【男子新体操】これはエンターテインメントだ! ある意味、カジツ化した?名取高校の団体演技に注目!

全国高校総体男子団体10位ながら強烈な印象を残した名取高校団体

宮城県の名取高校。

男子新体操部は以前からあるが、決して環境には恵まれていない。

学校にはマットがない。

現在の男子新体操は、体操競技の床で使うのと同じ、スプリングの入ったマットが競技では使われる。

強豪校には、たいていこの「スプリング入りのマット」がある。

少なくとも、スプリングは入っていない一昔前のマットくらいはある。

しかし、名取高校にはどちらもない。

以前、取材に行ったときは、どこかのおさがりだというボロボロのマットを申し訳程度に敷いてタンブリング練習をしていたが、その環境は今もあまり変わっていないようだ。

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名取高校の監督・本多和宏は、福島県の会津工業高校出身。

高校時代から選手として頭角を現し、名門・国士舘大学に進学し、そこでも個人選手として活躍した。

現役時代から、独特の感性をもった個性的な選手だった。

彼の演技に憧れる選手も多かったが、相手によっては「異端だ」と疎まれる、そんな選手だった。

そんな選手が、宮城県で教員になった。

すぐには男子新体操の指導ができる職場にはつけず、中学の教員として畑違いの部活の顧問を務めたりもした。

新体操部のある名取高校への赴任は、2013年。現在7年目になる。

本多は、監督としても非凡な才能をもっていた。

名取高校の前に、一時期、聖和学園高校(宮城県)で男子新体操を教えていたことがあるが、そのときは、創部2年目で全国高校選抜大会での準優勝に導いた。練習場所もない、部員には初心者もいる、という圧倒的不利をはねのけての準優勝は、強豪校たちの度肝を抜いた。

環境に恵まれなくても、あるものを最大限に生かして「よく見せる」、そんな工夫をする力に彼は長けていた。

本多が監督になってからの名取高校は、全国高校総体の常連になった。

強豪ひしめく東北ブロックでも、優勝こそは青森山田が死守しているが、2位まではいける年が増えてきた。

そして、なんと言っても、その演技は、常に会場を沸かせた。

「これは男子新体操なのか?」と良くも悪くも話題になる作品を、名取は毎年やってきた。

宮城には、キューブ新体操というジュニアチームがあり、男子新体操は全国レベルで活躍している。

そこで育った選手も上がってくる今の名取は、能力も十分に高い。

それでも、名取の演技は、「点数を勝ち取る」ことに対して、貪欲さがない。

やり方次第ではもっと高い得点、もっと上の順位を勝ち取ることもできそうな年もあったが、そこが最優先ではない、そんな印象があった。

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名取の演技は、細かい動きが多い。男子新体操でいうところの「体操」というほどの大きさや深さはない、細かい動きを音に合わせて数多く入れ込んでいるその振りは、どちらかというダンスに近い印象がある。ただ、そのクオリティーはかなり高い。キレよく、同調性にも優れ、気持ちよく音に合った演技。それが名取の持ち味であり、観客はそんな名取の演技に沸いた。

一言で言えば、「かっこいい!」

名取高校はそんな演技をいつも見せてくれた。ただ、おそらく、その「かっこよさ」の根源になっている部分は、競技としての男子新体操としては評価されにくいのだろうとは思う。だから、いつも受けた印象や観客の反応よりは低めの点数になってしまう。

「勝つこと」を最優先するのならば、賢いやり方ではないかもしれない。

が、変える気はなさそうだ、と去年までの名取を見て思っていた。

そして、今年の演技を見て、その思いが確信に変わった。

彼らが目指しているのは、「優勝」とか「入賞」とか、そういうものではないな、と感じざるを得なかった。

今までの名取の演技も、毎年ステキだったし、かっこよかった。

しかし、今年の作品は、突出していた。

いい意味で、「これはエンターティンメントでしょ」と思わず声が出てしまう、そんな演技だったのだ。

本多監督に話を訊いてみると、この作品は「マットのないところでもできること」を考えたうえでの構成になっているという。

この練習動画は、マットのある体育館で撮られたものなので、迫力のあるタンブリングも入っている。

が、普段の練習ではマットがない名取高校では、タンブリングに大技をもってくるのは危険だ。

今は、そこを強化しなければ全国での優勝争いには加わっていけない。

が、危険を冒してまで、タンブリングで大技を求めなくていい、本多はそう考えた。

また、演技披露を求められる機会は多いが、そういう場にマットがあることはめったにない。

地域のお祭りやイベントが行われるのは、たいていが屋外の特設ステージだったり、どこかのホールだ。そういう場所での演技披露という、男子新体操を知ってもらえる絶好の機会を「マットがないとできません」と断りたくはない。

となれば、道はひとつ。

タンブリング以外の部分に見せ場のある演技を作る。

今までの名取もそういう傾向はあったが、今回はそれをより確信をもって行ったのだ。

その試みは十分成功していると思う。ここまで細かく、速く動きながら、こんなにも揃っている、音に溶け込んでいる。

こんな演技はなかなかない。 

That's Entertainment! ほめ言葉としてそう言いたい。

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そして、もうひとつ。

この作品には、「聴覚障害をもった人が見ても感動できる演技を作る」という思いが込められている。

音楽と動きの一致には、並々ならぬ意欲をもっている本多監督だけに、「音が聴こえない人」には、自分たちの演技はどう見えるのか、どうすれば伝わるのか、という疑問に突き当たった。

そして、演技に手話を取り入れることに挑戦したのだ。適当なことはできない、と聴覚障害をもったアスリート・佐々木琢磨氏(デフリンピック陸上4×100m世界チャンピオン)に指導に来てもらった。

手話をそのまま入れたのでは、演技としては小さな動きになってしまう、それをどう手話の意味が伝わるように、体操らしく行うか試行錯誤を繰り返した。

最後にたどり着いたのがこの演技だ。

ここで紹介した動画は、鹿児島で行われた全国高校総体の直前の練習で撮影された動画だ。本番用の衣装でもない。

だが、彼らがどんなに「かっこよすぎるか」も、「手話に真摯に取り組んだか」も、十分に伝わる動画だと思う。

(ラストポーズ前の8カウントは、「ずっと、見て、くれて、ありがとう。終わり」という手話)

今年の成績は、10位だった。

名取高校としては、やや物足りない順位かもしれない。

高校総体のあと、本多はある先輩指導者からこう言われた。

「お前のチームは鹿児島実業と変わらん」

じつは、私もそう感じていた。

コミカルさで笑いを追求する鹿児島実業と、とことんかっこいい名取はまったく違う。

ただ、「記録より記憶に残る演技を目指す」というその一点において、名取と鹿児島実業は「似ている」と思ったのだ。

競技としての評価にはきっとつながらないような動きを徹底的に揃えること、それを曲に合わせること。

そこに注力するという点も似ている。

そして、多くの観客を沸かせ、愛されるという点でも。

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「こんなんじゃ、試合には勝てないよ」と言う人がいるかもしれない。

しかし、知将・本多和宏は、そんなことは承知の上なのだ、多分。

「常に優勝争いをするチームにする」のとは違う、彼なりのやり方で、男子新体操を支え、広めようとしているのだ。

そして、男子新体操を選び、そこに青春や人生を懸けてくれた教え子たちに、夢を与えたい。

彼は、そう願っている。

<写真提供:清水綾子>