【男子新体操】安藤梨友の初優勝か? 川東拓斗が意地を見せるか?~第72回全日本新体操選手権

左:川東拓斗(国士舘大学) 右:安藤梨友(青森大学)

女子は、「97年組」(現大学4年生)が大豊作の学年だが、男子においては「98年組」が、男子新体操史上最強世代とジュニア時代から言われてきた。

その最強世代が、大学3年生になった今年の全日本インカレでは、男子個人総合の勢力図に大きな変化が見られた。

「98年組」を6人抱える青森大学が急激に伸びてきたのだ。

最強世代が6人もいるのなら当然、と思われそうだが、じつはこの2年間、そううまくはいっていなかった。

高校時代に、インターハイチャンピオンにもなり、大学生をも凌ぐ力をもっていた安藤梨友(青森大学)は、1年時から東日本インカレ優勝、全日本選手権3位、2年時も全日本インカレ、全日本選手権ともに3位と常に高値安定の成績を保ってはいた。

しかし、安藤の地力をもってすれば、「全日本」のタイトルをとっくにとっていてもおかしくなかったが、そこまでは至らなかった。

それが、今年の全日本インカレでついに優勝を成し遂げた。大会後に安藤は、

「全国大会での優勝は久しぶり。今までで一番嬉しい優勝です。」と笑顔を見せた。

ジュニア、高校時代は、いつもノーミス、完璧という印象が強かった安藤だが、その代償として「サイボーグのよう」と、魅せる力のなさを指摘されることがあった。

青森大学に進学してからは、「今までとは違う安藤梨友を見せる」ことに、懸命になり、その成果は着実に上がってはきていたが、その分、以前の強みだった正確無比さがやや欠けていた。ときには周囲が驚くようなミスを本番の演技でやらかしたりもした。

が、大学生になってからの安藤は、明らかに「新体操をやっている自分」を楽しんでいた。ミスすること、負けることさえも、どこかで楽しんでいるようにさえ見えた。

ただ、いつまでも「勝てない自分」は、きっと彼は好きではない。今年の全日本インカレに向けては、

「去年まではやってなかったな、と思うような練習をしてきました。」と言った。

安藤梨友(青森大学)
安藤梨友(青森大学)

安藤に関しては、高校時代にはとにかく練習量が多く、不安がなくなるまで練習を積むやり方だったのが、大学に入り、当時4年生だった尊敬する永井直也(2017年全日本チャンピオン)の影響もあり、より質を重視した練習にしてみたりもした。しかし、それでは、不安なまま本番を迎えることが多かったという。

「人それぞれ向いている練習の仕方があると学びました。自分にはやはり量も必要だと。」

試行錯誤の末に、自分にあったやり方を見つけた今の安藤には、不安や迷いがない。

2017年には、永井が青森大学に持ち帰り、昨年は福永将司によって国士舘大学に奪われた全日本選手権の優勝カップを、今年は安藤が奪還するつもりだ。

そうはさせじと、国士舘大学の意地を見せそうなのが、昨年の全日本選手権で個人総合2位ながら、個人総合、種目別決勝の計8演技をすべてハイレベルなノーミス演技でまとめた力をもつ川東拓斗(国士舘大学)だ。今年も、東日本インカレでは、安藤を押さえ2年連続の優勝を飾っているが、全日本インカレでは悔しい3位。脚の故障もあり、種目別決勝では後半種目を棄権。大学生活最後のインカレを悔しい思いで終わった。

大学に入学してから、凄まじい勢いでトップ選手に駆け上った川東だが、その原動力になっていたのは「悔しさ」ではなかったか。

高校3年のときには、インターハイ制覇まであと一歩まで迫っていながらひとつのミスで、優勝が指の間からすり抜けるという悔しい思いをした。

大学1年のときは、がむしゃらに頑張り、全日本選手権で3位という結果を残したが、優勝した臼井優華(当時・中京大学)のパワーと高い技術、2位の永井直也(当時・青森大学)の類まれなる表現力、繊細で美しい体操に対して、「特徴がない」「ミスしなかっただけ」などという声が聞こえてきた。

川東拓斗(国士舘大学)
川東拓斗(国士舘大学)

