【新体操】東京五輪へのラストスパート! ~喜田純鈴、復活の2019を振り返る

全日本選手権で優勝した喜田純鈴

特別強化選手3人のうちの1人、喜田純鈴にとって2019年は崖っぷちの年だったと思う。

2016年のリオ五輪後、特別強化選手となり、ロシアでの長期合宿に入った喜田選手は、2017年の世界選手権では、12位。順調に皆川夏穂の後を追っているように見えていた。

が、小学生のころから日本のトップを走り続けてきた長年の疲労からくる故障に苦しめられるようになる。

2018シーズン前半は、ワールドカップにも出場できず、8月の全日本クラブ選手権でなんとか競技復帰を果たすも、本来の調子にはほど遠く、個人総合10位。国内の多くの選手たちの後塵を拝することになった。

2018全日本クラブ選手権10位
2018全日本クラブ選手権10位

9月に行われた2018世界選手権には、2種目のみ出場しフープ12.950、ボール14.050。この年が世界選手権初出場だった大岩千未来でも、16~17点台で4種目をまとめており、喜田選手の不調ぶりが得点を見るだけもわかる。

そして、その1か月後の全日本新体操選手権に、喜田純鈴は出場するが、ここでまた国内の選手たちに負けるようなら、「喜田不要説」が一気に浮上しかなねい。そんな追い込まれた状況での出場だった。

世界選手権から間が1か月しかなく、心身ともに立て直すのに十分な時間があったとは言えない。しかし、そこで喜田純鈴は踏みとどまった。

フープ18.050、クラブ18.250、ボール17.700は、同年の世界選手権での皆川や大岩の得点とも遜色ない。極度の緊張は感じられる演技ではあったが、そんな緊張の中でもこれだけの得点をもぎ取ることができる。その能力と気力を見せた試合だった。

2018全日本新体操選手権優勝
2018全日本新体操選手権優勝

2018年12月23日。

喜田純鈴は、地元・香川県の所属クラブ・エンジェルRGカガワ日中の発表会の舞台に立っていた。幼いころから慣れ親しんだ仲間たち、コーチたちの中で、笑顔が弾ける場面もあり、のびのびと楽しそうに踊っていた。

その姿を見たとき、2019年の喜田純鈴には期待していいのではないかと感じたのだった。

明けて2019年。

皆川と大岩の初戦は、2月のモスクワグランプリだったが、喜田は出場していなかった。

喜田の初戦になったのは、3月8~10日のリスボン国際。

特別強化選手の3人が同時にエントリーしているという意味でも注目の大会だった。

この大会の個人総合で、皆川夏穂は3位。そして、喜田純鈴は7位に入った。大岩千未来は喜田に次いで8位。

喜田選手は、フープ、ボールで19点台を出し、この2種目は皆川選手に限りなく迫る高得点だった。クラブではミスが重なり15.400と大きくへこんでしまったが、これをまとめられていればメダルもあったかも、という健闘だった。

4月12~14日はワールドカップソフィア大会に出場。この大会でも、フープ19.000、ボール18.650と前半種目では高得点をマーク。しかし、この試合でもクラブが乱調で14点台と足を引っ張ってしまった。

翌週のワールドカップタシケント大会では、大きく崩れる種目はなかったものの、4種目が16~17点台におさまってしまった。

そして、喜田は、今年も8月の全日本クラブ選手権に出場した。1年前は個人総合10位に終わった因縁の大会だが、今年はフープ、ボールで18点台を出し、見事、個人総合優勝を果たした。

2019全日本クラブ選手権優勝
2019全日本クラブ選手権優勝

世界選手権前の最後の国際大会、9月6~8日に行われたボルチマン国際では、リボン以外の3種目を18点台でまとめ、かなり安定感が出てきた。しかし、この1週間前に行われたワールドカップカザン大会では、皆川がフープ、ボールで、大岩もクラブで20点超えを果たしていた。

