【男子新体操】世紀の大逆転!「国スポ(旧・国体)復帰」を果たした男子新体操の未来は明るいか?

2023年国スポの開催地佐賀県の強豪チーム・神埼ジュニア新体操クラブ

2019年6月13日。

サンケイスポーツが発信したネットニュースが、男子新体操関係者を沸き立たせた。

※サンケイスポーツ「男子新体操、国スポに復帰」の記事

2009年から休止となっていた男子新体操競技が、ついに、2023年の国民スポーツ大会(旧・国民体育大会)から再開されることになったのだ。

男子新体操は、その競技人口の少なさや、全国すべての都道府県に普及していないことなどを理由に、国体スリム化の流れに飲み込まれるように、2008年の大分国体を最後に開催種目から外れていた。

それまでは、男子新体操にとって、高校総体、高校選抜と並んで「国民体育大会」は、3大大会だった。実施されていたのが少年男子だったため、出場できるのは高校生だけだったが、国体開催が決まると、小学生のころから選手を集め、数年後の国体に向けて男子新体操のチームが育ち、その後も強豪となった県もあった。

それだけに、「国体」がなくなることには、単に「大会が1つ減った」だけではすまない影響が考えられた。

井原高校(岡山県)も、2005年の岡山国体をきっかけに部ができ、現在も強豪校だ。
井原高校(岡山県)も、2005年の岡山国体をきっかけに部ができ、現在も強豪校だ。

いわく。

・国体強化費などが出なくなるため、選手強化、育成の費用に事欠く。

・国体を視野に入れて指導者を雇用することが困難になる。

・男子新体操という競技を始めるきっかけが1つ減る。

・国体種目ではない=マイナー競技というイメージの固定化

などだ。

2019全日本男子団体選手権優勝「青森山田高校」
2019全日本男子団体選手権優勝「青森山田高校」

もともと国体休止前の男子新体操の競技人口は、高校生頼みだった。

ジュニアの育成はあまり盛んではなく、高校から始めた選手でも、1~2年で全国大会に出られる可能性が高い、そして、高校までで辞めてしまう選手が多く、大学生や社会人になると競技人口は激減していた。

見た目が派手で面白さがわかりやすい団体競技は、国体休止以前から、メディアではよく取り上げられ、一定の人気はあった。高校総体や国体など「男子高校生のスポーツ」としてはそれなりの盛り上がりはあったのだが、いかんせんその他の世代の競技者が少なかった。

強豪・小林秀峰高校(宮崎県)も、1979年の宮崎国体に向けて強化が発端。
強豪・小林秀峰高校(宮崎県)も、1979年の宮崎国体に向けて強化が発端。

そんな状況で、高校生の大会である国体が休止になるというのは、男子新体操にとっては致命傷だと思われていた。

2008年の大分国体は、当時は「男子新体操最後の国体」だと思われていた。

国体だけでなく、日本発祥で、ほぼ日本でしか行われていない「男子新体操」というスポーツそのものが、国体休止を契機にじり貧になっていき、遠からぬ将来は消滅してしまうのではないか、そんな危惧もあった。

クラブチームとして、ジュニア育成を牽引してきた大垣共立銀行OKB体操クラブ(岐阜県)
クラブチームとして、ジュニア育成を牽引してきた大垣共立銀行OKB体操クラブ(岐阜県)

しかし。

そうはならなかった。

そこには関係者の多くの努力があったことは間違いないが、テレビドラマ「タンブリング」(2010年)、青森大学がリオ五輪閉会式でのパフォーマンスに出演(2016年)、鹿児島実業高校の動画が人気爆発(2011年以降顕著に)など、いいタイミングでいくつかの追い風もあった。

また、インターネットが本格的に普及したことで、情報発信がされやすくなったという環境の変化もあった。

そして、なによりも変わったのは、男子新体操に関わる指導者たちの意識の変化だろうと思う。

2010年に発足した国士舘ジュニアRG。すでにジュニアチャンピオン、高校チャンピオンを輩出している。
2010年に発足した国士舘ジュニアRG。すでにジュニアチャンピオン、高校チャンピオンを輩出している。

