【体操競技】2008北京から11年目の衝撃~世界選手権団体予選で、橋本大輝が鮮烈世界デビュー!

世界選手権デビューとなった橋本のあん馬。4位で種目別決勝に残る高評価を得た。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

2008年7月。

目前に迫った北京五輪の体操競技の見通しを、日本体操協会の遠藤幸一氏に取材したことがある。

2004年のアテネ五輪では団体優勝を成し遂げ、復活ののろしを上げたものの、2006、2007の世界選手権では団体金メダルは逃していた日本の体操への期待も注目も、今とは比較にならないほど低かった。

このときの取材でも、遠藤氏は、「団体優勝します!」などとは言わなかった。

もちろん目指してはいるが、非常に厳しい。個人総合も富田洋之(現順天堂大監督)がどこまでいけるか、と極めて慎重な答えだった。

そんな中で、遠藤氏が、「もしかしたら、種目別のゆかでは、メダルの可能性もあると思う」と言ったのが、この北京五輪が初代表だった内村航平だった。

まだ、世界選手権にも出たことがない大学生だが、伸び盛りで、ゆかではかなり期待できると聞いた。

果たして、その1か月後。

北京五輪をテレビで観戦したが、その選手は、団体でも大活躍し、日本の団体銀メダル獲得におおいに貢献。

さらには個人総合でも決勝進出して、なんと銀メダルを獲得したのだ。

あん馬では2回も落下してしまったが、それでも個人総合銀メダルという鮮烈な世界デビュー。

それが内村航平だった。

北京五輪の体操を見た人なら、おそらく昨日の世界選手権での橋本大輝の雄姿にあのときの内村航平を思い出したに違いない。

そのくらいの衝撃だった。

日本にとっては、この上ない嬉しい衝撃、そして、世界にとっては、「脅威」だったろう。

体操のローテーション(演技を回る順番)は、「ゆか⇒あん馬⇒つり輪⇒跳馬⇒平行棒⇒鉄棒」が、正ローテーションと言われ、団体予選で1~2位通過のチームが、この正ローテで回る。近年、団体優勝を競う位置にいる日本にとっては、まずはこの正ローテで回れる結果を予選で残すことが命題なのだが、じつは、案外そうはいっていない。

団体予選では、思わぬミスが出て、あん馬スタートというローテーションになることが意外と多いのだ。

団体金メダルを獲得したリオ五輪もそうだった。

今回の団体予選は、抽選の結果、日本は「あん馬」スタート。

6種目の中では、大きなミスが出やすい種目で、1種目目という緊張の中での「あん馬」は難しい種目かと思われた。

が、これが今回は幸いとなった。

もともとあん馬には定評のある萱、谷川翔がそろって落下のないほぼノーミス演技でそろって14.633。そして、高校生ながら今年、初の代表入りを果たした橋本大輝が、自身の良さを最大限に生かせるこの「あん馬」という種目で、これ以上はないほどの会心の演技で14.833とチーム最高得点を獲得。

得点も素晴らしかったが、その開脚旋回は、中国の選手と見まごうほどのキレと美しさだった。

世界にはまだ知られていなかっただろう「HASHIMOTO」の名前がこの演技で、一気に浸透した。

その後も、橋本は、跳馬で14.766、鉄棒14.366、ゆか14.433と、出場した4種目すべてが14点台。4種目とも日本の最高点という圧巻デビューとなった。

正直。

今回の世界選手権では、日本の苦戦を予想していた。

内村や白井健三がいないからではない。

事前に出ていた記事にもあったが、2年前から顕著になってきた実施の見極めの厳しさに、日本は対応が遅れていたからだ。

※参考記事(日刊スポーツ)

