【新体操】ルール改正で「予定調和」が完全駆逐された女子団体の苛酷と興奮~第71回全日本新体操選手権

団体総合初優勝を成し遂げた武庫川女子大学

今年の高校総体後に、あまりにも激戦だった女子団体についての記事を公開した。

※参考記事 

本当に、この夏の戦いは熱かった。

が、10月に行われた全日本選手権は、その続編とも言うべき激戦だった。

映画では続編はなかなか本編を上回ることはできないと言われるが、新体操の女子団体に関しては、決してそんなことはなかった。

本編に勝るとも劣らない、凄まじい戦いを日本の新体操女子たちは演じてくれた。

かつて。

この全日本新体操選手権は、東京女子体育大学の独壇場だった。

平成になってからの30年間だけを見ても、じつに平成元年から平成21年までは東京女子体育大学が連覇。

2位には日本女子体育大学が入ることが多かったが、佐賀女子高校や藤村女子高校など高校生チームが健闘し2位になった年もある。

武庫川女子大学も過去に2回、2位になってることがある。

が、常にその上には東京女子体育大学が鎮座していた。

平成22年。

ついに日本女子体育大学が、東京女子体育大学を破るという大金星をあげた。

翌23年も日本女子体育大学が連覇。しかし、平成24年からはまた東京女子体育大学が5連覇。

昨年の第70回大会で久しぶりに日本女子体育大学が女王に返り咲いたが、つまり平成の30年間で

団体総合優勝を経験したのは東京女子体育大学と日本女子体育大学だけだった。

「平成最後の」全日本選手権もその流れのままいくかと思われた。

昨年女王の日本女子体育大学は、今年、絶好調だった。

アジア新体操選手権では、本人たちも「ビックリ」という優勝。

全日本インカレもあぶなげなく団体総合優勝。

団体キャプテンの大野知奈実と阿部麻由は、大学4年生と最終学年でもあり、この全日本選手権で有終の美を飾る。

そんな展開が想像できた。今年の日女は、そうなってもおかしくないだけの力は持っていたからだ。

しかし。

波乱は起きた。

団体総合は、「フープ×5」と「ボール&ロープ」の2種目(2シーズンごとに手具は変わる)の演技を行い、その合計得点で競われる。

まず、大会1日目には「フープ×5」が行われたが、試技順1番の名古屋女子大学高校が、素晴らしい演技で19.750をたたきだした後、早々に登場した優勝候補の日本女子体育大学の演技は、細かいミスが相次いだ。なんとか大きなミスにならないように踏みとどまってはいたが、終盤の足技でついに場外にフープが飛んでいってしまった。

その瞬間、会場につめかけた日女の応援団も選手たちも、時が止まったように感じたのではないか。そんな、ほんの一瞬の「魔の刻」だった。すぐにフープを取り戻し演技を続けたが、ミスによって失った点数は取り戻せない。

表示された得点は、「16.800」

ノーミスの素晴らしい演技だった名女に及ばないのはもちろんのこと、この得点では、この後出てくる12チームの多くに抜き去られる可能性がある。そんな厳しい評価だった。

もちろん、ミスはあった。大きなミスも出てしまった。

が、演じている選手たちは、アジア女王になったあのときと同じメンバーなのだ。とくにチーム力が落ちたわけでもない。投げ受けでのミスは出てしまったが、身体難度などはとくに悪くはなかった。それでも、この低い得点。

全日本インカレを制したときの18.800に、比べると2.00も低い。

こんなことがあるのか? と目を疑った人もいたのではないか。

しかし、これが今の、今年の新体操だ。

あの激戦だった高校総体でも、優勝候補の一角だった金蘭会高校、潤徳女子高校は1回の落下で沈んだ。優勝に限りなく迫った常葉大学附属常葉高校もたった1つの移動でメダルを逃した。

日本女子体育大学にも同じことが起きた、ただ、それだけのことだ。

今シーズンが始まる前に、多くの新体操指導者から、嘆きが聞こえてきた。

いわく「今年から減点がとても厳しくなる。落下や場外の減点も大きくなるし、わずかな移動でも減点が大きい。これでは、普通の選手たちの演技では点数が残らなくなってしまう。」と。

