【新体操】新体操界のミラクルガールズが起こす最後の奇跡を見逃すな!~新体操日本代表選考会

ジュニア時代からずっと同世代を引っ張ってきた猪又涼子と古井里奈

2018年全日本選手権3位の猪又涼子(日本女子体育大学/ポーラ☆スターRG)と、同大会4位の古井里奈(国士舘大学)。

そろって大学4年生になった。

今年が大学生活最後の年になる。

そして、それは、かなり高い確率で「現役最後の年」になるということだ。

おそらく、この2人の演技を見る機会は、もう何回もない。

そう思うと、その1回1回がなんとも貴重に思えてくる。

新体操には素敵な選手がたくさんいる。

素晴らしい選手もたくさんいる。

が。

この2人はちょっと特別だ。

彼女たちは、普通の人々には希望のかけらもない世界になりかけていた新体操という世界に、輝く希望の星だった。

チャイルド、ジュニア、高校時代、大学生になってからも、ずっとだ。

2010年2月。

小学6年生だった古井里奈は、全日本クラブチャイルド選手権で優勝し、小学生チャンピオンとなった。

当時は、徒手演技による大会だったが、古井は凄まじく身体能力が高く、さらに観る者すべてを魅了するような耀く笑顔の持ち主だった。

中学生になってからも、その笑顔満載のキラキラ演技は翳ることなく、早々に全中や全日本ジュニアにも駒を進め、当時は今ほど難しい手具操作は求められていなかったが、古井の演技は非常にリスキーなものだった。ハイレベルな身体難度に、思い切りのよい手具操作。その思い切りのよさゆえに、ミスが出てしまうことも多かったが、それでもどんな難しい演技でも、楽しくてたまらないといった表情で演じる古井は「新体操の天使」のようだった。

猪又涼子も、ジュニア時代から、可憐で透明感のある演技をする選手だった。

とことん明るい古井の演技とはまた少し趣きが違っていたが、猪又の演技にも観るものを惹きつけるものがあった。

ジュニアのときに猪又がボールで踊っていた「ロミオとジュリエット」は、本当にそこにジュリエットがいるような錯覚を起こさせた。

ごく自然に、曲の世界に入り込める、そんな才能も感じさせる選手だったが、ジュニア時代の猪又は、古井同様、肝心なところでミスもしていた。

古井と猪又は、どちらもジュニア時代から目をひく選手であり、活躍もしていたが、頂点を極めることはないまま、高校生になった。

このころすでに、高校の部活ではなく、クラブチームに籍をおいたまま、個人に専念する選手が多くなっていた。

とくにジュニア時代にそこそこの実績のある選手ほどそういう傾向があった。

ところが、古井は名古屋女子大学高校、猪又は伊那西高校に進学。それも、籍だけを置いて練習はクラブチームで、ではなく正真正銘、高校の新体操部で練習する道を選んだ。

どちらも団体の強い名門校で、2人は当たり前のように、高校では団体と個人を兼任した。

当時すでに、高校生で個人のタイトルを獲得する選手のほとんどはクラブチーム所属で個人に専念している選手だった。

団体の練習に多くの時間を割かれる2人は、個人選手としては不利かと思われたが、2013年、まず古井が高校総体で優勝する。

2012年にロンドン五輪が終わり、2013年からルールが大きく変わり、表現力の比重が増し、新体操が一気に魅力を増した。

その節目の年に、古井里奈は、高校1年生ながら、高校チャンピオンになった。

このときの演技も、観客も審判も抗えないほどの魅力あふれるものだった。古井の演技を見ていると、みんなが笑顔になる。彼女の演技はそんな力をもっていた。

2018全日本選手権3位の猪又涼子
2018全日本選手権3位の猪又涼子

猪又は、1年生から強豪・伊那西高校の団体レギュラーとなり、団体の中でも存在感が光っていた。

さらに個人でも、一回り力強さを増した演技をするようになっていった。

ジュニア時代の華奢なイメージから、一気に、弾けるようなエネルギーを感じさせる演技するパワフルな選手へと変貌していったのだ。

そして、高校3年生になった2015年、猪又は高校総体の個人、団体の2冠に耀いた。

古井が所属する名古屋女子も、この年の高校総体では団体3位で全日本選手権にも進出。

個人でも、この年、ユースチャンピオンシップで猪又が1位、古井が2位で全日本選手権に進出。

全日本選手権では、全出場選手中、2人だけが団体、個人にフル出場という「スーパー高校生」ぶりを見せつけた。

この時点で、2人は、当時の日本の新体操界に存在していた「見えない壁」をぶち破って見せたのだ。

「新体操のトップ選手になるには、スーパーモデルのようなプロポーションでなければならない」

「個人選手にとっては、高校の部活で団体をやるのは回り道になる」

2000年のシドニー五輪では、団体で入賞した日本だが、こと個人に関しては、世界との差が開く一方だった。

団体さえも、2004年のアテネ五輪では出場権を失い、日本の新体操がどん底に沈んでいたとき、なんとか世界に追いつくために、

「まずはプロポーション」という基準が当然のようになっていった。

そこには「身長の高さ」が不可欠とされ、やや小柄だった猪又や古井のような選手たちは、いくらうまくても、魅力的でも、結果を残しても「求められているのは自分ではない」という思いをしてきた、そんな時代に彼女たちはいた。

高校時代には、同世代のトップ選手になった2人が、なぜフェアリージャパンに入って五輪を目指すという道を選ばなかったのか?

