【男子新体操】男子団体の絶対王者・青森大学に死角はあるか?~第71回全日本新体操選手権

8月に行われた全日本インカレで17連覇を達成した青森大学の団体演技

第71回全日本新体操選手権。

2日目に予選、3日目に決勝が行われる男子団体競技では、2014年から4連覇中の青森大学が連覇を「5」にのばすか、に注目が集まる。

青森大学は、全日本インカレではすでに17連覇を達成している男子新体操界の絶対王者。今大会でも唯一無二の優勝候補と言っていい。

しかし、じつは今年の青森大学、決して順風満帆ではなかった。

そもそも、1年前の全日本インカレ、全日本選手権で圧倒的な強さを見せたメンバーから4年生だった4人が抜けた。

昨年の4年生には、1年時からレギュラー入りしていた力のある選手が多く、青森大学の連覇の牽引役となっていた。その強力メンバーが一気に4人もいなくなるのだ。これは痛い。

これはどんな競技、どんなチームでも言えることだが、強い世代が長く君臨した後の世代は、本番経験が少なくなってしまう。大会に出ることが少なく、経験が積めないまま、学年が上がり、いきなり「最後のインカレ」「最後の全日本」を迎えてしまいがちなのだ。

それも、青森大学のように連覇もかかるとなれば、レギュラー経験の浅い選手にかかるプレッシャーはどれほどものか、想像に難くない。

「今年の青森大学は苦労するのではないか」

シーズン前にはそう予想するむきもあった。ライバル校にとっては、久々にめぐってきたチャンスの年でもあった。

全日本インカレの予選にあたる東日本インカレでの青森大学は、その不安を露呈させていた。例年なら自信満々で水も漏らさぬような動きを見せる公式練習でも、なかなかスムーズに技が繋がらない。素人目にもわかるミスも出る。「どうした、青大?」と言いたくなるような練習ぶりだった。

しかし、本番の1本にはしっかり合わせてきた。「ここ一番」での底力にはさすが青森大学!と言わせるものがあった。

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それでも、昨年までの横綱相撲のような勝ち方とは明らかに違っていた。

この東日本インカレでの辛勝によって、このままでは全日本インカレの連覇に黄信号だ、と部員たち、そして中田吉光監督は思っただろう。

全日本インカレに向けては、エンジン全開で、もう一度、チームを鍛え直す! という意気込みはあったのだろうが、その意気込みが空回りする。夏に向けての大事な時期に、故障者が続出したのだ。

ただでさえ、レギュラー経験者の少ないチームなのに、昨年、1年生ながらレギュラーを務めた五十嵐涼介(2年)も、脚を故障し春先から離脱。全日本インカレには到底間に合いそうになかった。

焦ったのは、キャプテンの井藤亘(4年)だ。昨年の大会では優勝しても表情が緩むことなく、常に「来年が大変」と、翌年を見越していた井藤。勝ちに浮つくことのない冷静さを持ち、状況を読むことのできる頼れるキャプテンではあるが、経験が浅いどころか、予定したメンバーでの練習もままならない、そんな状態になるとは予想していなかっただろう。

「自分が引っ張っていく」という覚悟と気概はあっても、思うようにチーム力は上がっていかなかった。

「去年までの強いチームを中で経験しているのが自分しかいない。まだ経験が浅い5人はミスをしたときに立て直すのが難しい。自分がフォローし、すくい上げる、そんなこともやっていかなければと思い知らされた。」

そう語った井藤は、東日本インカレでの勝利にもまったく満足していなかった。

「本番まで1本もノーミスが出ていなかった。それがなぜか本番では通ってしまった。自分はそういうのは好きじゃない。」

だからこそ、「全日本インカレでは、完成度を上げて、スッキリ勝ちたい」という思いででき得る限りの準備をしてきた、はずだった。

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ところが。

2018年8月18日に行われた全日本インカレの予選で、青森大学は前代未聞のピンチに見舞われる。

予選での試技順7番。最後の演技者だった青森大学の演技は、開始早々、音楽が消えた。そして、そのまま最後まで青森大学は曲なしで演技を通さざるを得なかったのだ。予期せぬ音響のトラブルだった。

はじめは、応援の意味での手拍子が会場から起きた。が、それもすぐに止まった。

曲がない以上、彼らが頼れるのはお互いの呼吸だけ。手拍子はその呼吸音をかき消し、同調の手がかりを奪ってしまう。

「この演技、どうなるのか?」と会場中が息をのんで見守る中で、青森大学の演技は進んでいった。曲で合わせていたのだろう、と思うところでわずかなズレはあった。が、全般を通して見れば、「音楽なしでここまで揃えられるのか?」と、そら恐ろしくすらなる。そんな演技だった。

