減点も大きい(1歩の移動で減点0.3)。それを演技中に何回も繰り返せば、せっかくD得点を上積みしても、あっという間に点数は下がってしまう。

演技が完成して、それを落下なく通せるようになればゴールではない。

交換や連係での細かい移動や身体難度や手具操作での不正確さなど、新体操には減点ポイントが数多くある。

それらを潰していく練習を積み重ね、そしてそれが本番で出し切れるように、ノーミス演技を練習では何回も何回も出せるところまで仕上げていく。

それでも、本番ではミスが出るのが新体操だ。

日頃の練習が「これで大丈夫! OK!」と終われることは、フェアリージャパンじゃなくても、まずない。

モスクワグランプリまで1か月を切っていた熊本合宿は、公開練習を見に来た新体操をやっている子ども達や一般の観客から見れば「完璧! ノーミス!」に見えるくらいの演技ができたとしても、まだ不安。もっともっと詰めていかなければ。そのくらいの時期ではなかったか。

少なくとも、せっかく観客を入れるのだから、演技の全容はわかる程度の通しはやろうという予定もあったのではないかと思う。

しかし、公開練習での2日間。

通しにたどりつけるような練習にはならなかった。

おそらく、「落下なく通せればいい」以上のものを求める練習をしているからこそ、部分練習での求める基準が上がり、それをクリアできずやり直しを繰り返す。その結果、疲労や焦りも重なりミスが連鎖する。

新体操の経験のある人ならば、わかるに違いない、そんな「はまり方」をしていたように思う。

2019年国内でのエキシビションのフェアリージャパンPOLA
2019年国内でのエキシビションのフェアリージャパンPOLA

驚いたのは、この練習に立ち会っていた山崎強化本部長が、練習中はほとんど口を挟まず、山口留奈コーチに全権をゆだねていたことだった。それはおそらく、普段からそうだということなのだろうが、疲れの色の見える選手たちを心配して観客から「がんばれー!」と声がかかり、動き始めれば手拍子も起きる状態になっても、山崎氏は動かなかった。

山口コーチは、2016年のリオ五輪後からフェアリージャパンPOLAのコーチになった。現役時代は、全日本チャンピオンにもなっている個人選手としての実績は十分なコーチだが、まだ20代という若さ。フェアリーのコーチになった時点でも、所属であるイオンでコーチ経験はあったものの、指導歴はまだ浅かった。また、山口コーチの現役時代は、ジュニアのときはイオンで団体メンバーだったこともあるが、途中から個人選手になったため、団体経験がないわけではないが長くはない。

フェアリージャパンPOLAのコーチとしてのこの3年間は、山口コーチにとっては苦難の連続ではなかったかと想像する。

が、そのコーチとしてのキャリアが厚みを増すのと比例して、チームには結果もついてきた。

今や、山崎強化本部長が、「信頼して任せられるコーチ」に成長したのだろうと、公開練習を見て感じた。

山口コーチは、練習がかなり煮詰まってきても、怒鳴ったり、大きな声を出したりはしない。

極めて淡々と冷静に、「今、何が悪かったのか」「どこをどう改善するべきか」を指摘するだけだ。

それでいて、このままでは変わらないと判断すれば、「交代して」と有無を言わせぬ決定もする。

新体操の練習でありがちな「もう一度やらせてください」が入り込む余地はない。

2014年まで現役だった山口コーチは、現役にごく近い。

おまけに年齢も近い選手の気持ちは、良くも悪くも手にとるようにわかるのではないかと思う。

だから、口先だけのごまかしも効かないし、気持ちだけでやるべきことができるわけではないことを誰よりも知っているのではないか。

時には非情に見えても、最終的に選手が望む「ノーミス」や「勝利」に着実に近づいていける方法を(あるいはダメな方法も)、彼女はおそらく身をもって知っているし、さらにコーチ経験を積みながら学んだのだ。

こんなコーチがついているフェアリージャパンPOLAは、強くなるべくしてなったのだ。

福岡で1日、熊本で2日、公開練習を見ていて感じたのは、フェアリージャパンの練習には無駄がないということだ。

やってみる ⇒ ミスする ⇒ ミスの原因を指摘、改善点を指示 ⇒ 再度やってみる

シンプルにその繰り返しだ。

団体練習でよく見かける、ミスした選手が大きな声で「すみませんでした!」と叫ぶこともない。

動き始める前に、全員で大きな声でコーチに向かって「お願いしまーす!」と叫ぶこともない。

動き終えてから、コーチの指示を聞くためにコーチの前に走り寄り、並んで「お願いします」もない。

ミスした選手を「やる気がない。みんなに迷惑かけている」と責めることもない。

観客を入れての公開練習だから、本当にいつも通りとは多少の違いはあるとは思う。が、こういったことは、普段やっていることが出てしまうし、よそゆきにはできないものだ。

こういったいわば「練習における儀式」は、必要な時期もあるとは思う。

まだ試合の厳しさも競技の厳しさもわかっていないジュニア選手なら、こういうことで自覚を促すことも必要かもしれない。

ただ、今のフェアリージャパンなら、もうそれは不必要なのだ。

ミスした選手が申し訳ないと思っていることはお互いにわかっている。

コーチからの指摘を待っていること、聞き入れる気持ちがあることもわかっている。

だから、そんな儀式にエネルギーを使うのではなく、練習に力を注ぐ、それこそが最優先。

それでいいと思う。

もしかしたら、公開練習の見学にジュニア選手を連れてきた指導者の中には、「これでは見本にできない」と思った人もいるかもしれない。

ある意味、規律とか礼儀、そういった面は、国内の大学生や高校生の強豪チームのほうがよほど厳しい。

そんな練習ぶりだった。

が、もちろん、フェアリージャパンの練習が緩いとかたるんでいるとかそういうことではない。

前述の記者がつぶやいたように、「凄まじい」し、「本気度が凄い」。そう思わせる練習なのだ。

そして、それは、公開された4時間だけでなく、連日8時間は続いている。

選手たちの意識が本当に高まってきたら、必要以上に厳しい規律を求めなくても、よい練習はできる。

そして、上達も成長もできる。

フェアリージャパンの公開練習には、そんなことも教えられた。

学閥を超えて、可能性をもった選手たちを選抜し、チームとして時間をかけて育てていく。

日本はこの「選抜団体方式」で多くのそれまでの常識を変えてきた。

練習の在り方も、いずれはこのフェアリー方式が浸透し、変わってくるのかもしれない。

福岡での公開練習の際に行われた山崎強化本部長のトークショーで、山崎氏は、こう言っている。

「選手たちは、メダルという大きな目標があるからやっている。そこに自分の感情を持ち込んでふくれるような選手ならいなくていい。

 選手は意欲を持っていれば、自己コントロールできるはず。指導者の仕事はそのモチベーションを保つための工夫だけ。」

また、こうも言っている。

「自立した選手を育てたい。日本のジュニア選手にももっと自立してほしい。コーチがいないから不安になるようではダメ。いつも指示された練習しかしていないと、言葉が少なくなり、自分の考えを伝えることもできなくなってしまう。」

選抜メンバーでわずか半年の練習で世界選手権を戦った2005年から15年。

山崎強化本部長が求め続けてきた「自立した選手」「自立したチーム」の練習が、今のフェアリージャパンにはある。

いや、山崎氏も山口コーチも、「まだ足りてない」と思っているだろう。

もう一歩。あと少し。

本当に彼女たちが、「自立」し切れたときには、東京五輪での金メダルが「現実のものになるかもしれない。

<写真提供:清水綾子>