たしかに、元来、極めてオーソドックスなタイプの選手である川東には、特化したものはなかった。が、その「オーソドックスさ」こそが、彼の武器になった。「男子新体操らしい良さ」を、この4年間、いやもしかしたら新体操を始めてからずっと、彼は究めてきた。ただの斜前屈も、ただの胸後反も、漲るエネルギーを込めて彼が行うと、フロア上の空気までも動かす、他の選手とはまったく違うものになる。

彼が追い求めてきたものは、数値化はしにくい。2015年のルール改正以来、男子新体操の得点はかなりクリアになり、なにをすれば得点が上がるかはわかりやすくなった。そのため、演技の高難度化が進み、技術は確実に進歩してきた。ただ、その反面、かつての男子新体操がもっていた、独特の間や伸びなどは失われつつある。

そんな中で、川東拓斗の演技には、「ザ・男子新体操」の趣きがある。数値化できない良さで勝負する選手だけに、わずかな狂いがあれば、思ったよりも点数が伸びないというリスクはある。故障を抱え、3位に終わった今年の全日本インカレは、そのリスクが顕在化した試合だった。

が、川東にとっては、これが学生最後の全日本選手権だ。悔いのない演技をする準備は十分にしてきているだろう。

迷いなく、自分の求めてきたものを思い切り、フロアにたたきつけることができれば、有無を言わせぬエネルギーを放出できるのが彼の演技だ。そうなれば、評価もつく。安藤梨友にとっては手強い相手になりそうだ。

打倒・安藤梨友の担い手は、他にもいる。

安藤にとっては、盟友でもある青森大学の「98年組」の選手たちだ。

今年の全日本インカレで2位の城市拓人(青森大学)は、安藤をもってして「城市拓人には、彼にしかないものがあると思う。ここにきてものすごく伸びているので、圧倒的に勝てる相手ではなくなっている」と言わしめた。

ジュニア時代はやや線が細く、ミスの多い選手だったが、高校生になって一気に頭角を現した。

ミスなく演技をしているときの彼は、当時からトップレベルの選手だった。が、いかんせん故障がちで、試合では相変わらずミスが多く、なかなか実力を発揮することができないまま大学生になった。

城市拓人(青森大学)
城市拓人(青森大学)

それが、この2年、じわじわと力を発揮し始め、ついに今年のインカレで、2位まできた。

「大器晩成」という言葉に相応しい飛躍ぶりだ。

安藤も認める城市の「彼にしかないもの」は、現在の選手たちの中ではひとつ抜けている、線の美しさだろう。

全身白の衣装を着こなせる美しい身体のラインは、動けばなおさら映える。そこに、独創的な手具操作が加わり、独特の世界観が生まれるのだ。とくに名曲「You raise me up」を使用したクラブの作品は、毎回、会場がため息に包まれる彼の真骨頂とも言える作品だ。

決して順風満帆と言える競技人生ではない。挫折も多く、花開くまでに時間もかかった選手だが、優勝争いにも加わっていけるだけの力と自信をつけた今年の城市拓人は、侮れない。

青森大学の「98年組」で、この2年で伸びたのは城市だけではない。

ジュニア時代から有名だった「宮城の三つ子」佐藤兄弟も、今年の全日本インカレでは、6位・颯人、7位・嘉人、8位・綾人と、久々に3人並んでの好成績をあげている。

佐藤兄弟は、三つ子という話題性だけでなく、男子新体操選手としては高身長の恵まれた体に、高い身体能力を持ち併せた選手だった。そんな彼らが、見せ方のうまさでは定評のある本多監督(名取高校)に師事してきたのだから、ジュニア~高校と同世代のトップレベルの選手になるのは必然だった。

しかし、大学生になって3人ともが、個人選手としてやっていくには、「三つ子」であることがマイナスに働くこともあった。

顔もそっくりな一卵性三つ子の3人は、大会の時しか見ることのない審判の目には、見分けがつきにくい。顔も体つきも動きも似ていたら、4種目×3人=12演技見ているうちに、それぞれの個性は埋もれてしまいがちだった。

さらに、彼らは有り余る能力ゆえにか、「ミスを減らす」に主眼を置いた練習が不足しているように見える選手だった。もちろん、高校まではマットのない環境でやってきたという事情もあるあるだろうが、大会ではたいてい大きなミスが出ていた。

佐藤嘉人(青森大学)
佐藤嘉人(青森大学)

