【新体操】「団体種目別2種目とも高校生チームが制覇」の衝撃~第71回全日本新体操選手権

フープ優勝の伊那西高校(左)、ボール&ロープ優勝のすみれRG/金蘭会高校(右)

10月26~28日に行われた第71回全日本新体操選手権は、男女、個人、団体ともに頂上決戦にふさわしい演技の応酬となったが、中でも「女子団体」の競技としての面白さには特筆すべきものがあった。

すでに、記事を公開しているが1~2日目に行われた団体総合(2種目の演技の合計点数によって順位が決まる)も大混戦、大激戦だった。

※参考:第71回全日本新体操選手権団体総合の記事

が、その団体総合の結果をうけて3日目に行われた団体種目別決勝は、さらに壮絶な戦いとなった。

今年、顕著だった高校生の勢いと演技の完成度の高さに対して、大学生チームが意地をみせ、「フープ×5」のトップ3、「ボール&ロープ」のトップ3すべてが違うチームという、群雄割拠そのもの、という結果になったのだ。

大会3日目となる10月28日。

団体総合での各種目上位8チームによって行われる種目別決勝が行われた。

個人競技の種目別決勝前半種目を終え、団体種目別決勝「フープ×5」の競技が始まった。

試技順1番で登場した常葉大学附属常葉高校は、団体総合でも「フープ×5」で、20.300の高得点をマークし、この種目だけなら1位だったチームだ。いわば「フープ×5」においては優勝候補の筆頭といえるチームがいきなり登場。そして、常葉高校はここでも一部の隙もない演技を見せる。完璧な実施のうえに、衣装、曲、動きが見事に一致した演技で、観客を惹き込んだ。得点は、20.400。団体総合での得点を上回り、後に登場するチームに大きなプレッシャーとなる点数をたたきだした。

毎回、精度の高い実施を見せた常葉大学附属常葉高校
毎回、精度の高い実施を見せた常葉大学附属常葉高校

2番目に登場した昭和学院高校も、団体総合の「フープ×5」では、20.100で2位につけていたチーム。「ボール&ロープ」でミスが出て総合順位は8位まで落としていたが、「フープ×5」だけなら十分に優勝候補だ。

夏の高校総体では、この演技で優勝を勝ち取っている昭和学院は、この種目別決勝は「狙っていた」だろう。そして、それだけに気迫に溢れ、思いのこもった演技を見せた。「ノートルダムの鐘」の音楽にのせた抒情的な演技は、高校総体前に選手みんなで劇団四季の舞台を観に行くなどして、その世界観を理解し、共有して作り上げてきた。彼女たちの動きのひとつひとつが物語を紡ぎ出し、情感が伝わってくる。しかし、移動が1か所あり、得点は20.000にとどまった。

情感にあふれ舞台芸術に近い印象を与えた昭和学院高校
情感にあふれ舞台芸術に近い印象を与えた昭和学院高校

団体総合優勝を果たした武庫川女子大学は、4番目に登場。中盤での落下も含め、いくつか惜しいところが続いたが、総合で初優勝した勢いとプライドで、なんとか大崩れはせず立て直した。しかし、現在のルールでは、その「惜しいミス」が大きな減点につながってしまう。得点は18.200。常葉、昭和学院を超えることはできなかった。

すみれRG/金蘭会高校は、試技順5番目。団体総合のときも素晴らしい演技で会場を沸かせたが、19.750でこの種目5位に終わっているだけに、種目別決勝にかける思いは強かったと思うが、それがやや緊張感を強めてしまったのか。演技中盤での脚キャッチで落下。そこ以外は素晴らしい実施だったが、19.400。

続いて登場した伊那西高校は、高校総体ではこの種目3位、団体総合では、交換で一人の選手の受けが違ってしまったところがあったようで、大きなミスはなかったものの19.450に終わっていたが、この種目別決勝での演技での実施は素晴らしかった。難度、手具操作以外の所作も美しく、まさに「身体で音楽を奏でている」ような演技で、21.150という高得点をたたきだし、一気に首位に躍り出る。

芸術性で高い評価を得るためには、ストーリー性のある曲を使い、表情豊かに演じるほうが近道ではあるが、この伊那西の演技は、あえてその対極を目指しているように見えた。物語ではなく音楽を旋律を表現することに特化した意欲的な作品。それゆえに、ともすればさらりと流れて見えてしまうが、このときは、見事にはまっていた。選手一人一人の美しさと相まってノイズのない「音楽そのもの」を体現していたゆえの高得点ではなかったか。

パガニーニの主題による狂詩曲を身体で奏でて見せた伊那西高校
パガニーニの主題による狂詩曲を身体で奏でて見せた伊那西高校

最後に国士舘大学が登場したが、この時点でのトップ3は、伊那西、常葉高校、昭和学院と高校生に占められていた。

果たして大学生の意地を見せられるか? という局面。さらに、国士舘はもう1種目「ボール&ロープ」は予選にあたる団体総合のときに大きなミスが出て決勝に進めていない。この1本が、全日本選手権での最後の演技となる。

