【男子新体操】熱すぎた夏・2019南九州インターハイ男子団体を、「インハイTV」で振り返る!

演技終了後、歓喜を爆発させる井原高校団体メンバーたち

最近は、8月のうちに2学期が始まる学校も多いので、今日明日を「夏休み最後の」というのは相応しくないかもしれないが、少なくとも「8月」は今日で終わり。夏の気分も徐々に抜けていく時期になった。

そこで、この夏休みを振り返ってみると、男子新体操に関しては、なんと言っても「インターハイ」だったと思う。

インターハイが熱戦なのはいつものこと、ではあるが、昨年一昨年と下馬評通りに神埼清明高校(佐賀県)が圧勝し連覇。神埼の強さは文句なしで称賛に値することは間違いなかったが、その分、優勝争いとしてはやや物足りないものがあった。

それが今年は違った。

3連覇が懸かっていた神埼清明高校は、倒立でわずかにミスは出たが、タンブリングの速さ、高さでは他を圧倒するまさに「超高校級」の演技を披露。「さすが神埼」と思わせる演技、ではあった。

神埼清明高校の演技
神埼清明高校の演技

しかし、じつは、この演技中、すでに神埼清明の中山監督は「負け」を悟っていたという。

神埼よりも先に演技した井原高校(岡山県)が、素晴らしいノーミス演技をし、18.075という高得点を出したことを中山監督は知っていた。百戦錬磨の名将は、自分たちのチームの力を冷静に分析していた。それだけに、ノーミスで通しても、井原を超える点数を出すことは、かなり難しいと思っていたという。そして、演技序盤の倒立でミスが出た瞬間、「負け」を確信したのだ。

演技中盤での高い組み技が成功した直後に、中山監督はそれまで立っていたフロアサイドの一番前から後ろに下がった。ちょうど柱があり姿が見えなくなったのだ。

監督はそのときの自分の行動を覚えていないというが、きっとそこが監督にとっては「この夏の終わり」だったのだと思う。

神埼の直後、男子団体最後の演技者として登場した青森山田高校(青森県)の演技には、目立ったミスはなかった。

カノン(あえて少しずつずらす)のタンブリングや、ダンス的な動きなど、青森山田らしいうまさ、かっこよさは存分に発揮できた演技だった。

青森山田高校の演技
青森山田高校の演技

神埼の得点17.525を上回る17.675をたたきだした。しかし、井原の点数には及ばず2位。

それでも、青森山田の荒川栄監督は、清々しい笑顔でインタビューエリアに現れた。そして、「うちの選手たちはよくやりました」と開口一番に言った。「でも、あれをやられちゃあね」と、大学の同級生であり盟友である長田京大監督率いる井原高校の演技を称えた。

自分たちがミスで自滅したわけではなく、最高の演技の応酬をした結果、今回は井原に軍配が上がった。そういう名勝負ができたことに対する満足感、それを実現した選手たちへの誇らしさが、荒川監督の笑顔から伝わってきた。

4位には、小林秀峰高校(宮崎県)が入った。強豪校である小林にとって「4位」は、おそらく悔しい順位だ。

優勝こそは2008年以来ないが、表彰台には何度も上がっている学校だけに、「4位」では喜べない。

しかし、今年、小林秀峰がこの演技で勝ち取った4位には大きな意味がある。

小林秀峰高校の演技
小林秀峰高校の演技

小林秀峰は、一時期、男子新体操で競い合うように行われていた「組み技」に最後までこだわり続けたチームだった。

現在の男子新体操のルールでは、観客があっと驚き、沸くような高い組み技を成功させても高得点にはつながらない。

むしろ、その「組み」を行うために、選手たちの動きが止まる時間が長いなどの理由で減点につながることもある。

それだけに、近年は、新しい組み技、驚くような組み技はあまり行われなくなってきた。体操の美しさや隊形変化、柔軟性、斬新な振り付けなどで勝負する傾向が強くなってきていたのだ。

そんな中で、最後まで「組み技」にこだわってきたのが小林秀峰だった。おそらく、迷いもあったとは思うが、そこは伝統校である彼らにとっては譲れない部分だったのだ。

しかし、昨年のインターハイ、今年3月の高校選抜で、思うように得点が伸びないという現実を受け止め、ついにモデルチェンジを決めたのだ。小林秀峰の永野護監督は、「以前とは点数の出方が違う。それなら変えるしかないと判断した。」と言う。

小林秀峰が最後に優勝した年の立役者、青森大学でも団体選手として無敗を誇った日高祐樹は、現在、小林秀峰のコーチを務めているが、常勝・青大団体で彼が培ってきた体操が、今回の小林秀峰の演技には息づいていた。

いつも観客に悲鳴にも似た歓声を上げさせていた小林秀峰の演技と、今年の演技は明らかに違っていた。

高さのある派手な組み技はなかったが、体操の美しさ、動きのスピード、メリハリは格段にアップし、それでいて秀峰らしいサプライズもしっかり見せてくれた。

モデルチェンジを決めてから、それほど長い期間をかけずに、まったく新しいタイプのチームをここまでにした。

悔しい「4位」かもしれないが、この先に大きな希望がもてた4位だったと思う。

そして、特筆すべきは10位の名取高校(宮城県)だ。

名取高校の演技
名取高校の演技

すでにYahoo!ニュースで取り上げ、紹介した練習での演技にも、大きな反響があった。彼らの演技は「エンターティンメント」と呼ぶに相応しい独創性があり、手話を演技に取り入れるという挑戦もし、多くの人の心をつかんだ。

「インハイTV」で見られる本番着での演技はまさに「かっこよすぎて尊い」レベルだ。

そんな多くのハイレベル、かつ個性あふれる演技が目白押しだった今年の男子団体だが、終わってみれば「やはり井原だった」と誰もが言う。そのくらい、「井原高校2019」は、衝撃的、画期的な演技だった。

今大会に出場していた選手、監督の多くから、「あの演技が(ノーミスで)通るとは思っていなかった」という声が聞かれた。

私も、7月20日、井原高校で練習を取材したが、そのときに「ノーミスができれば優勝するのでは」と感じた。

が、正直、いかにも本番でミスが出そうな演技だとも感じていた。

インターハイ会場に入ってからの公式練習でも、なかなかノーミスは出ていなかったという。

だから、周囲のチームも、「今年の井原はすごい!」と思いながらも、本当にこれが本番でノーミスで通せるのか? は半信半疑だったのだ。

井原高校の演技
井原高校の演技

それが、本番で、ミラクルとも思える最高の1本が出た。

その集中力、精神力たるや! だ。

すでに動画はかなり出回っているが、未見の方はぜひ見てほしいと思う。

男子新体操自体見たことがないという人も、ぜひこの井原高校の演技は見てほしい。

8月19日。

インハイ期間中、全競技をインターネット中継していた「インハイTV」が、インターハイでの新体操競技の全演技を公開した。

以下のURLで「男子団体競技」はすべて見ることができる。(動画公開は2020年3月末までの予定)

記事中に登場した高校の演技はもちろん、その他のチームの演技も、見ればきっと感動できるに違いない。

夏休み最後、少なくとも8月最後の週末、インターハイの熱い戦いをぜひもう一度!

※インハイTV「男子団体」

<写真提供:清水綾子>