とくに嘉人は、その傾向が強く、大学1~2年のときは東日本インカレから全日本インカレに進めなかった(同一大学から上位8名しか全日本インカレには進めない)。

しかし、昨年は、男子クラブ選手権で、全日本選手権出場の権利を勝ち取り、出場した全日本選手権で15位。颯人の8位、綾人の9位には及ばなかったが、同じ土俵に戻ることを果たし、存在感を見せた。

競技成績の面では、大学に入ってからは兄弟の中で、ひとり引き離された感のあった嘉人だが、その悔しさがバネになったのだろう。

今年の全日本インカレでは、クラブでのみ落下ミスがあり、兄弟の中で2位となってしまったが、リング、ロープの2種目で種目別決勝に進出を果たした。とくにロープでは、ロープ操作に進境が見え、ロープの張りまでしっかりコントロールできた素晴らしい演技を見せた。また、兄弟の中でもっとも体が大きいだけに「大きさを見せたい」と言い続けていた成果が、ここにきて出てきた。名取高校のころは、ダンス的なおしゃれな振りが目立っていたが、今の嘉人の演技は、ぐっと体操寄りになった。タンブリング以外で見せるふわっとしたジャンプには滞空感があり、彼のもつ伸びやかさ、大きさが生きていた。

佐藤颯人(青森大学)
佐藤颯人(青森大学)

全日本インカレでは3人の中でトップの6位になった颯人。彼は、大学1年のインカレ(13位)、全日本(12位)、大学2年の全日本(8位)と兄弟の中でもっともコンスタントに好成績をおさめてきた安定感のある選手だ。ミスが出ることはあってもミスを連鎖させない粘り強さ、勝負強さがあり、バランスのよい選手と言える。が、その分、一番「個性」が出しにくかった選手のようにも思う。

しかし、全日本インカレでの颯人は、スティックではリリカルな曲で、今までにない柔らかさ、優しさの伝わる演技を見せ、リングは、尾崎豊の「I love you」を切なく、激しく踊りあげた。ロープはフラメンコ風の曲、クラブでは観客の心をぐっとつかむ演技、と4種目で様々な表現を見せた。スティックでは種目別決勝にも残り、高校時代には見られなかった柔らかさや伸びをしっかりと見せ、手具操作の小技も小気味よく決めた。表現力、テクニックともに、ワンランク上の選手に成長したことを証明した全日本インカレだった。

佐藤綾人(青森大学)
佐藤綾人(青森大学)

兄弟の中で、もっとも早くから活躍し、実績も残してきたのが綾人だが、彼は、ときどき大きなポカをやる。

ミスしたときが大きいのだ。大学1年のインカレは16位で全日本に通過するも、リング以外の3種目が30位以下という大荒れの試合をしてしまう。大学2年のインカレは、16位で、18位だった颯人に久々に勝ったが、全日本は9位で颯人に1つ順位が及ばなかった。

今年の全日本インカレでは、最初の種目・スティックで落下場外をやらかし、この種目20位からのスタートとなった。が、ミスはあったが、明らかに今までとは違う、質の良い演技をスティックでも見せていた。続くリングでは、その進化ぶりが存分に発揮された。とにかく空間を大きく使ったダイナミックな演技で、兄弟の中でも突出した身体能力を見せつけ、クールでシャープなノーミス演技だったのだ。

綾人は、ジュニア時代からもっともダンス的な動きに長けた、目を引く選手だった。しかし、だからこそ、少しばかり体操が疎かになっている面も見受けられることがあったように思う。しかし、ここにきて、持ち前の身体能力をていねいに存分に見せる術を会得したように見えた。おまけに手具操作でもかなり挑戦するようになり、またミスが減った。インカレでも、最初に大きなミスは出たが、その後の3種目を高いレベルでまとめ、20位スタートから8位まで順位を上げた。この粘り強さも、かつての綾人にはなかったものだ。

兄弟の中でも、常に一番というわけではなく、「98年組」の中でも、安藤、堀、城市、石川裕平(国士舘大学)、水戸舜也(国士舘大学)に先を行かれる経験もする中で、彼のプライドに火がついたのか、と思う進化が見られた。

