【新体操】古豪の末裔・鹿児島純心女子、「限界突破力」で、全国高校総体準優勝の快挙!

演技終了直後の鹿児島純心女子高校団体。やり切ったという満足感に満ちた表情だ。

鹿児島純心女子高校には、昨年から注目していた。

昨年は1年生ばかり7人のチームだったが、飛び抜けたスター選手はいないものの、どの選手も好感度の高い、美しい動きをする選手たちだったからだ。

翌年には地元開催での全国高校総体、その翌年には鹿児島国体を控えているという時期に、この7人が集まったのは、偶然ではないだろうと思った。もしかしたら県外から有力選手を集めてきたのか? とも思ったが、そういうではなかった。県外から来て寮生活している選手は2人いるが、それもスカウトしたわけではないという。

もちろん、県内の選手たちは、地元開催の国体に向けての強化対象にはなっていた。しかし、それでもジュニア時代に目立った成績を残すところまではいけなかった選手たちだ。

それでも、おそらく「2019年全国高校総体、2020年鹿児島国体」は、彼女たちにとって大きな目標であり、高いモチベーションにつながっていたのだろう。1年生の時点で、県予選で1位になり、14年ぶりに古豪・鹿児島純心女子を全国高校総体の舞台に戻すことに成功した。

そして、迎えた今年。

鹿児島県予選を連覇。6月に行われた九州大会では4位になった。

悪くはない順位ではあったが、九州大会ではミスもあった。さらに昨年に比べるとやや大人びた雰囲気の曲を使っているだけに、どこか「借り物」のような印象があった。若い彼女たちには、ちょっと背伸びしている感はあった。とくに前半部分は、曲調もスローで哀愁が漂っている。が、その底にある「哀しみ」はなんなのか? を伝えきれないと、演技前半は緩慢な印象になる。

そして、後半は、曲調も速くなり、まさに息つく間もないほどの技の連続で、成功すれば底知れぬエネルギーが感じられるが、体力も落ちてくる後半にここまで欲張った構成を、ノーミスでやり切ることはほぼ不可能に近いのでは、と思われた。

演技序盤の見せ場・リフトもダイナミックに美しく決まった。
演技序盤の見せ場・リフトもダイナミックに美しく決まった。

それでも。

今年の純心は、この演技に懸けたのだ。

崩れれば大崩れになりかねないリスキーな演技を、地元開催で大きなプレッシャーがのしかかる中で、2年生と1年生だけのこのチームがやり切れるという「万に一つ」の可能性に賭けたのだ。

もちろん、ギャンブルではない。

「やり切れるはず」なところまでの練習は積んできたはずだ。

それでも、本番ですべてがうまくいくなんてことはどのチームにだってめったにない。

地元開催によるプレッシャーの大きさを思えば、無難な構成にしてミスなくやれる可能性を高くしたほうが、大声援を受けての演技を気持ち良く終われる確率は上がることはわかっていたはずだ。が、純心はそれをしなかった。

14年ぶりに出場した昨年の全国高校総体での順位は、15位。(D10.500+E5.350=15.850)

「ノーミスでよかったね」というだけの演技では、そこ止まりだとわかっていたからだ。

かつては、12連覇という不滅の記録を作った新体操の名門校・鹿児島純心女子。前回、鹿児島で全国高校総体が開催されたのは、1982年のことだった。12連覇の9連覇目がこの年だ。

鹿児島で全国高校総体が開催されるのは、それ以来だった。

「とりあえず出られてよかったね」で終わるわけにはいかない。

去年から今年に向けて、いや、今年になってからもずっと、このチームは、自分たちにでき得るだろう限界まで、いや限界を超えるまで、作品の難度を上げていった。

「これ、やっている内容が全部ちゃんとカウントされたらDは、何点くらいになるんですか?」と訊いたことがある。

「17点くらいですかね」と栗山菜々緒監督はこともなげに言ったが、それはとてつもない挑戦だ。

8月7日。

鹿児島純心女子の出番は、午後の4番目だった。

彼女たちは、フロアに出てくるときから、やけに落ち着いていた。

これはいい演技ができるんじゃないか、そう予感させる顔だった。

そして、その予感は的中した。

落下はもちろん、移動もほぼなかったと思う。

決して容易な演技内容ではないのに、それをまるでできて当然にように粛々と演技が進行していった。

いや、その実施があまりにも正確なため、練習の取材に行ったときよりも、彼女たちは何倍も表情豊かに踊っていた。

緩慢になりがちだった前半部分も、たっぷり情感をこめて、哀しみが漂ってくる演技を見せた。

演技終盤でも衰えないスピード、のびやかさ。この日の純心は神がかっていた。
演技終盤でも衰えないスピード、のびやかさ。この日の純心は神がかっていた。

演技中盤からは、徐々に曲のスピードも上がり、勢いが増してくる。

深い哀しみから立ち上がり、前に前にと進んでいく、そんな力強さが湧き出てくる。

緊張もあるだろう、演技後半になれば体力も落ちてくるだろう。

が、そんなことはみじんも感じさせないほどに、彼女たちはこの舞台で輝いていた。

輝けば輝くほど、演技の精度も上がっていく。

最後の30秒は、投げに次ぐ投げで、どこでミスが起きてもおかしくないのだが、その最難関パートさえも、まるで、難しいことをやっているようには見えないくらいのびやかに、彼女たちはやり切った。

演技が終わったとき、奇跡を見たような気がした。

「奇跡」なんて言うと、選手たちに失礼かもしれない。

この1本をこの日、この場でやるために、彼女たちはずっと努力を重ねてきたのだから。決して神頼みでもなく、出るべくして出た「会心の1本」なのだ。

それでも、やはり私には、「奇跡」に見えた。

どれだけ努力しても、その成果が本番で100%出せることなんて、本当にめったにないのだから。

それを彼女たちは、120%出し切った。これが奇跡じゃなくてなんだろう。

点数はもうどうでもいいな、と思える演技だった。

が、表示された得点「22.400」(D16.400+E6.000=22.400)に、会場は騒然となった。

この時点で、常葉大常葉に次いでの2位。

Dスコア16.400は、なんと常葉の16.100よりも上だ。

結果、そのまま逃げ切り、準優勝。

同校としては、1987年以来32年ぶりの表彰台となった。

昨年の15位からのジャンプアップ。しかし、かつての高校総体や国体ではよく言われたように「開催地だからね(採点が甘い)」とは誰も言わなかった。そうは言わせないだけの演技を、鹿児島純心女子が見せたからだ。

今大会優勝した常葉大常葉は、新体操強豪校の中では歴史が浅いほうだ。少し前まで全国大会に出てくるようなチームではなかった。

それが、この6年間で急成長し、ついには優勝。

そして、鹿児島純心女子は、古豪中の古豪だが、全国まで進めなくなって久しかった。いわば凋落したチームだ。

それが、全国高校総体へ復活して2年目で準優勝。

このことは、全国の多くのチームにとって大きな励みになるのではないだろうか。

「伝統校じゃないとダメ」「有名校じゃないと点は出ない」

今の新体操はそんなスポーツではない。

1年前、誰が翌年、鹿児島純心が準優勝すると予想しただろうか。

自らの限界を超える挑戦をし、それを成し遂げたときには、結果もついてくる。

鹿児島純心のこの準優勝はそう教えてくれた。

<写真提供:清水綾子>