【新体操】フェアリージャパンPOLA・正メンバーを猛追! 16歳・稲木李菜子のポテンシャルと課題

全日本ジュニアに出場した頃の稲木李菜子(2017年撮影)

昨年末あたりから、テレビでフェアリージャパンPOLAを見ることが多くなった。

スポーツ番組だけでなくバラエティー番組にも登場し、若い選手たちらしいチャーミングな笑顔やお茶目な一面も見せてくれて、好感度も知名度も上昇中かと思う。

しかし、これらの番組に出ているのはほとんどが昨年の世界選手権に出場した6人(杉本早裕吏・松原梨恵・熨斗谷さくら・横田葵子・竹中七海・鈴木歩佳)だが、フェアリージャパンPOLAの団体メンバーはあと5人いる。

2018年の世界選手権後に加入した今岡里奈、稲木李菜子、末永柚月。

そして、昨年の世界選手後に加入した鵜鷹くるみ、生野風花だ。

この5人は、生野が中学3年で他の4人は高校生。フェアリーとしてのキャリアも、昨年の世界選手権組の6人とはかなり差があり、どちらかというと「2024パリ五輪」を視野に入れているメンバーだろうとは思う。

※稲木選手らがフェアリー入りした際の記事

しかし、もちろん、彼女たちにも「東京五輪出場」の可能性はある。

現メンバー以上の力をつければもちろんのこと、あまり考えたくはないがメンバーに怪我人が出ることだってあり得る。

そのときに、穴が埋められないようでは11人もいる意味がない。

「いつでも代われる」準備は進めておかねければならない。

東京五輪での金メダル獲得に向けて、今シーズンのフェアリージャパンPOLAの演技は、「過去最高難度」だという。

昨年の演技でも、十分、難しそうに見えていたが、今シーズンはそこからさらにD得点を4.0~5.0上げていくと、折に触れ山崎強化本部長は口にしている。

昨年の演技も、春先から9月の世界選手権までに4.0、D得点を上げている。つまり、1年前と比べると、8点近く上げているのだ。

とてつもないスピードで演技が進化しているが、本気で金メダルを目指すのならば、それは必須なのだ。

ライバル国もおそらく同じくらい技を詰め、D得点は上げてくる。その高いレベルでの戦いを、いかにミスなくやり切るか、五輪はおそらくその勝負になる。

「ミスを避けるために、難度を下げる」この期に及んでその選択はない。

そうなると、昨年まで正メンバーだった6人でも安泰ではない。

今までの以上の高難度の演技、「3秒に一度は大技」と言われる演技に対応するには、器用性が求められるからだ。

フェアリージャパンのメンバーであれば、新体操に必要な能力のほとんどの平均値は高い。が、もちろん、個人差はある。

器用性や反応のよさ、処理能力の高さなどに秀でている選手もいれば、体の線の美しさや表現力が強みの選手もいる。

それらの強みをうまく組み合わせて最強となる5人で東京五輪は戦うことになるのだ。

(注:リオ五輪、世界選手権までは選手は6名登録できたため、団体総合2種目でメンバーの1人は交代することができた。昨年の世界選手権の際は、横田選手は「ボール×5」、熨斗谷選手は「フープ&クラブ」のみの出場だった。)

東京五輪のフロアに立てるのは現在11人のフェアリーメンバーの中の5人だけ。

そこには当然、熾烈な競争がある。

演技の高難度化によってチャンスが回ってきた選手もいる。

フェアリー入りして2年目になる稲木選手だ。

昨年12月の福岡県宗像市、今年1月の熊本県芦北市で行われた公開練習では、稲木選手が正メンバーのチームに入っていた。

抜けていたのは、竹中選手、横田選手。他の選手はやっている難度を抜いたりもしていたので、どこか故障があるのかもしれない。

「5人」に残れるかどうかは、技術だけでなくメンタル、そしてコンディションの問題も大きい。

自分が抜けて、他の選手がそのポジションをやっていれば、焦りはあるだろうが、無理してやり続けて大事なときに体がいうことをきかなくなるよりは、抜けられるときには抜ける冷静さも必要だ。抜けて、その間にできることも必ずある。もちろん、休むことも含めてだ。