ポテンシャルの高さでは、兄弟の中でも、同世代の選手の中でも間違いなくトップに近い。

ここからが本当に楽しみな選手になってきた。

男子新体操では、団体は、青森大学が全日本インカレでも18連覇という圧倒的な強さを見せているが、個人に関してはもう少し拮抗している。いや、ここ数年、優勝こそは国士舘(2018年福永)、青森(2017年永井)、中京(2016年臼井)、花園(2015年小川)と分け合っているが、青森大学は、「98年組」を数多く抱えながら、上位を席巻というわけにはいかなかった。

たしかに能力の高い選手は多いのだが、本番でのミスが出てしまう。そんな大会が続いていたのだ。

それが、今年の全日本インカレで変わった。

青森大学の個人選手たちは、ほとんどミスをしなかった。

1つのミスがあっても、それで崩れてしまうことなく、持ちこたえる演技ができていた。

その結果、全日本インカレに出場した8選手全員が18位以内に入り、全日本選手権出場を決めたのだ。

これは青森大学には数年来なかったことだ。

一体なにが変わったのか?

全日本インカレ後、中田監督に話を訊いてみた。

いわく。

「高校生みたいな練習をしてきた」

それが答えだった。

今までは個人選手に関しては、練習量、方法などもほぼ各自に任せていたが、今年は、「ノーミス10本」など目標を決め、それが達成できるまで終わらない、など負荷をかけた練習を積んできたという。

とにかく「通し込みを徹底してやる」「みんなでやる」

そんな泥臭い練習をしてきた結果、全日本インカレ前には、練習での通しも、全員がほぼノーミス。

確固たる自信をもって挑むことができたのだと言う。

王者・青森大学がなぜそこまでしたのか?

「団体が優勝しても、個人で悔しい思いをしている選手がいると、みんなで喜べない。

 今年は、みんなで喜びたい、という思いがあった。」

と中田監督は言った。

今年からコーチについている持舘将貴の存在も大きかった。

個人選手として高校~大学で活躍し、ボストンでの留学中も現地で指導をしていた持舘のサポートは、個人選手の状況や気持ちをよくつかみ、的を射ていた。全日本インカレで優勝した安藤も、「持舘さんがついていてくれたので安心してやれた」と言った。

「98年組」の多くが所属する青森大学が、個人選手の力を発揮させる方法をつかんだ以上、今回の全日本選手権は個人総合も青森大学が上位を席巻する可能性はある。

しかし、そうはさせじと、98年組の石川裕平(国士舘大学)や水戸舜也(国士舘大学)、そして、インターハイ優勝経験もある堀孝輔(同志社大学)も爪を磨いているはずだ。※参考記事「4years~堀孝輔(同志社大学)」

今年、若い菅正樹が監督就任し、一気に活気づいてきている花園大学の98年組・森多悠愛、小川恭平も、侮れない存在だ。

さらに、下の学年には、ここにきてひとまわりスケール感が増し、美しさに力強さが加わってきた田中啓介(国士舘大学)、斉藤剛大・福永将司に続くミスターパーフェクトぷりが頼もしい向山蒼斗(国士舘大学)らもいる。

そして、社会人にも注目選手がいる。

社会人大会3連覇を成し遂げ、いまだ衰えの見えぬ臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)がいる。社会人としてはまだ全日本選手権優勝がないだけに、今年は狙っているのではないだろうか。

臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)
臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)

さらには社会人大会2位となった吉村翔太(KOKUSHIKAN RG)も、高校時代以来となる個人競技への復活(2015~2018国士舘大学団体の中心選手だった)で、凄まじいまでの精度の高い演技を見せた。社会人大会ではミスもあったが、ミスを最小限に抑えれば学生にとっても脅威となりそうだ。

吉村翔太(KOKUSHIKAN RG)
吉村翔太(KOKUSHIKAN RG)

注目の全日本新体操選手権は、本日(10月18日)、10時半競技開始となる。

個人総合は、今日と明日の2日間(20日は種目別決勝)行われる。

3日間ともでなくてもいい。どこか1日でも、会場に足を運び、男子新体操の魅力と、その熱い戦いに触れてもらいたい。

大会時程は以下のとおり。

※第72回全日本新体操選手権時程

入場にはチケットが必要となるが、当日券でも2000円と、体操競技やフィギュアスケートに比べるとかなりリーズナブルな価格となっている。

※チケット情報

10月18日~20日は、ぜひ千葉ポートアリーナへ!

<写真提供:清水綾子>