昨年の紅白歌合戦でも話題になった三浦大知の「無音ダンス」。あれも、きっとこの原理だ。お互いの呼吸や空気を感じ合えるからこそ、やり遂げられた演技なのだろう。

このときの青森大学の得点は、16.750。青森大学としてはあり得ない低い得点だが、曲が止まってしまったことによる減点もあり、致し方ないところだった。

そして、青森大学にとって救いになったのは、予選1位の国士舘大学にもミスがあり、17.125とあまり得点が伸ばせなかったことだ。予選2位の花園大学も16.800。予選の得点は半分しか持ち越さないことを考えれば、首位・国士舘との差はわずか0.1875。決勝の演技次第では十分挽回可能な点差だった。

じつは、青森大学は、全日本インカレ16連覇を成し遂げた昨年も、組み技に大きなミスが出て、予選では国士舘の後塵を拝している。しかし、1年前のチームなら、「予選で起きたことは仕方ない。決勝ではちゃんと自分たちの演技をすれば勝てる」と切り替えられたし、「決勝ではできる自分たち」を信じることができた。

それは彼らが、そこまでの歳月で積み重ねてきたものだった。そして、実際、そうなった。

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今年のメンバーで、果たして同じような逆転劇を演じることができるのか。

そこには一抹の不安があった。

今回が最後のインカレとなる村松景介(4年)は、1年前、A団体の補欠だった。不動のレギュラーがフロアの上で練習する間、その後ろで同じように動き、レギュラーが通した後には、補欠メンバーだけで通しをみんなに見てもらう。大会でフロアに上がることはなくても、レギュラーと同じくらいずっと動き続け、その演技を見られ、欠点を指摘されるプレッシャーにさらされ続けていた。レギュラーの直後に演技すれば、その差が歴然としていることを言われ、まだまだ道のりは遠いと思い知らされていた。

「高校時代、自分はだらしない選手だったので、青森に自分を変えにきた」と言っていた村松は、本当に変われたのか。

この演技は格好の試金石になりそうだった。

1年前に青森大学の全選手にインタビューさせてもらったとき、「2年目になってBチームで出してもらえるようになってきたので、来年は絶対にAに入りたい」と言っていた木牟禮詢(3年)、「高校の3年間は日本一を追いかけてやってきたが、大学ではみんなが同じ熱をもってやっている。ここで来年はレギュラーになって日本一の伝統を崩さずやっていきたい」と言った江上駿祐(2年)、彼らは1年前はレギュラーの通しをフロアの外から見て、声をかけ、タオルを渡していた。その彼らが、今は公言とおり青森大学のレギュラーメンバーになっていた。

彼らの努力の賜物、ではあるが、昨年までのように「読めるメンバーではない」ということは、それだけ青森大学も苦しいのだ。

さらに、全日本インカレでは、1年生が2人入っていた。武藤翼、玉置颯。高校総体の団体で活躍した選手たちだが、なにせ1年生。思いがけないミスが出てしまう可能性もあった。

1年前の全日本インカレをAチームで経験したのは井藤だけという、少しばかり不安を抱えたメンバーで、前日の悪夢を払しょくし、0.1875差をひっくり返す。それは青森大学といえど、容易なことではなさそうだった。

しかし、彼らはきわめてあっさりと、その難題をやってのけた。

決勝での青森大学の演技に、大きなミスはなかった。

いつも通りの重みのある体操、豊富な運動量、圧倒的なスピード感のある演技を、見事な同調を伴って見せた。

井藤は、「去年までのメンバーよりもひとりひとりの力は落ちるので、より個性は消して、同調性がよく見えるような構成、実施を目指してきた」と言ったが、まさにそうだった。

「力が落ちる」と井藤は言ったが、そういう自覚があるからだろうか、たしかに迫りくる力は昨年までよりも少し劣るかもしれないが、すうっと心に染み入るような美しさ、柔らかさは、昨年までのチーム以上じゃないのか、と見えた演技だった。予選での無音状態での演技が破綻しなかったのも、きっとこのチームだからなのだ、と感服するしかなかった。

果たして、青森大学はこの決勝の演技で18.700の高得点をマーク。決勝ではノーミスで会心の演技を決めた国士舘大学の18.250を上回り、予選でのビハインドをひっくり返し、17連覇を達成したのだ。

6人中5人が、Aチームとして全日本インカレの舞台に立つのは初めてだった。

どれほど緊張に襲われただろうと思う。どこでミスが起きていても誰も彼らを責めることはできない。

そんな緊張があったはずなのだ。

それでも彼らの演技には、「自分は初めてなんで」という言い訳の入り込む余地はなかった。

たとえメンバーとして、全日本インカレのフロアに立つのは初めてだとしても、青森大学で過ごしてきた今までの時間ずっと、彼らは「青森大学団体の一員」として戦ってきたのだ。