そんな思いを反映してか、このときの演技からは痛いほどの気迫が伝わってきた。そしてその気迫が、作品にふさわしい情熱を醸し出し、観客を惹き込む演技だった。中盤に危ない交換もあったが、そこもうまくカバーする熟練度も見られ、20.350をマーク。3位となり、表彰台を死守した。

大人の女性らしい艶やかさながら、気迫あふれる演技を見せた国士舘大学
大人の女性らしい艶やかさながら、気迫あふれる演技を見せた国士舘大学

大会の最後を締めくくる種目別決勝「ボール&ロープ」は、通常は、高校生は取り組んでいない種目だ。

夏の大会(高校総体、または全日本クラブ団体選手権)で、全日本選手権出場権を得てから、作品を作るチームもあれば、上位チームは昨年作った演技もあるだろうが、高校生ではこの種目は、「フープ×5」ほどの熟練はしていないことが多い。

もしくは、ミスを出さないためにやや難易度は「フープ×5」よりは落とす、そんなチームが多いのだ。

それでも、今年の高校生たちは、凄まじかった。

こちらの種目でも、大崩れするチームは皆無だったのだ。

試技順1番のアンジュ/城南静岡高校は、ビバルディの四季「冬」を使っていたと思うが、荘厳な曲がよく似合う壮大な演技を、細かい移動などは散見されたが、ほぼノーミスでまとめ、16.700。フープで連発した高得点に比べると低いが、「ボール&ロープ」という難易度の高い種目での高校生の得点としては立派なものだ。

「フープ×5」を制した伊那西高校は、「ボール&ロープ」の試技順2番で登場。かなりよい演技で、大きな破綻はなかった。伊那西らしい美しさもあった。が、得点は17.700。さすがにフープほどの得点は出なかったが、後に続くチームにとってはこの伊那西の得点がまずは目標になる。

続く、常葉大学附属常葉高校も、フープ×5同様、きっちりした実施を見せたが、やはり演技構成は、やや無難にまとめてあったようで、16.050。

団体総合では「フープ×5」に大きなミスがあり、この種目でしか決勝に進めなかった東京女子体育大学は、4番目に登場。

東京女子体育大学にとっては、種目別決勝で片方の種目にしか出られないというのは、かなり屈辱的なことだったに違いない。

それだけに、この種目に懸ける思いは強かっただろう。しかし、その強い思いは必要以上の緊張になってしまうこともある。

この日の東女は、そんな緊張を振り払うように元気いっぱい、弾けた演技を見せた。「いつもの強い東女」らしい演技だった。

が、なんでもないところでポロリと落下が出てしまい、17.200。

それでも、東女らしさは感じられる、「東女の意地」を見せた演技だった。この経験はきっと次に繋がるに違いない。

弾ける明るさを演技で見せた東京女子体育大学
弾ける明るさを演技で見せた東京女子体育大学

続いて登場したのは、こちらも「フープ×5」ではまさかのミスで決勝進出を逃し、団体総合でも5位に終わった日本女子体育大学。

日女にとっても、この全日本選手権の展開は予期せぬものだったに違いない。

今年は、「日女の年」と言ってもいいほどの活躍を見せてきた。当然、全日本選手権も! と多くの人が思っていたし、もちろん選手たちもそれを目指してやってきたはずだ。

だが、こういうことが起きる。それが今の新体操の厳しさだ。

東女同様、この種目でしか決勝進出できていない日女の演技は、「さすが」と思わせるものだった。

複雑でよく練り上げられた構成を、淡々と乱れなくこなしていく。曲調とあいまってクールな印象の演技だが、それでも「負けられない!」という闘志は伝わってくる。意地のノーミス演技に、19.050が出て、この時点で日女がトップに立った。

「この種目の優勝だけは譲れない!」という日女の執念を感じさせる演技だった。

インカレ女王・アジア女王の意地を見せた日本女子体育大学
インカレ女王・アジア女王の意地を見せた日本女子体育大学

初の団体女王となった武庫川女子は、「フープ×5」決勝ではミスが出て、表彰台を逃したが、こちらの種目では堂々と貫禄ある演技を見せ、18.800と日女に続く高得点をマーク。

ここにきてやっと大学生チームによるワンツーフィニッシュが見えてきた。

団体総合優勝に続いて、種目別でも台のりを果たした武庫川女子大学
団体総合優勝に続いて、種目別でも台のりを果たした武庫川女子大学

秋田市立御所野学院高校も、全日本選手権初出場ながら、高校生には鬼門の種目で決勝進出を果たしただけでなく、決勝でも落ち着いて非常にまとまりのよい演技を見せた。ポロッと手具をこぼしたところもあったようだったが、16.550とスコアをまとめた。