現在の代表選手たちは、もちろん、素晴らしい選手たちだ。

しかし、現在のロシア、中国のトップ選手と比較した場合に、実施でより高い評価が得られるとは思えなかった。

この参考記事でも、「改善に努めている」ことはわかるが、こういった細かい、基本的な部分を直すのは時間と根気がいる。

ましてや、難度は上げていかなければならないとなると、「脚を揃える」「つま先をのばす」などは後回しになりがちだ。

内村航平というあまりにも偉大な選手に追いつくために、走り続けてきた選手たちは、そういった「基本的な美しさ」を少し犠牲にしてきた。

そのことが、東京五輪という大舞台を前にして、ボディブロウのように効いてきている、今はそんな状態だった。

意識が変わったのであれば、もしかしたら東京五輪までには間に合うかもしれないが、今回の世界選手権はまだ難しいだろうと思っていたのだ。

そんな予想から考えれば、出来すぎなくらいの団体予選だったと思う。

橋本大輝の飛躍はもちろん、体操協会がとってきた「団体貢献度」による選手選考。その効果が、如実に出た予選だった。

今回の5選手のうち、谷川翔、谷川航、萱和磨の3人は、NHK杯の個人総合上位3選手だが、橋本と神本雄也は、団体貢献度による選出だった。橋本は、あん馬、鉄棒。神本はつり輪、平行棒での貢献が期待されていたが、それぞれ十分に期待に応える得点をマークした。

団体予選は、5選手中4選手が演技し、高いほうから3得点が生きる「5-4-3」制だったが、橋本と神本は出場した種目の得点がすべて生きた。ポディウム練習で谷川航が足を捻挫、予選で谷川翔が跳馬で足を傷めるというアクシデントがあり、得点を伸ばせなかったという状況ではあったが、そこで「団体貢献度」枠の選手たちの力が存分に発揮された格好だ。

予選、1種目目「あん馬」、2種目目「つり輪」までは、4選手がノーミス演技をそろえたが、3種目目「跳馬」では、2番手の谷川翔が、着地で転倒し大きな減点。しかし、続く橋本、神本が踏ん張る。4種目目「平行棒」でも、3番手の谷川航が、細かいミスが続き、13.900と14点を割るが、神本が14.700とカバー。「鉄棒」では、3番手の谷川翔が、挑戦したカッシーナで落下し12点台に沈んだが、4番手の神本が14.033。最終種目のゆかでも、3番手・谷川翔が最後のタンブリングで転倒、ライン減点で12点台となったが、神本が13.866と踏ん張った。

跳馬以降の4種目では、流れが悪くなりかけたところで、神本の踏ん張りが光り、橋本が雰囲気を盛り上げた。

現在の日本チャンピオンである谷川翔も、よいコンディションで本来の演技ができれば、こんなものではない。

それでも、こうなってしまうこともあるのが体操だ。だからこそ、団体の場合は、誰か調子の上がらない選手がいたときに、他の選手がカバーできるかが、重要になる。

過去の日本の団体は、そこがやや弱かった。

団体金メダルが期待されていた、ロンドン五輪でもリオ五輪でも、誰かが崩れれば引きずられる、悪い流れを止める役割は常に内村航平に任せられ、その内村が乱れればチーム成績も下がる(団体では、ロンドン五輪予選5位、リオ五輪予選4位)。そんなフラストレーションのたまる試合も少なくなかった。

それに比べると、今回は、「チーム戦」としては、かなりよかったように思う。

予選1位のロシアは、たしかに強かったが、2位の中国は思いもよらぬミスが相次いだ、強敵と思われたアメリカは、あん馬でのブレーキが響き、予選は6位通過。

苦戦も予想された日本が3位通過。それも、2位中国とは0.328差は、健闘と言えるだろう。

それも、誰かがミスすれば、それを誰かがカバーするというチームワークの良さは、かつてなかったものだ。

たしかにロシア、中国の2強は強い。

簡単に勝てる相手ではない。

だが、予選での戦いぶりを見る限り、「日本もまだまだ侮れないぞ」と存在感を示すことはできそうだ。

そして、橋本大輝には、11年前の内村航平の再来を期待したくなってしまう。

いや、期待してよいのではないだろうか。

2020東京五輪に向けて、吉兆の見える世界選手権となることを祈りたい。