これが本番! ここが本番! とひるむ必要などなかった。「いつかはメンバーに入りたい!」と願い、努力し、「ここで失敗すれば信頼を失い、メンバーの座が遠のく」というプレッシャーのかかる場面も何回も経験してきているのだ。

本番の1本だからと言って特別なことなどなにもない。

個々の身体能力も高く、チームとしての経験値も高かった去年までの青森大学は、たしかに強かった。

が、去年までのチームが持っていたアドバンテージのほとんどを失った状況で迎えたシーズン、故障者続出に苦しみながらのシーズンでもなお、簡単には倒れない強さ。

今年の青森大学の強さは、今までとは少し違う。下積みを知っている選手たちが支えている強さだからだ。

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その青森大学が、この週末の全日本選手権では5連覇に挑む。

全日本インカレ時のメンバーとは2人メンバーが入れ替わる。井藤、村松、江上、武藤はそのまま。故障のためメンバーからはずれ、全日本インカレでは補助役員で奔走していた五十嵐が復帰。そして、全日本インカレでは、Aチーム補欠として、選手たちを一番近くでサポートし、鼓舞し続けていた内村志朗(4年)が入る。内村にとっては、4年間で初めてのAチーム入りだ。

出身はあの鹿児島実業高校。話題になったコミカル作品の多くに中心的な役回りで出ていた。同級生の福永将司は、現在、国士舘大学の4年生。今年の全日本インカレではついに個人総合初優勝を成し遂げ、内村もおおいに刺激を受けているに違いない。

1年前、内村は、団体練習の撮影係をやっていた。それでも話を訊けば、「4年間のどこかで、Aチームのメンバーに入りたいという思いはある。そのために技術も精神面も、もっともっとレベルアップしていかないといけない。」と言っていた。サポートにつく時間が長かったとしても、まだあきらめているわけではない。その言葉からはそんな思いが伝わってきた。

「高校卒業するときに大学で続けるかどうか迷っていたが、恩師の樋口先生(鹿児島実業監督)からも青大を薦められて、やはり自分は新体操をやっているときが、つらくても一番いきいきできるかな、と思って続けることを決めた。ここ(青森)が自分の新体操の集大成だと思っている。」

あのときの内村が言った「集大成」は、おそらくどんな形であっても、ではなかったか。

フロアに立つことをあきらめたわけではないが、それが叶わなかったとしても、「集大成」と言える働きをするのだ、という覚悟を彼は口にしたのではなかったか、そう感じていた。

それが、「全日本選手権出場」という最高の形での集大成になるとは。

4年間、故障などで思うように練習できなかった時期もあったと聞いているが、「いつかは!」という思いを彼が捨てていないことを中田監督はわかっていたのだろう。

「この一本」に懸ける思いはきっと誰よりも強く、熱い。そんな内村の存在が、青森大学の5連覇に弾みをつける。

中田監督は、そう信じているのだ。

これだけの選手たちの中から6名に入ることは容易ではない
これだけの選手たちの中から6名に入ることは容易ではない

故障者続出に悩まされてきた今年の青森大学だが、ここにきて、そこにも変化が起きている。

学生たちの自炊による寮の食生活の改善に本格的に乗り出し、栄養士らの力を借りての食育を始めたのだ。

指導を受けながら寮で自炊する選手たち
指導を受けながら寮で自炊する選手たち

※「勝ち飯プロジェクト」に関する東奥日報の記事

今まで後回しになっていた食による身体作りにも着手し、すでに改善の気配が見えてきているという今、王者・青森大学に死角を見つけることは難しい。

「つけいる隙のない」昨年までのメンバーから、チームを刷新した今年は、苦しいシーズンだったには違いない。

が、それを乗り越えて、さらに大きくなった青森大学。

来る全日本選手権では、王者の貫禄あふれるパーフェクトな演技を見せつけてくれるに違いない。

※第71回全日本新体操選手権※

2018年10月26日(金)~28日(日)

会場:千葉ポートアリーナ

日程:26日(金)男女個人前半種目/女子団体総合「フープ×5」

   27日(土)男女個人後半種目/女子団体総合「ボール&ロープ」/男子団体予選

   28日(日)男女個人、女子団体種目別決勝/男子団体決勝

チケット:指定席2000円/自由席1500円/車いす席1000円

     (前売りは終了しており、すべて当日券価格)

     当日券販売は、26日8時半~、27・28日8時15分~の予定

競技開始:3日間とも10時

<写真提供:清水綾子>※勝ち飯の写真は青森大学提供

<動画提供:青森大学>