【新体操】2年連続準優勝の町田RG、悲願の団体初優勝なるか?~第37回全日本ジュニア

2017、2018年と全日本ジュニア団体準優勝の町田RG
今年からジュニア女子の団体種目が「リボン×5」になった。
一人で操作しても、5つの手具の中でもっとも難易度の高いリボンを使って5人で演技するのだから、その難しさは容易に想像できるだろう。
ましてやジュニアだ。
今年見てきた様々なジュニア大会で、「ノーミス」の演技はほとんど見たことがない。
全国の予選を勝ち抜いてきた21チームが出場する全日本ジュニアといえど、波乱が予想される。リボン団体は、そういう種目なのだ。
ところが、「春先の試合ですでにほぼノーミスの演技ができていた」
「夏の関東ジュニアでの演技が素晴らしかった」という評判が聞こえてきたチームがある。
町田RGだ。

クラブが団体種目だった昨年、一昨年、2年連続で全日本ジュニア準優勝をしている町田RGだ。リボン団体でもそこそこ仕上げてきていてもおかしくはない。
しかし、「春先の試合ですでにノーミス」と聞いて、驚きを禁じ得なかった。
なぜなら、私はちょうど11か月前、昨年12月にまだ作品が完成したばかりの町田RGのリボン団体の練習を見ていたからだ。
全日本ジュニアでの準優勝の1か月後だったが、準優勝メンバーから中学3年生、高校1年生が抜け、メンバー5人中3人は全日本ジュニア出場経験もない選手になっていた。
そして、リボンという難しい手具、完成したばかりの演技ということで、このときの練習では、「町田RGでもやはりリボン団体だとこうなるのか」というくらいの大混乱だった。演技開始5秒後にはリボンが絡んでいたし、5人中3人のリボンが絡まり合ったりもしていた。目の前に飛んできていてもリボンのスティックが手からすり抜けていく選手もいた。
目前に、町田フレンズカップという試合を控えており、それがリボン団体の初試合だと聞いていたが、「予備手具2本じゃ足りません」と、指導者が苦笑いしていたことを思い出す。
あれは、11か月前のことだった。

11月13日。
全日本ジュニア直前の町田RGを訪ねてみた。
この日は、試合と同じ流れで本番の1本まで持って行くという練習をしていた。
サブ会場での練習、本番会場での練習、そして本番と、スケジュール通りに分刻みに練習が進んでいたが、とにかく選手たちの声がよく出ていること、自主的な練習ぶりに圧倒された。
ジュニアといえど全日本のトップを目指すくらいのチームならば、それは当然のことかもしれない。しかし、11か月前の彼女たちは、こうではなかった。
リボン団体という難敵を前に、自信なさげに右往左往していたのだ。
それが、見違えるようになっていた。
通しが終わると、各自、自分のミスしたところを自己申告する。
「投げ短くなりました!」
「バランスふらつきました!」
そして、自分以外のメンバーに対しても遠慮なく指摘し合う。
「大きかったよ。ちゃんと投げて!」
「あそこ、ぶつかりそうだった。もっと周りを見て!」
そして、先生からアドバイスを受けたあと、タブレットの動画で確認して、そのときのミスがなぜ起きたのか、どう改善するべきか確認し合う。
間違いなく、「優勝を狙えるチーム」の練習ぶりだった。

練習の雰囲気だけではない。
この日見た通しはどれも、かなり高いレベルで安定していた。
リボンだけに「完璧なノーミス」こそはなかなか出ていなかったが、惜しいところまでは常にもっていけていた。少しばかりの狂いはあっても大きく崩れないだけのメンタル、技術、そして経験を彼女たちは身につけていた。

キャプテンの金井まどかに話を訊いた。
「全日本ジュニアでの目標は、優勝です。去年は準優勝だったので、今年こそは優勝したいという思いはとても強いです。
ですが、それ以上に、全日本ジュニアという舞台で、自分たちの良さを出し切りたいと思っています。」
自分たちの良さ、とは何だと思っているのか、と訊くと、
「町田らしさ、です。
技をやる中でも、動きを大切にしているところ。技に追われるのではなく、曲を表現する動きを常に意識しながら、その中で技を入れていく。見ている人達の心を動かす演技をしたいです。」
という答えが返ってきた。

とは言え、1年前は本当に、これで大丈夫? という状態だった。昨年のチームも経験しており、今年はキャプテンという重責も担う負担は大きかったのではないか。この1年で、どうやってチームをここまでまとめてきたのだろうか。
「団体では、相手にちゃんと指摘しないと気づいてもらえない。
自分も言うべきことは言うけれど、周りも言うし、自分も言われることもあります。
そんな中で切磋琢磨しながらやっていくことでしか、チームの力は上がっていかないと、団体を通して学んできました。」

1年足らずでここまで完成度を上げられたのはなぜかと、町田RG代表の曽我部美佳先生に訊くと、「練習してる」と一言返ってきた。
もともと設定された練習時間もかなり多いうえに、このチームは、オフを入れても、他のクラスの練習場所の片隅を借りて自主練習をしているのだという。
「少しは休めば」と心配になるくらいに、彼女たちは練習する。だから、うまくなったと指導者も認める練習の虫たちなのだ。
なぜそこまで頑張れるのか、再び金井に訊いてみた。
「団体の練習は楽しいばかりではないです。でも、そのしんどい部分も含めて、今の自分にはなくてはならないものだから。 生きがいなんです。」
この年齢の選手の口から出るには、ちょっと大げさな気もする「生きがい」という言葉を、たしかに彼女は使った。それが正直な思いなのだろう。

「ずっと指導してくださっている先生方の存在は大きいですし、家族や仲間など支えてくれている人がたくさんいるから、頑張れるという面もあります。
だからこそ、全日本ジュニアで優勝して、今まで支えてくれた人たちに恩返ししたいと思っています。」
この日の練習会場には、自分たちで書いた様々な目標が置かれていた。
その中の一枚が、とても印象深かった。

「空気を動かす」
「記憶に残る最高の演技を」
そうだ。
このチームは、優勝を目指しているのではなく、この目標に向かってただひたすら前に進んでいるのだ。
そして、この演技は、そういう思いで作られている。
勝つため、点数を取るため、だけを計算しているわけではない。
厳しいルールであり、難しいリボンではあっても、空気を動かし、人の心を動かす、「新体操っていいな」と思える演技を、求めているのだ。
その思いを、指導者と選手たちが共有している。
だから、練習中もみんな元気いっぱいで、「やらされている感」がないのだと思う。

大丈夫。
このチームならきっとできる。
「空気を動かす、記憶に残る演技」
それが、できたならば、結果もきっとついてくる。
数々の名選手を輩出してきた町田RGだが、全日本ジュニアでの団体優勝はまだない。
初優勝を懸けた大一番は、11月17日、高崎アリーナで行われる。
競技開始時間は、11時。
町田RGの試技順は、9番目と早く、昼頃には演技を終えているはずだ。
そのとき、彼女たちの最高の笑顔が見られること。
それこそが「最高の恩返し」になるに違いない。
<撮影:筆者>