決勝に進出した高校生5チーム中4チームの演技を終えた時点で、高校生には厳しいと思われた「ボール&ロープ」でも、どこも大崩れはしないというレベルの高さ。

夏の高校総体でも、凄まじい激戦を見せた高校生たちだが、その実力は大学生をも凌ぐところまできていたことを、この全日本選手権で証明して見せたと言えるだろう。

※参考:2018高校総体女子団体の記事

いや、もちろん、本命視されていた日女や国士舘、東女にも大きなミスが出た。それがなければ、ここまで高校生に席巻されることはなかっただろうとは思う。それでも、その勝負強さや調整力を含めて、今年の高校生たちは凄かった、とは言える。

そして。

このまま終われば、日女、武庫川のワンツーフィニッシュという場面で、トリとして登場してきたのがすみれRG/金蘭会高校だ。

団体総合では、「フープ×5」が3位、「ボール&ロープ」が4位と、両方の種目で高い得点を出していた金蘭会高校。団体総合では3位と表彰台に上がっていたが、種目別決勝のフープ×5は5位に終わっており、最後の最後に回ってきたこの演技に懸ける思いはどれほどだったかと思う。

この夏の高校総体を描いたNHKのドキュメンタリーで、金蘭会高校が本番の演技に挑む直前に、キャプテンが仲間にかけた言葉が蘇る。

「大丈夫。1000回はやってきたんだから」

高校生は「フープ×5」ほどには練習が積めていないだろうと思っていた「ボール&ロープ」。

それなのに、金蘭会高校の演技は、容赦なくリスクに次ぐリスクに挑んできた。

そんな投げ方する? そんな受け方ある?

そして、そんなに投げ続ける? 

見ているだけでもどんどんアドレナリンが出てくるのを感じる。

凄まじい技術力で種目別優勝をもぎとったすみれRG/金蘭会高校
凄まじい技術力で種目別優勝をもぎとったすみれRG/金蘭会高校

直前に、男子ではトリで神埼清明高校が、大学生をも凌ぐような神演技を見せたばかりだった。

神埼清明も凄かった。「超高校級」と呼ぶにふさわしい演技であり、チームだった。

が、このすみれRG/金蘭会高校の凄まじさは、神埼清明にも負けてない。

演技の最後に、音楽とラストポーズがばしっと合った瞬間、会場は沸き立った。

得点や順位はどうなるかわからない時点で、この演技にはみんなが圧倒されていた。

結果、この演技には19.950が出て、すみれRG/金蘭会高校がこの種目を制した。

得点を見ると、実施点はさすがに6.350と、7点台をマークした日女、武庫川女子より落としているが、難度点が13.200と、2番目に高い日女の11.600を圧倒していた。

どんな演技に対しても、好き嫌いはあると思う。金蘭会の演技も、好みでいえば、満場一致の一番ではないかもしれない。

が、そんなことをねじふせるだけの演技構成、それを実施する技術力で「勝ち」を手に入れるという戦い方もあるのだ。

誰もが簡単にできることではない。金蘭会高校も、今年のメンバーたちが中学時代からボール団体で全国制覇するなど、鍛えに鍛えてきていた選手たちだったからこそできたこと、でもあると思う。

2020年の東京五輪で、メダル獲得というかなり高い目標を掲げている日本の新体操界にとっては、金蘭会が見せた今回の演技は、ひとつのヒントになるのではないだろうか。

技術偏重になっていると批判もある現在の新体操のルールだが、だからこそ、こんな勝ち方もあるのだ。

金蘭会高校だけでなく、今回、大学生を凌駕する活躍を見せた高校生たちの多くは、ジュニア時代から同世代のトップレベルで競い合ってきた選手たちだ。常葉大学附属常葉高校の選手たちは、中学時代にはアジアジュニア新体操選手権で団体金メダルを獲得している。アンジュ/城南静岡高校の選手たちは全日本ジュニア団体準優勝。2015年のジュニア団体は種目が「ボール×5」だったことを思えば、今年の高校生の「ボール&ロープ」の演技の達者さにも納得がいく。

今の高校3年生は、全日本クラブチャイルド選手権が手具ありになった年に小学6年生だった。

身体難度の美しさを重視してきた時代から、「手具ができなきゃ新体操ではない」へとチャイルド育成の方針が大きく舵をきった時代の最初の小学生が、今の高校3年生であり、そんな彼女たちがこれだけの演技を見せた。

※参考:「全日本クラブチャイルド選手権の変遷」の記事

来年以降の高校生たちは、さらに、幼いころから「手具あってこその新体操」をたたきこまれてきている。

この先、日本の新体操は想像を上回る進化を見せてくれるのではないか。

今年の全日本選手権での高校生たちの活躍はそんな明るい未来を予感させてくれた。

女子団体種目別の熱い戦いは、スカイAで12月10日(月)に「フープ×5」、12月11日(火)に「ボール&ロープ」が放送される。(どちらも19時~20時)このハイレベルな演技の数々をぜひ堪能してもらいたい。

※スカイAの放送予定

<写真提供:清水綾子>