【男子新体操】3年ぶりの頂点を目指す! 過去の井原を超える井原高校の挑戦~2019全国高校総体

動画サイトなどで海外にも人気が高い井原高校の演技の特徴は、「美しい体操」だ。

「超越」

昨年の全国高校総体男子団体準優勝校である井原高校。

「鉄壁」と思われた神埼清明にも0.675差に迫る圧巻の演技で、2016年の松江総体以来2年ぶりの優勝かも、と思われる演技を昨年の井原高校は見せた。

井原は、男子新体操にとってはひとつのブランドだ。

動画サイトなどでも、井原の演技の人気は高く、今でも2016年や2011年、2012年などの作品はかなり再生数を稼いでいる。

それだけの人気を誇る井原だけに、昨年の準優勝は驚くことではなかった。しかし、じつは、2016年の高校総体優勝以来、井原には苦しい時期が続いていた。

高校総体で出場枠を獲得していたにもかかわらず2016年の全日本選手権を辞退。

2017年は、高校選抜にも出場できず、ついには高校総体も5人編成での出場。

さすがの井原も、5人では得点を伸ばせず、17位。当然、2018年の高校選抜にも出場できず。いずれも、部員数が少なかったことに起因する。ちゃんと6人揃って演技をすれば、常に優勝候補の一角にいる井原高校だが、「6人揃って」が難しい。そんな年が続いていたのだ。

画像

それが、今年。

風向きが変わった。

まず、今年度から、岡山県の県立高校への越境受験が認められるようになった。さっそく福島県から新入生1人を迎えた。同時に、昨年の全日本ジュニア団体で7年ぶりの優勝を果たした井原ジュニア新体操クラブからも5人、井原に進学してきた。

福島から進学してきた田中紳介は、華舞翔新体操倶楽部で何回も全日本ジュニアにも出場している力のあるジュニアだ。

その田中が、「2017年の高校総体のときに、井原に県外からも入れるようになるという話を聞いて、井原の新体操をやってみたいと思った。」と言う。

「親元を離れてどういう生活になるのか、とか、井原の柔軟性についていけるのか、など不安はたくさんありました。」

しかし、案ずるより産むが易し。井原での生活はかなり快適だという。

「新体操部用の家があって、今年は、自分だけなので原田先輩がいっしょに住んでくれています。部屋数はあるので、もっと増えても大丈夫。多分、10人くらいまでは住めると思います。生活面ではとくに困ることもなく、不自由なくやれているので、来年以降、もっと部員が増えるといいと期待しています。」

画像

あこがれていたという井原の新体操にも、徐々に慣れていっている手応えはある。

「柔軟性などまだまだですが、かなりついてきたと思います。井原は、長田先生の指導が徹底しているので、それを信じて、とにかく練習を重ねていくことで、自分も井原の一員として全国の舞台に出ていけるようになりたいです。」

今年、新入生が6人入ったため、部員は11名になった。3年生が卒業しても、8人残る。つまり高校選抜にも出ることができる人数は確保できている。それでも、田中は言う。

「来年は井原ジュニアから上がってくる選手がいないので、ぜひ、県外からも来てほしいです。一緒に頑張りましょう!」

実際、今年の全国高校総体に出場するチームには、1年生は2人入る予定だ。ほかの4人は昨年の準優勝メンバーがそのまま残る。これは強くないはずがない。

画像

7月20日。

坂出工業高校を招いての合同練習が行われている井原高校を訪ねた。

以前来たときには、武道場が練習場になっていたが、今年は体育館にマットが敷いてあった。合同練習のために特別に敷いたのかと思ったら、熱中症対策だった。

以前使っていた武道場は夏になるととにかく暑かった。毎年のように熱中症になる選手が出て、高校総体に向けての調整には苦労してきた。同時に、体育館にマットを敷かせてもらえるところまで、井原高校での新体操部の存在感は増してきたのだとも考えられる。

初優勝は、2005年の千葉総体(このときは精研高校)、翌2006年大阪総体も連覇(井原・精研高校)、2011年の青森総体、そして2016年の島根総体とすでに長田監督の元で4回の総体優勝を成し遂げているのだから。

