【新体操】笑顔を取り戻し頂点へ! 東日本学生選手権で古井里奈(国士舘大学)が優勝!

ボールで最高得点をマークし、優勝した古井里奈(国士舘大学)

4月20~21日に行われた「新体操日本代表選考会」は熱戦だった。

現在の国内トップ選手たちがしのぎを削り、その結果、柴山瑠莉子(イオン/日本体育大学)が1位となり、ユニバーシアード、アジア新体操選手権の代表の座を獲得した。

※参考記事:2019新体操日本代表選考会

このとき、2位になったのが猪又涼子(日本女子体育大学/ポーラ☆スターRG)、3位が立澤孝菜(イオン/国士舘大学)、4位が高校生の山田愛乃(イオン)で、ここまでの4人がアジア新体操選手権の出場権を獲得した。

ところが、その3週間後に行われた「東日本学生選手権」では、この選考会とはかなり違う結果になった。

代表選考会に出場した13人中、じつに9人がこの東日本選手権に出場していた。

となれば、優勝候補は、当然、柴山と思われていた。

1日目から柴山は悪くはない演技をしていた。しかし、研ぎ澄まされたように正確で安定感のあった代表選考会のときと比べれば、少しずつ思い通りにはいってないような様子は見受けられた。そして、そのわずかな狂いは、しっかり点数に反映し、フープは18.350、ボールが18.900だった。この得点も十分高い。が、それではトップでいられないくらいに今の上位陣の力は拮抗していた。

代表決定戦のときは、後半種目で崩れ6位に終わり、代表の座を逃した古井里奈(国士舘大学)は、今大会の1種目目ボールの演技でいきなり19.100をたたき出した。少しばかり慎重になっているようにも見える演技ではあったが、その分、ミスなく正確な実施となり、1日目では唯一の19点台。代表選考落選を引きずってはいないことが感じられた。代表選考会では、ミスの目立った新作演技のフープもまとめ18.400。先に演技を終えていた柴山をこの時点で上回り暫定首位。

1日目暫定首位だった古井里奈
1日目暫定首位だった古井里奈

代表選考会でも2位に食い込んだ猪又が、フープではトップとなる18.950を出し、前半2種目では3位。そして、4位にはまだ大学1年生ながら、代表選考会で7位と大健闘を見せた松坂玲奈(東京女子体育大学)が、前半種目どちらもノーミスでがっちり決めて名前を連ねた。

1日目を終えた時点で、代表選考会で結果を出した柴山、猪又を、古井が逆にリード、さらに、松坂が猛追するという、エキサイティングな展開だった。が、2日目にはさらなるドラマが待っていた。

大会2日目。

初日の上位4選手の中で一番はじめに登場したのは柴山。

柴山の魅力がさく裂するようなクラブの演技をパーフェクトに決め、19.050。1日目は少し冴えなかった表情が明るくなった。

前半種目での古井との得点差は、0.250。古井が次の種目で18.800以下なら柴山が逆転することになる。

そして、猪又もクラブでは会心の演技を見せ、18.200。古井は、17.600以上を出さないと猪又にも逆転を許すことになる。

猪又のクラブのすぐ後に、古井のリボンの演技順が回ってきた。

代表選考会のときは、このリボンが10位と大ブレーキになってしまった古井だが、今回は危なかったところもガッツでクリアし、演技をまとめた。が、リボンは減点されやすい種目のため、得点は16.700にとどまり、この時点で3位に後退してしまう。

3種目目のクラブで逆転し、首位に立った柴山瑠莉子
3種目目のクラブで逆転し、首位に立った柴山瑠莉子

最終種目。

まずは、柴山がリボンに挑む。昨シーズンはこの種目でミスが出ることの多かった柴山だが、代表選考会では見事に克服してみせ、自信をつけているはず、だった。が、この日は、落下こそは防いでいるものの、危ない箇所がいくつか見られる安定性を欠く演技になってしまう。得点も15.850と伸びず。

そして、次に古井のクラブの試技順が回ってくる。柴山のリボンの得点が伸びなかったため、古井は、ここで17.950以上を出せば再逆転できる。そして、この緊張する局面で、古井の演技は、突き抜けていた。ガッツポーズの飛び出す会心の演技で、19.000。クラブでは柴山に迫る高得点で総合首位に躍り出た。

古井の直後に回ってきた猪又のリボンは、わずかではあるが落下があり、16.500。

総合得点で古井、柴山には届かず、3位となった。

ここまででも十分エキサイティングだったが、午後にもうひとつドラマが待っていた。

「古井、柴山、猪又」の出番が午前中に固まっていたため、1~3位は決まったような空気の中で始まった午後の競技で、1日目4位の松坂玲奈が、快進撃を見せる。まず、リボンで見ているほうもスカッとする爽快な演技で17.000。この種目でトップとなる得点をたたき出す。