稲木選手は、このとき、めぐってきたチャンスをモノにしようと必死に食らいついていた。

もとより「技術力は高い。どこに置いてもこなせる」と、山崎強化本部長も評価する選手だ。

うまくいっているときは、ごくスムーズに演技に溶け込んでいた。

稲木選手の特徴は、手具操作が非常に正確で、それも動きの中に自然に溶け込んで操作できることだ。

同じ投げをやっても、稲木選手の投げはスムーズでいつの間にか投げたように見える。

その能力は団体の中でも十分に発揮されていた。

まだフェアリージャパンとして試合に出た経験もない高校生とは思えない堂々たる練習ぶりだった。

新しく入った選手がこれだけの演技ができること、それは今までのメンバーにとってはおおいなる刺激であり、また、チームとしては安心感にもつながるだろう。

しかし、芦北の公開練習の2日目のことだ。

この日は、かなり練習の空気が重かった。前日もなかなか思うように演技がまとまらず、気持ちを切り替えて始めたはずの2日目の公開練習も徐々にミスが増え、同じところでミスを繰り返すことも出てきていた。

稲木選手にもミスはあったが、べつに稲木選手だけがミスしていたわけではない。

それでも、練習の中盤あたりだったろうか、山口留奈コーチは、稲木選手に「交代」を告げた。

代わりに入ったのは、竹中選手。

それまでは、隣のフロアで正メンバーと同じ「フープ&クラブ」を、サブメンバーたちと練習していた竹中選手は、稲木選手と同じポジションをやっていた。

稲木選手に代わって正メンバーに入った竹中選手は、その場を見事に乗り切った。

ミスがないわけではない。とくに苦手な投げがあるようで、そこはかなり厳しく指摘されていたが、それでも、明らかに竹中選手が入ると、チームの空気が変わった。それはやはり、長く一緒にやってきたメンバーならではの空気なのだと思う。

そして、竹中選手の持ち味である伸びやかさ、華やかさ。その良さを竹中選手はしっかりアピールできていた。

周りのメンバーも「誰が入っても同じにできるように」と練習しているはずだ。

稲木選手も、技術や身体能力では竹中選手にも劣らない力はつけてきていると思う。

ただ、経験の差、一緒にやってきた時間の差、だけはまだ埋まっていないように感じた。

しかし、サブフロアに回った稲木選手も、おそらくショックも受けていただろうし、悔しい気持ちもあったと思うが、すぐに切り替えて、ときには笑顔も見せながら、練習を続けていた。

稲木選手は、小学生のころから見ているが、メンタルは強いとは言えない選手だった。

とにかく完璧主義者で、練習でもうまくいかないところがあると、そこにこだわってひたすら同じところを練習する、そんな選手だった。

その執着心が、彼女の高い技術力を育んだのだと思う。そこまで突き詰められることは彼女の才能でもあるのだ。

ただ、それは欠点でもあり、出だしでつまずくと演技全体が崩れてしまう、そんな姿も見てきた。

気持ちの切り替えは、決してうまいほうではないはずだ。

だが、その稲木選手が、公開練習という周囲の目もある中で、フロアから下され、そのままサブフロアで笑顔を見せながら練習していた。その姿はまるで別人だった。

芦北での公開練習2日間のほとんどをサブフロアで過ごしていた竹中選手が、入るなりしっかりチームの雰囲気を盛り上げ、役割を果たした姿にも、ある種の凄みがあった。

今のフェアリージャパンは、選手の気持ちも強くする。そんな環境なのだと感じた。

「いつでもいける」

「チームの空気が悪くてもそれを変えられる」

「逆境に陥っても明るさを失わない」

という覚悟が、こうやって交代しながらやっている選手には必要だ。

もちろん、今はメンバーに定着している選手でもいつそうなるかもわからない。

「最後にフロアに立つ選手」

に相応しい自分になるために、この日の稲木選手と竹中選手は必死に戦っていた。

フェアリージャパンPOLAが出演したテレビ番組が続々と放送されているので、世界選手権での金メダル獲得で浮かれている? ように見えるかもしれない。が、あれは世界選手権後の短いオフを中心に撮影したものがほとんどで、現在はもう練習に明け暮れている。

しかも、そこで、「1年前には想像もできなかったような高難度プログラム」に挑戦し、チーム内でのポジション争いもある。

浮かれている暇なんてあろうはずがない。

そして、それは8月の東京五輪まで続く。

頑張れ! フェアリージャパンPOLA!

ここからが正念場だ!

<写真提供:清水綾子>