2018年ルールから、

●1歩移動してキャッチ⇒0.3減点

●2歩またはそれ以上の移動をしてのキャッチ⇒0.5減点

●落下(その場で手具を取り戻しても)⇒0.5減点

●落下(1~2歩移動して取り戻した場合)⇒0.7減点

●場外⇒1.0減点

となり、前年までより概ね0.2近く減点が大きくなった。

とくに団体競技では、少々移動はしても落下さえ防いでいれば、演技の印象はそれほど大きく損なわれないものだが、得点上は、そのわずかな移動のひとつひとつが大きな減点となり、見た目の演技の印象よりもかなり低い得点になってしまうのだ。

たしかにこれを厳密に行えば、中学生になってから新体操を始めたばかり、というような選手、チームの拙い演技では0点以下にもなりかねない。新体操のハードルが上がってしまう、ことを危惧する声も少なからず聞こえてきた。

ところが、この大きな減点が、ドラマを生んだ。

だからこそ、それぞれのチームに悲喜こもごもはあったに違いないが、観客にとっては、「あの移動が」「あの落下がなければ」と、その敗因も分かりやすくはなった。

採点競技ではえてして、審判の先入観や力関係によって、納得しがたい点数が出ることがある。

かつては新体操もその例にもれなかった。が、近年はかなり変わってきていたし、今回の減点の厳格化でなおさら得点の根拠はわかりやすくなった。

昨年優勝。アジア女王。優勝候補の筆頭。

その日女でも、これだけのミスがあれば、ここまで得点が下がり、高校生にも負けることがあり得る。

大会1日目にして、いきなりそんな現実が突きつけられた。

日女のあとに登場した、高校生チームのアンジュ、昨年は全日本出場すら逃していた武庫川女子、全日本初出場の高校生チーム・御所野学院高校と、大きなミスのないしまった演技が続き、3チームとも日女を上回る得点をマークする。とくに武庫川女子は、移動もほぼ見られない素晴らしい演技で19.450。ただ、それでも名女には及ばなかった。

6番目に日女にとっては最大のライバルである東京女子体育大学が登場。日女にミスが出たことで東女にとっては女王奪還の可能性が大きくなっていたが、なんと落下3回の大乱調。大柄な今年のチームの演技は迫力もあり、同調性にも見るべきものがあったが、いかんせん落下3回は大きすぎた。得点15.250。日女よりも下になってしまった。

伊那西高校
伊那西高校

続く日本体育大学、昭和学院高校、伊那西高校、中京大学、すみれRG/金蘭会高校、国士舘大学は、いずれもわずかなミスは出ても、大きな減点にはならない素晴らしい演技を見せ、ここまで終えた時点で、高校総体覇者の昭和学院が20.100をマークしてトップ。すみれRG/金蘭会高校が名古屋女子と並んで19.750で続くという高校生優勢の展開となった。

そして、13番目に登場した常葉大学附属常葉高校/静岡RGが、高校総体でのうっぷんを晴らすような凄まじい演技を見せる。ほぼ非のうちどころのない正確な実施を、情熱的に演じ切り、20.300をたたきだし、この激戦を制したのだ。

常葉大学附属常葉高校
常葉大学附属常葉高校

国内の大会では、大学生はインカレでも団体総合があるため、2種目の演技を練習しているが、高校総体を目指している高校生は、高校総体で行われる1種目だけを普通は練習している。今年の場合はそれが「フープ×5」だったため、この種目に関しては、高校生優位はある程度予想されてはいたが、日女、東女にミスが出てしまったため、想像以上に「高校生優位」になってしまった。

が、今の高校生たちの凄さは、2日目にさらに発揮された。

2日目の「ボール&ロープ」では、昭和学院高校、奈良文化高校、名古屋女子高校の演技には落下や場外など、いわゆる「あまりやっていない種目」らしいミスが見られた。「フープ×5」とは点数もかなり違ってしまったが、これは高校生としては普通にあることだ。

むしろ、驚かされたのは、16.850をマークした伊那西高校、17.800のすみれRG/金蘭会高校、17.500の常葉大学附属常葉高校、17.550のアンジュ、16.950の御所野学院高校のほうにだった。

