【男子新体操】全日本チャンピオン・川東拓斗(国士舘大学)が見せた「男子新体操の理想形」に学ぶこと

ロープの演技を披露する川東拓斗

2019年度の全日本新体操選手権で、男子個人総合優勝に輝き、自身初の全日本チャンピオンとなった川東拓斗(国士舘大学4年)は、全日本選手権後も精力的に活動している。

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多摩祭での演技披露、さらにドイツ遠征には団体メンバーとして参加、さらに先日は、女子の東京ジュニア新体操クラブの発表会での演技披露、年内は全国各地に指導にも赴くという忙しさだ。

川東選手が引っ張りだこなのは、「全日本チャンピオン」だから、ではある。

しかし、それだけではない。

彼の新体操が、ある意味、男子新体操の理想形であり、「男子新体操の良さ」を如実に見せてくれるから、だろう。

以下は、12月22日、東京ジュニア新体操クラブの発表会での徒手演技だ。

<映像提供:国士舘大学男子新体操部>

ステージ上なので、当然、競技で使用しているスプリングマットはない。

なので、男子新体操のひとつの見せ場であるタンブリングは、大幅に抑えた演技内容になっている。

さらに、本来の個人競技では使用する手具も持っていない「徒手演技」だ。

しかし、それでも、全日本チャンピオンに相応しい貫録と、彼の体操が持つ圧倒的な魅力に溢れている。

これは、女子の新体操を見に来た観客をも虜にする演技だと思う。

近年、男子新体操は着実に知名度も人気も上がってきている。

熱心なファンも多く、海外での人気も高い。

2020年には、6年ぶりに舞台「タンブリング」も復活し、2023年には国スポ(国体)への復帰も決まっている。

上昇気流にあることは間違いない。

ただし。

ひとつだけ、どうしても気になっていることがある。

ちょうど1年前に、このYahoo!ニュースで公開した以下の記事で、指摘していた点にまったく変化が見られないことだ。

※2018年12月に公開した記事

男子新体操選手たちの脚が、いっこうに美しくならないことを言い続けるのは、野暮なのだろうか。

小うるさいと思われているのだろうか。

もっと、手放しに賞賛されたいのだろうか。

今年のインターハイでは、井原高校が歴史に残るような素晴らしい演技で、優勝した。

その演技は、もちろん素晴らしかった。とくに柔軟性においては、男子新体操の可能性をさらに一歩進めたと言えるものだった。

が、だからこそ、後に続くジュニア選手たちには、安易に「井原みたい」を目指さないでほしいと思う。

基本を大切にした美しい演技に定評がある国士舘ジュニアの演技
基本を大切にした美しい演技に定評がある国士舘ジュニアの演技

上位の選手やチームにあこがれ、刺激を受けるのはいい。それがあってこそ成長も向上もある。

だが、足元を固める前に、「すごい!」を求めないでほしい。

今は、幼いころから男子新体操をやっている選手が増えてきた。エアーマットやトランポリンなど、練習環境が整っているクラブも増えてきたため、小学生でも凄まじいタンブリングができたり、以前では考えられないような柔軟性を見せる選手も出てきている。

「もっとやりたい! もっとうまくなりたい!」と思う子どもの気持ちにふたはできない。可能性の芽を摘む必要もない。

が、「もっともっと」の前に、やっておくべきことをやってほしい。

11月に行われた全日本ジュニア選手権での男子選手たちの演技には、素晴らしいものもあったし、どの選手、チームにも見るべきものは多かった。

が、一方で、上半身の動きには感心させられるものの、ふと足元に目を移すと、つま先の伸ばし方も教わっていないのかな、と思われるベタ足のチームも少なくなかった。

柔軟性を求めるあまり、片足を高く上げるために骨盤をずらしていたり、軸足の膝が曲がっているという選手も見受けられた。まだジュニアだ。彼らの競技人生がこの後も続いていくのならば、今、「すごく見えること」よりも優先すべきことはあるはずだ。

タンブリングの強さと同時にベーシックな体操の確かさが光る大垣共立銀行OKB体操クラブ
タンブリングの強さと同時にベーシックな体操の確かさが光る大垣共立銀行OKB体操クラブ

その体操の美しさが高く評価され、チャンピオンにまでなった川東選手だが、新体操を始めたのは小学生のとき、高校で坂出工業高校に進学するまでは、マットのない環境で練習していたという。あっても、学校の体育で使うベタマット。木の床の上で練習することも多かった。

その環境では、タンブリングの練習はほとんどできなかった。しかし、ジュニア時代の指導者から「タンブリングは高校生になってからでも伸びる」と言われ、ひたすら体操を磨くことに注力してきたジュニア時代だったという。

その徹底した基礎の積み重ねが、「理想」とも言われる彼の体操を作り上げた。結果を急がないジュニアでの指導が、先になって大きな花を咲かせたと言える。

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全日本チャンピオンとなった川東選手の体操を、見習いたい、真似したいと思うジュニア選手、高校生なども多いだろう。が、できることなら、その体操だけでなく、育ってきた過程、考え方に学んでほしいと思う。

ジュニア時代から焦ることはない。今、やれること(基礎)をとことんやることが、先につながっていくのだ。

これからのジュニアならば、川東選手の時代よりもさらに脚の美しさを磨くことにも留意して基礎を磨いていけば、高校生、大学生になるころには、意識しなくても美しい脚のラインが見せられるようになる。少なくともマイナスにはならないレベルにはなるはずだ。

この10年。

男子新体操は飛躍を続けてきたと思う。

だからこそ、もう一度、地道な部分を見直していけば、きっともっと進化する可能性をもっていると思う。

男子新体操のこれからに、まだまだおおいに期待したい。

<写真提供:清水綾子>