【男子新体操】個人総合チャンピオンを凌いだ2強の頂上決戦の熾烈~第71回全日本新体操選手権

種目別決勝で2つずつ金メダルを得た安藤梨友(左)と川東拓斗(右)

今年の全日本新体操選手権1~2日目に行われた個人総合では、男子は福永将司(国士舘大学)が優勝した。

その精密機械のように正確な手具操作と基本に忠実な体操は、まさに「お手本」のような選手で、2日間4種目、その精度は揺るぐことがなかった。

個人総合で2位となった川東拓斗(国士舘大学)は、福永とは同じ大学の1つ後輩だが、自分が優勝したいという気持ちはもちろんあったに違いない。実際、個人総合での川東は、十分優勝に値すると思える4種ノーミスのすばらしい演技をみせていた。

しかし、福永がここまで精度の高い演技をすれば、なかなか勝つことが難しいということも川東には、わかっていたはずだ。

個人総合の2位、には彼なりに納得していたのではないかと思う。

ただ、決して「負けても仕方がない」と思っていたわけではなかった。

ということを、川東拓斗は、種目別決勝で証明した。

個人総合チャンピオンの福永もまた、「種目別でも勝ちたい」という思いは非常に強かったと思う。

じつは、福永は、今年の全日本インカレでも総合優勝はしているが、種目別では1つも優勝できていない。

そのことが、彼がよくいう「自分には特別人より秀でたものはない」という自己評価につながっているようだった。

体操でもそうだが、オールラウンダーとしては強い選手でも、種目別だと決勝にも残れない、ということはままある。

それはそれでもいいと思うが、本人はもちろん、「種目別でも勝ちたい」そう思うのは当然のことだ。

今大会の種目別決勝。

1種目目スティックでの福永の演技は、「種目別優勝」への執念を感じさせるものだった。

得点も18.425とかなりのハイスコアをたたきだした。が、福永の直前に演技をした安藤梨友(青森大学)の18.600には及ばず。

安藤は、今大会の優勝候補の一人だったが、個人総合ではリングとクラブにミスが出てしまい、5位という結果に終わっていた。種目別決勝にも3種目でしか進めなかった。

安藤梨友は、ジュニア、高校を通じて間違いなく同世代のトップを走ってきた選手だ。しかし、大学生になってからは、それまでの自分とは「変わった」ところを見せたいと模索している。この2年間でたしかにその成果は着実に出てきている。たしかに強かったが、ときにはサイボーグのようと揶揄されることもあった選手が、以前からは考えられないような動き、線を手に入れ、新しい自分、新しい表現を築き上げようとしている。ただ勝ちだけにこだわるのではなく、「変化し、成長する自分」を追い求めるその姿は求道者のようでもある。

かつての安藤なら、個人総合で2種目もミスはしなかった。が、今はたとえミスをしても、やり遂げたいことがある、ように見える。

彼はまだ成長している最中なのだ。

とは言え、ミスが出て総合5位という結果には、相当悔しい思いがあったのだろう。

このスティックでの安藤の演技はまさに神がかっていた。

大会後、

「自分は、誰にも真似のできない演技を4種目やることを目標にやっています。

 目指しているのは、高校の時、技だけで勝負している自分が大学生になって変わった自分を見せたくて、変わりたくて。それを目指して やっています。やりたいことと出来ることが追い付いていない。今は、それがミスになっていると思います。

 今回、ノーミスを意識して総合では難度を落としたりしたのですが、そういう弱い部分が逆にミスにつながったのかなと思っています。

 自分が出来ることをやらずに守るよりは種目別決勝のようにやりたいことをやってミスしたほうがずっと気持ちがいいなと思いました。」

と彼は言った。

「総合を終えたあとは落ち込んでいたんですが、決勝はひとつひとつ気持ちを切り替えないとと考えて吹っ切れた感じです。」

 スティックは、まさにその吹っ切れた演技、だった。

そして、2種目目のリング。

8選手中5番目に登場した福永は、ここでも会心の演技を見せる。いや、わずかではあるが手具の持ち替えにもたつきがあったようにも見えた。そんなわずかな停滞さえも目についてしまうくらいにほかは澱みのない演技で、18.375。この時点でトップに立つ。

福永将司(国士舘大学)
福永将司(国士舘大学)

ところが、その直後。

今度は川東拓斗が、「これでどうだ!」と言わんばかりの演技を見せる。深さがあり、重厚感と間があり、タンブリングの迫力もある。「男子新体操のよさ」を体現する演技で、18.475。

福永の種目別優勝という悲願を後輩の川東が打ち砕いた。

川東拓斗(国士舘大学)
川東拓斗(国士舘大学)

前半2種目で見せた安藤、そして川東の執念と勢いは、後半種目でも衰えなかった。

ロープでは、安藤が。

安藤梨友(青森大学)
安藤梨友(青森大学)

クラブでは、川東が。

社会人チャンピオンの臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)が後半種目では猛追を見せたが、どちらの種目も及ばず2位に終わった。

臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)
臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)

種目別決勝での彼らはそれだけ強かった。とくに川東は、優勝した2種目以外も3位と、4種目すべてで台のりを果たす充実ぶりだった。

それでも、彼は大会後、こう言っている。

「結果は、嬉しいとか悔しいよりも来年の為の今回だな、と思っていて、もう今年の全日本は“終わったこと”。

まだ自分は総合優勝もしておらず、何も成し遂げていないな、と思います。

種目別も2種目しか勝てていないので、今大会は来年のためのステップアップの大会にしたいです。

次につながる試合にできたことは良かったと思います。

来年は東インカレ、全日本インカレ、そして全日本。すべて優勝したい。

来年のこの舞台で嬉しいと初めて思えるのかな、と考えています。」

安藤梨友と川東拓斗。

この2人の直接対決がまだ続く、来年以降の大学選手権、そして全日本選手権からは目が離せない。

さらに、今大会の種目別決勝では、クラブで3位に入った堀孝輔(同志社大学)

堀  孝輔(同志社大学)
堀 孝輔(同志社大学)

リングでの「ロミオとジュリエット」で、その表現力をいかんなく発揮した栗山巧(福岡大学)、

栗山 巧(福岡大学)
栗山 巧(福岡大学)

ロープ、クラブでともに4位と健闘。「新体操の楽しさ、魅力」を伝える演技を見せた佐久本歩夢(青森大学)、

佐久本歩夢(青森大学)
佐久本歩夢(青森大学)

息をのむほどの美しい演技で、観客を魅了。故障に泣かされることが多かったがついに本領発揮してみせた城市拓人(青森大学)らの演技も、強い印象を残した。

城市拓人(青森大学)
城市拓人(青森大学)

佐久本は大学4年生だが、他の選手たちはまだ来年も大学生として競技の世界でさらに切磋琢磨していく選手たちだ。

彼らの伸び次第では、安藤、川東とて安穏とはしていられない。

チャンピオン・福永をもってして、1つも優勝できなかった熾烈な種目別決勝は、

男子新体操に多くのタレントがいるということの証明でもあった。

来年以降の男子新体操にもおおいに注目したい。

※第71回全日本新体操選手権男子種目別決勝は、スカイAにて、12月12日(水)、13日(木)に放送される。(いずれも19時~20時)

 ※スカイAの放送予定

<写真提供&インタビュー:清水綾子>