2019年になってからの喜田の追い上げは、驚異的なものがあったが、この時点ではあと一歩及ばずと言わざるを得なかった。

東京五輪の枠取りのかかった2019世界選手権。

喜田純鈴は、クラブ、リボンのみのエントリー。クラブでは19.175を獲得したが、リボンではミスが出た。

そして、この大会で皆川は13位となり、東京五輪の個人出場枠1を獲得。大岩は19位で枠獲得の16位にあと一歩及ばなかった。

出場枠1が誰のものになるかはまだ決まっていない。

枠獲得に貢献した皆川のものと決まっているわけではない。

また、2020年春のワールドカップシリーズや大陸間選手権などの成績により、もう1つ枠を獲得できる可能性は残っている。そして、その枠取りができるかどうかは、喜田、大岩の2選手に懸かっているのだ。

※日本体操協会公式サイトより引用
※日本体操協会公式サイトより引用

今年の世界選手権は喜田純鈴にとっては、悔しい思いが大きかったと思う。が、1年前のことを思えば、「よくここまで戻ってきた」と思うこともできる大会だったはずだ。

そして、東京五輪への挑戦は、まだまだここからなのだ。

10月18~20日。喜田は今年も全日本新体操選手権に出場し、連覇を達成した。個人総合では、1種目目のフープは他を圧する素晴らしい演技を見せたが、ボール、クラブではミスが続き、連覇に黄色信号が灯る場面もあったが、リボンで突き放した。

2019全日本選手権優勝を決めたリボンの演技
2019全日本選手権優勝を決めたリボンの演技

特別強化選手という立場から、「絶対に負けられない戦い」に彼女は勝った。それも、あの苦しかった昨年に続いてだ。

皆川夏穂選手は、このところ年に1回だけの国内で大会になっていたイオンカップで、じつはミスしてしまうことが多い。そして、「たまにしか見てもらうことができない日本の人たちにいい演技を見せたいと、余計な力が入ってしまった」と反省の弁を述べていた。

特別強化選手には、そういうプレッシャーはついてまわる。それも全日本選手権という公式の大会となればなおさらだ。

「負けるわけにはいかない」という大会で、2年連続して優勝した喜田純鈴は、世界で戦えるだけの強いメンタルを手にしつつあるのではないか。

「優勝はなしか?」と思われる場面での、圧巻のリボンの演技を見たときに、そう感じた。

そして、今年も、喜田選手は、12月22日、香川県での発表会の舞台に立っていた。

そこで彼女は、2019年が決して悪い年ではなかったと感じているのだろうと思える笑顔を見せていた。

※リンク先/NHK香川のニュース動画

喜田純鈴が、全日本選手権で2位になり、世間を驚かせた2013年。彼女はまだ中学1年生だった。

「東京五輪の星」として、報道陣がつめかけ、何回も同じ質問をするのに、飽き飽きしている様子を隠そうともしない子どもだった彼女も、もう19歳になった。

幼いころから、あまりにも飛び抜けた能力をもち、両親ともに新体操選手という環境から、おそらく「五輪出場」を夢見ていた時間よりも、「五輪出場」を使命のように感じていた時間のほうが長いのではないかと思う。

だから。

自らの身体と手具を、やすやすと操ることが楽しくて仕方ないように見えていた中学生のころの印象よりも、苦しみ、ときには畏れているようにも、ふてくされているようにも見えた近年の印象が強くなっていた。

しかし、それも、選手として、いや人としての「喜田純鈴」が避けては通れなかった成長の過程なのだと今、感じる。

12月7日の宗像市の公開練習で見た喜田純鈴の練習ぶりは、じつに生き生きとしていた。

リボンは今シーズンと同じ「007」を使っていたが、ぐっと自信をつけたようで、難しいはずの操作も軽々とやりこなしていた。ボールは新しい曲での演技だったが、個性的な曲で、喜田純鈴らしいアクが見えるよい作品になりそうな予感がした。

来るべき2020年に向けて、迷いなく進む決意、がその練習ぶりからは感じられた。

この3年間、まさに山あり、谷ありだったと思う。

が、きっと。

「すべてはこのためにあった」と思える日が来る。

それが2020年かどうかもわからないが、悔いのない戦いができたならば、きっといつか、そう思えるはずだ。

<写真提供:清水綾子>