と新体操を知らない人たちは思うかもしれない。

「選ばなかった」のではなく、「選べなかった」のだと思う。

身長の高くない選手は、そこを目指すものではない、それが新体操界の常識になっていた。

個人選手としても、強化選手として世界を目指すレベルを目指すには、まずプロポーション、身長が必要。

そんな時代の空気があった。

ジュニア、高校と実績をあげてきた2人には、より上を目指したい気持ちは、もちろんあったと思う。

世界に出ていきたい、という思いも捨ててはいなかったと思う。

だからこそ、大学でも新体操を続ける道を選んだのだろう。

そして、大学ではついに個人に専念し、ますます力をつけていった。

猪又は、2016年に全日本インカレで優勝。

古井は、大学1年のときに脚の怪我で、全日本選手権を途中棄権。手術をし、厳しいシーズンオフを過ごしたが、そこからの復活劇を見せ、2018年に全日本インカレで優勝。

1年のときに猪又、3年のときに古井が優勝という、奇しくも高校総体とは逆になった。

2018全日本インカレ優勝の古井里奈
2018全日本インカレ優勝の古井里奈

高校までですでに実績のあった選手は、大学生になってから伸び悩むことも少なからずある。

が、2人にはそれがなかった。

ジュニアや高校時代と同じように、いやもしかしたらそれ以上に、「まだまだやれる。もっともっとうまくなれる」と、信じて突き進む力が彼女たちたちの演技からは伝わってきた。

そして、ついにそのエネルギーが、「世界」への重い扉までも開いたのだ。

2016年、猪又涼子は、ソフィアカップに、古井里奈は、W杯アゼルバイジャン大会に出場。

古井は、2018年のアジア新体操選手権にも出場した。

世界選手権や五輪でこそないが、れっきとした国際大会に日本代表選手として派遣され、そこで堂々たる演技を見せた。

評価も決して低くなかった。世界は、「身長が高くない」なんて理由で彼女たちを「およびでない」とは扱わなかった。

柔軟性や表現力、彼女たちは恵まれた資質をもっていたことも間違いない。

しかし、「身長がなければ世界は目指せない」という空気があれほど濃厚だった時代に育ってきた選手たちだ。

よく途中であきらめたり、嫌気がさしたりしなかったものだ、と、そのことに感心する。

おそらく、結果に関わらず、「新体操が好き」「新体操をやっている自分が好き」という気持ちを失わずに、やってこれたのだろうと思う。だから、頑張ってこれたのだろうと。

おかげで、もう10年。

2人の演技を楽しませてもらえた。

彼女たちの演技が始まる前にはワクワクしたし、いい演技で終えられたときには、こちらまでガッツポーズが出てしまったりした。

いつまでも観ていたいと思っていた。

「大学卒業=現役引退」

ほとんどの選手がそうなる。

こればかりは、今まで多くの壁をぶち破ってきた2人でも避けられないのかもしれない。

あれだけ全身全霊をぶつけるような演技をする選手たちだからこそ、彼女たちがそう決意したならば、引き止めることはできないだろうとも思う。

2019年は、ずっと新体操に夢を見せてくれた2人にとってのラストシーズンになるかもしれない。

そして、今日がその初戦になる。

代表になることを、もちろん2人とも目指しているだろう。

そのために、ここまで必死にやってきたのだ。

だけど、一方で思う。

「そのためだけにやってきたわけではない」

それが彼女たちの強みだ。

そのことが、ギリギリの状況で、きっと彼女たちに力を与えてくれる。

古井里奈

猪又涼子

2人には、最後まで自分の新体操を全うしてほしい。

そこに結果がつくかどうかは、二の次だ。

あの小さかった2人が、「新体操大好き!」の塊のようだった2人が、

きっとつらいこともたくさんあったはずなのに、絶望してもおかしくない時期もあったはずなのに、

大学4年生まで、こんな風に「キラキラ」したまま育ってくれた。

そのことに価値があり、後進たちに希望を与えているのだから。

そんな選手は、そうそういるものではない。

彼女たちのいる時代の新体操を見続けられたこと。

それはなんと幸せなことだったか。

おそらく終わりに近づいている今だから、改めてそう思う。

まずは今日からの代表選考会。

そして、この先続くインカレや全日本選手権で、

彼女たちが1つでも多く納得のいく演技ができるように、最高の笑顔が見られるように。

それだけを祈りながら、「2人が起こしてきた奇跡の結末」を見届けたい。

※新体操日本代表選考会の日程、チケット情報などはこちら。

<写真提供:清水綾子>※2018全日本選手権のもの