画像

今年の井原は、かなり前評判が高い。

準優勝メンバーが多く残っていること、そして、井原作品に対してすっかり定着している高い評価。

しかし、そんな前評判に流されることなく、きちんと、今、目の前で行われている演技を見極めようと思っていた。が、坂出工業がフロア上で練習している時間を利用して、選手たちがフロア脇でやっていた「形合わせ」を見たときに、心が奪われた。体回旋ひとつで、彼らは空気を動かしていた。大きさと、独特の心地よいリズムのある、体回旋を彼らが縦に並んでやると、本当に風が起きるようだった。そして心が動かされる。これが井原の新体操の魔力だ。

部分練習を見ると、ますます確信が深まっていった。

「今年の井原は強い」

全国の多くの人が予想はしているだろうが、その予想は当たっている。

期待を裏切られることはない、はずだ。

画像

キャプテンの有田海音に話を訊いた。

「今年は1年生が増えて、レベルが上がったと思います。去年が準優勝なので、今年こそは優勝したい! という思いが強いです。

 今年の演技の見せ場は、井原らしい深くて、きれいな体操。他のチームには真似のできない組み技、さらに、6人全員でやるのはちょっと大変、ということも全員でできるところ、などです。」

 じつは有田も、ジュニア時代は広島にいた。有田の進学時は、県外からの入学が認められていなかったため、親に協力してもらい、井原に引っ越した。そうまでして、あこがれていた井原の新体操をやりたかったのだという。

「ジュニアでも新体操をやってはいましたが、井原の新体操についていくのは本当に大変でした。でも、はじめは無理だと思ったことも、他の人にできるのならば、時間をかけてあきらめずにやっていれば自分にもできるようになるんだとわかりました。そう思えるようになったので、井原に来て、本当によかったと思っています。」

高い位置から演技をチェックする長田監督。観客席からの見え方も重視している。
高い位置から演技をチェックする長田監督。観客席からの見え方も重視している。

長田京大監督の思いもキャプテンと同じだ。

「今回は、6人が揃っている、同じことができる、というところをしっかり見せたいと思っています。平均値の高さを感じてもらえれば。」

いつも称賛されている印象の井原の演技だが、ルール的には、問題視される部分も少なからずあったそうだ。もちろん、今までもルール違反にはならないように細心の注意は払ってきた。それでも、疑わしいという指摘があるならば、それもクリアしてみせる。長田監督には、そんな気持ちがある。

「ごまかしているとは言われたくない。苦手な選手が隠れるように配置するとか、そういうこともしないで、同時性の高さ、運動量の多さなどをルールに沿ってきちんと見せていきたいと考えた作品です。」

決して声を荒げることのない長田監督の指示に懸命に耳を傾ける選手たち
決して声を荒げることのない長田監督の指示に懸命に耳を傾ける選手たち

勝てないときの井原を見ていて感じることがあった。

「彼らが悪いのではない。ただ、井原ブランドが大きくなりすぎている。」

井原の演技に対する周囲の期待が常に高すぎて、それは選手たちにとっては誇りであり、励みには違いないが、ときに重圧になっているように見えたこともあった。

間違いなく、高校生のトップレベルの演技ではある。

が、どこか「井原風の演技」、になっていないか、正直に言えば、そんな風に感じたこともあった。

画像

「井原ブランド」を築き上げた先輩たちが偉大すぎて、後に続く選手たちは、さぞかし大変だろうと思っていた。これほどの人気を誇りながら、部員数がいつも少ないのはそんな影響もあるのかもしれない、と考えたこともある。

しかし、今年の井原の演技を見たときに、ひとつ壁を超えたように感じた。

その素晴らしさは、いつもの井原には違いないが、なにかが変わった、そう確信できたのだ。

偉大な井原を、超えていくのはやはり井原でしかない。

この作品は、井原の次の黄金時代の幕開けになる。

そんな予感がする。

<写真撮影:筆者>