「高校生頼み」「部活中心主義」「国体依存」

そういった過去の体質が徐々に払拭されていった。

国体休止をきっかけに、それまで遅々として進んでいなかったジュニア層の拡充が一気に進んだ。

また、それまでは学校の部活動が中心だったが、各地にクラブチームが続々と立ち上がってきた。

2011年の青森インターハイをきっかけに発足した「BLUE TOKYO KIDS」もすでに規模、レベルともに全国トップクラスのクラブチームに。
2011年の青森インターハイをきっかけに発足した「BLUE TOKYO KIDS」もすでに規模、レベルともに全国トップクラスのクラブチームに。

小学生の出られる大会も増え、高校生も国体休止の代替えとして、「ユースチャンピオンシップ(個人競技)」や「全日本男子団体選手権」なども行われるようになった。

ジュニアクラブが増えてきたことによって、競技力も飛躍的に向上してきた。

菅正樹(花園大学⇒シルク・ドゥ・ソレイユ⇒日本体育大学大学院⇒今年から花園大学男子新体操監督)は、大分県の小学生のとき、体操クラブに通っていたところ、「2008年に大分国体があるから、今から男子新体操をやれば全国大会に出られる」と誘われ、友だちと一緒に男子新体操を始めたという。当時の大分県には強い高校もクラブもなく、国体のために選手を集めていたのだ。持ち前の運動神経の良さや負けず嫌いもあり、菅は小学生のうちに全日本ジュニアにも出場する選手になった。

が、当時は、「ルールもろくにわかっていなくて、手具も持ちっぱなしの演技で減点された」という。言ってみればそんなレベルでも、全日本ジュニアまで進める。2000年台はじめのころの男子新体操はそんな競技だったのだ。とくにジュニアは、全日本とは言っても「手具を投げれば落とす」そんな選手も少なくなかったが、昨今のジュニアはそうではない。

やっている内容も難しくなっているうえに、ミスも少ない。上位選手のレベルアップには目を見張るものがあるが、下位の選手でも極端に拙い選手はいなくなった。

2018年度ジュニアチャンピオン「井原ジュニア新体操クラブ」
2018年度ジュニアチャンピオン「井原ジュニア新体操クラブ」

この進化はある意味、「国体休止の副産物」だ。

そして、このジュニア層の拡充と、クラブチームの増加こそが、「国スポ復帰」への大きな原動力になったと言える。

どんなスポーツでも、どんな大会でも。

一度なくなったものを復活させることは容易ではない。

それを、一度は崖っぷちまで追いつめられていた男子新体操が奇跡を起こした。

ここまでの道のりを、この奇跡を起こすまでの思いを忘れることなく、風化させることなく受け継いでいくことができれば、この「国スポ復帰」を契機に、男子新体操は、サスティナブル(持続可能)なスポーツとなり、さらなる普及や発展も期待できるだろう。

2023年開催地・佐賀県の強豪校「神埼清明高校」は、2017~2018と高校総体連覇中。
2023年開催地・佐賀県の強豪校「神埼清明高校」は、2017~2018と高校総体連覇中。

国体休止からの10年間。

「このままでは死ぬのを待つだけ」となった男子新体操に関わる一人一人が、それぞれの立場で考え、行動し、なんとかしてこの「絶滅危惧種」のようなスポーツを繋いできた。

正直、一枚岩とは言えないこともあった。必死ゆえの食い違いもあった。失敗だってしている。

それでも、あきらめず、「男子新体操を失くさせない!」ということだけは、一致していたのだ。

だから、この奇跡が起きた。いや、奇跡ではなく必然に、男子新体操の関係者がしてきたのだ。

2026年に国スポが開催される宮崎県のジュニアクラブ「三桜ジュニア新体操クラブ」
2026年に国スポが開催される宮崎県のジュニアクラブ「三桜ジュニア新体操クラブ」

男子新体操が復活する2023年の国スポの開催地は、男子新体操強豪県である佐賀県だ。

さらに、2025年には青森県、2026年には宮崎県と男子新体操が盛んな地区での開催が続く。

2024年の滋賀県だけは、現時点で男子新体操をやっている高校がないが、こういった未実施県への普及のかっこうのチャンスとも言えるだろう。

一時期の低迷を脱し復活してきた清風高校(大阪府)
一時期の低迷を脱し復活してきた清風高校(大阪府)

2023年の佐賀。そこではどんな男子新体操が見られるのだろう。

そして、その後もずっと。

「一度失った経験をした者の強み」を知り、「崖っぷちから這い上がる経験」をした男子新体操には、期待していいと思う。

<写真提供:清水綾子>