【新体操】「東京五輪新体操日本代表」にもっとも近い22歳・皆川夏穂の現在地

2019世界選手権で演技する皆川夏穂。東京五輪の個人枠1を獲得した。(写真:アフロ)

考えてみれば、今年は皆川夏穂の演技を生で見ていない。

海外の大会まで足を運べない日本のファンはみなそうだろう。

国内にいて彼女の演技を見るチャンスは、報道陣に向けた公開練習くらいだった。

それでも、今年は調整がうまくいっていたのか、気持ちの変化もあったのか、皆川は概ね好調だった。

年間を通して、大きくへこむ試合は少なかったし、演技に安定感が増してきた。

その実績と自信が、世界選手権での結果につながったのだろう。

※2019世界選手権での皆川夏穂のフープ(予選)FIG Channelより

皆川が勝ち取った貴重な「個人枠1」は、選手に対して与えられるものではなく、

国に対して与えられるものだ。つまりこのまま枠が1だった場合、代表が皆川になるとは限らない。

現在、日本の特別強化選手は3人。皆川の他に、世界選手権個人総合19位の大岩千未来、昨年の不調から力強い復活の兆しを見せている現・全日本チャンピオンの喜田純鈴がいる。

大岩は、今年の世界選手権の結果では、皆川よりも下だが、じつはどの種目でもミスがあった。もしも大岩が4種目ノーミスでやりきることができれば、あるいは皆川よりも上にくることもあり得る、というところまで、大岩の評価は高まってきている。

喜田も同様に、持ち前の身体能力の高さを存分に発揮できれば、かなり高い評価を得られるポテンシャルはある。

「個人枠1」では、皆川も決して、安泰と言える状況ではない。

そのことは、皆川自身もわかっている。

だから、世界選手権以後の大会をキャンセルして、故障のケアに務めている。

とくに国内で演技をする貴重な機会だったイオンカップを欠場したことは、かなり苦渋の決断だったとは思うが、そうしてでも、2020年を少しでも良いコンディションで迎えたいという思いがあったのだろう。

果たして、皆川は復調できているのか。

来年に迫った東京五輪、いやその前に国内での代表争いを戦い、勝ちきる準備はできているのだろうか。

11月3日。

宮崎のイオンモールで行われた「スポーツ&ホストタウンフェア」というイベントで、皆川選手の元気な姿を見ることができた。

元フェアリージャパンPOLAの坪井保菜美さんとともに登壇し、新体操に対する様々な思いを語ってくれた。

そのイベントの中で、会場の子どもから「試合のときどうしたら緊張しなくなりますか?」と質問されたときの皆川選手の回答が、とても印象に残った。

「踊るのが楽しいという気持ちや、自分の演技をたくさんの人に見てもらえることが嬉しい、という気持ちを思い出すようにする」

皆川選手はそう答えたのだ。

ボールの優雅な操作を披露する皆川選手(撮影:筆者)
ボールの優雅な操作を披露する皆川選手(撮影:筆者)

そのとき、今年の皆川選手が、今までの年に比べて安定感のある演技ができていた理由がわかった気がした。

おそらく彼女は、やっと「自分のための新体操」を取り戻したのだ。

もちろん、日本を代表する選手だという自覚もあるはずだが、責任感が人一倍強い彼女は、その自覚が重圧になっているように見える時期が長かった。技術は進歩している。世界での評価も上がってきている。演技から醸し出す雰囲気も年相応に備わってきている。

それでも、「日本代表選手としてこれでいいのか? 応援してくれている人たちをがっかりさせないか?」

そんな思いを背負いすぎているように、見えたことも多かった。

その皆川選手が、「楽しい、嬉しいという気持ちを思い出すこと」で緊張を克服できるとアドバイスしたのだ。

それは彼女が苦しい経験や悔しい思いをたくさん重ねてきた結果、会得したものなのだろう。

宮崎でのイベントでは、トレーニングウェアのまま、少し動いて見せたり、ボールを扱って見せるくらいしか動いていなかった皆川選手だが、12月7日に福岡県宗像市で行われた「フェアリージャパンPOLA公開練習」では、元気な姿を見せ、フルではないながらも通し練習も披露してくれた。ボールとクラブ。どちらも新しい曲と構成だった。

この後、ロシアでさらに調整していくのだろうから、このとき披露された演技がそのまま今シーズン用の演技になるかはわからない。が、この日の皆川選手は、ボールで「マイウェイ」を使っていた。

ベタといえばベタな選曲だ。現在の新体操の個人総合の選手たちの中では最年長に近くなっている皆川選手が、出るとしたら当然「最後の五輪」になるだろう大会で、「マイウェイ」で踊るなんて、あまりにもストレートすぎる。

が、それでも、この日の通し練習を見ていて、涙が止まらなかった。

皆川選手が、可愛らしい笑顔で、ぴょんぴょんと音符の上を弾んでいるようなリズミカルな演技を、生真面目そうな丁寧さで実施して、チャイルド選手権で優勝したころから、見ているのだ。

コントロールシリーズで、シニア選手たちが熾烈な代表争いをする中の清涼剤のように、挟まれてのびのび思い切った演技をしていたジュニア時代も知っているのだ。全日本ジュニア、全中などを制し、成績だけを見れば、敵なしのようなジュニア時代だったが、その影で、コントロールシリーズでは、ひとつ上の早川さくら選手と競い合い、より上を目指すために、常に挑戦的な演技に挑戦しては、大きなミスを犯して涙したりもしていた選手なのだ。

まだ22歳。

でも、新体操の世界では大ベテランだ。

その彼女が、競技生活の終わりに近いところで、「マイウェイ」で踊る。それは、長くやってきた選手にしか出せない味わいに満ちた演技にならないはずはない。

坪井氏のリクエストに応えて素晴らしい柔軟性をイベントで披露する皆川選手(撮影:筆者)
坪井氏のリクエストに応えて素晴らしい柔軟性をイベントで披露する皆川選手(撮影:筆者)

かたや、クラブでは、皆川選手が大好きだと公言している3代目J SOUL BROTHERSの曲で、明らかに今までに見たことのないようなうきうきした表情で踊っていた。解説していた山崎強化本部長も「好きな曲で踊るっていいですね」と言うほど、誰の目にも演技していることを楽しんでいるように見える演技だった。

故障はまだ完治はしていないようで、フルには通していなかったし、できたての演技なので精度が高かったわけではない。

だが、「皆川夏穂は元気だ。充実している。」ということは十分に感じられた。

2020年になれば、2月にはモスクワグランプリ。その後にはワールドカップと海外での試合が続く。

大岩、喜田は、「もう1枠獲得」を目指す厳しい戦いに挑み、枠の数が決定したらその後には、誰が代表になるのかという戦いがある。

ここからの試合は、1つ1つが「東京五輪への最後の関門」となってくる。

緊張しないはずはない。

が。

皆川夏穂は、きっと大丈夫。

どんな結果になるとしても、悔いのないように最後まで演じきることができるだろう。

それだけの経験を、この22歳は積んできた。

試合での演技ではないが、イベントと公開練習での様子を見てそう感じることができた。