すみれRG/金蘭会高校
すみれRG/金蘭会高校

少なくとも、高校総体までは全日本選手権に出られるかどうか決まっていない高校生たちにとっては「ボール&ロープ」は練習しても無意味になる可能性のある種目だ。全日本出場が決まってから慌てて作品を作ったチームもあるかもしれない。それなのに、ここまでの完成度に仕上げてくるその根性には、ただただ感服するしかなかった。

もちろん、「フープ×5」ほどには練習できてないには違いない。しかし、それでも、これだけ減点が厳しくとられる今のルールでこの点数を残すことができるのは、選手たちの努力の賜物であると同時に、作品がよく工夫して作られたものだったということだ。

選手の力も意識も上がっている。と、同時に指導者たちの見ているところも、1ランクも2ランクも上がったのだ、と感じた。

少し前までは、高校生は全日本には「出るだけで満足」だった。本気で大学生に勝とうとか、優勝しようと思う高校生チームはほぼなかったように思う。

それが。

今年の高校生たちは、違っていた。

この2種目目の出来栄えを見る限り、「フープ×5」でリードして、その優位を生かして上位を狙う。そんな野心をもってこの大会を迎えたことがわかる。そして、本番でその狙い通りに近い演技をやってのけた。

1日目に大きなミスで沈み、まさかの種目別決勝進出(8位まで)すら逃すことになった日本女子体育大学と東京女子体育大学も、2日目の「ボール&ロープ」では意地を見せた。日本女子体育大学は、執念すら感じさせるノーミス演技で19.450の1位。東京女子体育大学も18.400をマークする好演技で3位となり、そろってこちらの種目では、決勝進出を決めた。

しかし、1日目の出遅れを埋め、ひっくり返すには、あまりにも「フープ×5」でのビハインドが大きかった。

団体総合での成績は、日女5位、東女11位。

だれもが予想だにしなかった結果になった。

初優勝をもぎとった武庫川女子大学
初優勝をもぎとった武庫川女子大学

そして、これだけ高校生の躍進が目立った大会だったが、優勝したのは、両方の種目を高いレベルでしっかりまとめ、ミスらしいミスなく2種目をやり切った武庫川女子大学だった。「フープ×5」19.450で6位、「ボール&ロープ」は18.550で2位。どちらも1位ではないが、「2つ揃えた」。大学生のライバルたちが、片方の種目で大崩れするなかで、この武庫川女子の粘りは光った。

昨年は、全日本インカレでミスを連発し、全日本選手権出場すらできなかった。

力のある4年生が卒業したあと、不安いっぱいでの今年の船出だった。今年の全日本インカレでも「ボール&ロープ」ではかなり大きなミスをして14.050に終わっていた。2種目ともまとめられるかどうか、不安との戦いだったのではないかと想像する。

しかし、武庫川女子は、最後の最後のこの大会で、自分達の力を出し切った。

あきらめず、萎縮せず最後まで演じ切った。

そのことに対して、「初優勝」という結果がついてきた。

これは、武庫川女子の選手たちの頑張りの賜物であると同時に、新体操という競技がもはや「●●大学がどうせ勝つ」とか「高校生には大学生のような点数は出ない」とか、そういう予定調和とは完全に決別したことの象徴だったように思う。

努力はみんながしている。

ただ、その努力を、本番の演技でどう花咲かせるか。

フロアマットの上で、誰が、どのチームがもっとも力を出し切れたのか。

その一点のみで、競われる。

そんな競技に近づいてきている。

だから、見ていて興奮できる。終わるまで勝敗が予想できない。

「減点が厳しすぎる」今年のルールには悪評もあるが、先入観や忖度の入り込む余地のないこのルールが、今年の激戦を生んだという面は否定できない。

やっている選手たち、指導者たちは、きっと大変だろう。

どれだけ練習を積み重ね、素晴らしい演技を構築していても、本番のわずかな移動、ひとつの落下で天国から地獄くらいに点数が下がり、順位も下がる。メダルの色も変わってしまう。

あまりにも苛酷だ。

しかし、だからこそ。

スポーツらしい、とも言える。

こんな新体操も悪くない、と今、私は思っている。

こんなエキサイティングな展開だった「第71回全日本新体操選手権女子団体総合」が、11月29日(木)19:00~21:00、スカイAにて放送される。

今の新体操の厳しさを、そして、選手たちの凄まじい頑張りをぜひ一度、見てほしいと思う。

※スカイAの放送予定

<写真提供:清水綾子>