ここまで3種目ノーミス。こうなるとかえって最後の種目では緊張するのではないか、と案じたりもしたが、そんな不安を吹き飛ばすような勢いのある演技をクラブでも見せ、18.400。最後の最後に、松坂が猪又を上回り、3位に飛び込んできた。

松坂玲奈は、ジュニア、高校時代も全国でトップレベルにはいる選手だった。しかし、同世代でも「トップ」ではなかった。

大学でさらにレベルアップが期待できるとは思っていたが、入学したばかりのこの時期の代表選考会、そして東日本学生選手権でここまで吹っ切れた演技を見せ、またそれが評価につながるとは! 正直、驚きを隠し切れなかった。

が、これが今の新体操なのだ。

4種目ノーミス。リボンでは首位となる快進撃で3位に上がった松坂玲奈
4種目ノーミス。リボンでは首位となる快進撃で3位に上がった松坂玲奈

どの選手も能力の限界まで技をつめてきているので、トップ選手ではあってもミスが出る。

そして、ミスが出れば容赦なく点数が下がり、順位も変動する。

採点競技という特性上、その当たり前のことが当たり前ではないように感じられる時期もあった新体操だが、今の新体操は非常にスポーツ色が強くなった。今回の松坂のように、「まだそこまではこないのでは?」と思われていたルーキーでも、濃い内容の演技をノーミスでやり切れば評価がついてくる。そのクリアさは、スポーツとしては魅力的だ。

大会後、古井に話を訊く機会があった。

「代表選考会のときは、足の痛みもあり、すべての種目がかみ合わなかった。

その後、頭を冷やして、身体も休めてしっかり気持ちを切り替えた。

 今回は、とにかく“落ち着いてやろう”と心がけた結果、ミスを抑えてまとめられたことはよかったが、課題のほうが多い。

 この先は、順位や点数ではなく、自分の決めた技をしっかり入れて、それで4種目すべてできることを目標にしたい。

 今のルールは、以前より演技が忙しいし、体力的にはきつくなった。でも、やったらやった分、点数になるのは嬉しいし、できたときは本当に嬉しい。今後も、優勝したいとか欲を出さず、自分らしくやっていきたい。」

古井のコメントからも、今のルールに対して彼女抱いている希望が感じられる。

そして、古井里奈は、結果にとらわれず「自分らしくやり切る」ことが第一になったときにこそ、力を発揮する選手なのだということを再確認できた。3週間前には影をひそめていた弾ける笑顔が古井に戻ってきたこの大会、そこに結果はついてきた。

長く新体操を見てきているが、ここ数年のように、試合の前に誰が勝つのか予想できないということはなかった時期もあった。

「勝つべきと思われている選手がどうせ勝つ」そんな風に感じられた時期もあった。

どの時期も審判は公正を期しているのはわかる。が、採点競技には主観が入る。先入観にも影響を受ける。

それゆえに、納得しにくい結果が出ることもままああった。

ところが、今は、違う。

その試合での出来が、点数にきちんと反映し、順位も入れ替わる。

3週間前の代表選考会と東日本学生選手権とで、こんなにも結果が変わる。それは、選手たちが常に次を目指して切磋琢磨している所以であり、その変化や進化を見逃さないように、そして、常にその時のルールにのっとって、正しい採点をしようと審判が真摯に業務を遂行しているからにほかならない。

「前の試合ではこの選手が勝ったから」という思い込みや、「どこそこの所属だから」などという忖度で採点は変わらない。

選手たちも進化し続けているが、審判もまた進化している。

今の新体操には、「芸術」から離れてしまっているという批判はある。

たしかにそういう面は否定できない。

が、今のルールのもとで新体操は限りなくスポーツらしくなった。

そのことは、多くの選手や指導者の希望になっているように思う。

現在の大学生の群雄割拠ぶりも、その表れのようでもある。

古井、猪又、そして元全日本チャンピオン河崎羽珠愛(早稲田大学)、桜井華子(環太平洋大学)など、4年生に有力選手が多く、1年生にも柴山、松坂ら力のある選手が入った今の大学生は、かつてないレベルの高さだ。

今回の東日本学生選手権を皮切りに、5月29~30日の西日本学生選手権(愛知県豊田市)、8月25~28日に行われる全日本学生選手権(福岡県北九州市)と、大学生の見逃せない大会が続く。

日本の新体操は、

いや、「新体操」というスポーツは、

見たことにない人たちが想像しているよりもずっと面白いものになっている。

ぜひ一度、会場に足を運んでみてほしい。

<写真提供:ビデオアルバム協会/清水綾子撮影> ※インタビュー協力:清水綾子