おかえりなさい、鹿実!~鹿児島実業高校男子新体操部2年ぶりの全国高校総体出場決定

全国高校総体出場の懸かった演技を終えた瞬間の鹿児島実業の選手たち

鹿児島実業にとっては地元になる鹿児島アリーナでの開催となった今年の九州大会。

今年は、鹿児島市の観光キャンペーンにもかつぎ出されるほどの人気を誇る鹿児島実業高校の男子新体操部が、昨年は逃してしまった全国高校総体の切符を懸けて演じる「勝負の1本」が始まったのは、午後3時を少し過ぎたころだった。

男子の中では試技順3番。

鹿実と4位争いをすると目された福岡舞鶴高校は、すでに試技順1番で演技を終えていた。

3年生が多く、昨年は気迫の演技で鹿実から高校総体出場をもぎ取る形となった福岡舞鶴は、今年はほとんどのメンバーが入れ替わったため、苦戦していた。それでも、今回の九州大会に向けては、かなり仕上がってきており、3月の高校選抜とは見違えるようになってはいたが、本番の1本で鹿倒立に乱れが出た。それが大きく響き、得点は12.600。

鹿実は、1週間前、高崎アリーナで行われた男子新体操団体選手権にも出場しており、そこでほぼ完璧な演技を見せているが、そのときに出た得点は、12.400だった。それを思うと、ミスが出ても福岡舞鶴が12.600を出したことを、選手たちが知っていたならば、多少の不安はよぎったのではないか。少なくとも「余裕で勝てる」試合にはならない、そう感じていたはずだ。

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鹿実のエースである吉留大雅が、獲物を狙うようなポーズをとり、一昨年大流行した「PPAP」で始まる、いわゆる「鹿児島実業2017」の演技が始まった。昨年の全国高校総体では披露することができず、そのままお蔵入りしていたが、今年の1月、長野県で行われたテレビ信州杯で初披露。その後、多くの演技会や高校選抜でも披露してきたこの演技で、鹿実は、全国高校総体出場を獲りにきた。

※長野で初披露されたときの「鹿児島実業2017」

しかし、動画サイトなどで公開されているこの作品とは、演技冒頭からかなり趣が違っていた。

「PPAP」の曲に合わせた動きも、より胸後反に近くなっており、ペンをりんごに刺す様子を表現するユニークなポージングもなくなっていた。「PPAP」パートの最後には、現在の鹿実のツートップである、吉留と石牟禮華月が組んで、お尻が強調されるポーズで笑いをとっていたが、今回はその部分でも、個人選手としても活躍している2人らしく、びしっとスタイリッシュなポーズを決めて見せた。

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演技が始まって45秒。

「本当に今、鹿実が演技しているのか?」と思うほどに、

会場ではまったく笑いが起きていなかった。

本来ならもっともわかりやすく笑いがとれるのが、この「PPAP」パートだったのだが、この日の鹿実の演技には笑える要素はなかった。

曲こそは「PPAP」だが、彼らはあくまでも真面目に、美しく、体操をやっていたからだ。

地元・鹿児島での九州大会だったため、会場には鹿実の全国高校総体出場を期待している観客も多かったはずだ。

それでも、誰も笑っていなかった。ただ息をのみ、彼らの真摯な体操を、懸命な戦いを見つめていた。

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第1タンブリングでは、全員がきちっと高さのあるひねり宙返りを決める。

石牟禮の高速タンブリングがさく裂する。

このとき、やっと会場が沸いた。

笑いではなく、そのタンブリングの強さ、揃い方に対してわっと拍手がわいたのだ。

曲がブルゾンちえみでおなじみの『Dirty Work』に変わると、このパートでは体操の見せ場が続いた。

なんと言ってもその鹿倒立の精度の高さ。

鹿実は、この鹿倒立に入る前に、全員が一度肩を上げて深く呼吸をしているが、この肩の上げ下げのタイミング、スピード、高さまですべてが揃っていた。そして、鹿倒立も危なげなく、角度もよく揃い、その揃い方を強調するように、まったく同じタイミングで全員の脚が揃って伸びる。素晴らしい鹿倒立。そして、続くバランスもきっちりと美しく決めて見せる。

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男子新体操の団体競技できわどい勝負を分けるのはたいていこの2つだ。

練習ではどれだけ成功していても、何かが懸かった試合で、極度の緊張状態にあれば、どんな選手でも思わぬミスが出るのが、この鹿倒立とバランスなのだ。

「昨年は出られなかった全国高校総体出場が懸かっている」

「3年生にとってはこれが最後のチャンス」

など、余計なことを考えてしまえば、おそらくミスが出る。

しかし、おそらく彼らは無心で、この場面を乗り切った。

そして、第2タンブリングでも、乱れはなく、再び会場では拍手が起きる。

タンブリング後に見せた、サンシャイン池崎の「ジャスティス」のポーズは、もはや元ネタがわからないくらいに洗練されていた。

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曲が、星野源の『恋』に変わる。

かかとが高く、しっかりと引き上げられた上下肢運動を終えると、ここからはもう、鹿実の真骨頂だ。

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軽快な曲に乗せて、スピード感のある細かい動きが続くが、そのひとつひとつが「よくぞここまで」と思うほどに揃っているし、キレがある。これは生半可な練習量でできることではない。

初披露のときとは比べ物にならないクオリティ。そして、それがもっともよく表れていたのが、6人揃ってフロア前方から斜め後ろに向かって走っていき、そのまま入るひねり宙返りだった。

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彼らは、その走り方から、宙返りに入るタイミング、高さ、そして回り方まで見事に揃えていたのだ。

さすがに静止画にしてしまえば、多少の誤差はあるが、動いていれば「まったく同時」に見えるくらいの精度で、ここを揃えて見せた。

3バックでもなく、とりたてて難易度の高いタンブリングではないのだろうが、それでもそれをここまで揃えるということは、相当執念深く練習を重ねないとできない、と思う。

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『ようこそジャパリパークへ』にのせて見せる組みを土台にしたジャンプ。

これも、いつものおふざけはなく、あくまでも美しい形で実施した。

そして、最後のタンブリングの交差が見事に決まると、この日の鹿実の演技でもっとも会場が沸き、大きな拍手が起きた。

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ノーミス演技。

それも、かなり精度の高い。

そして、規定違反などの減点も、審判の心証を悪くしそうなおふざけもなかった。

表示された得点は、13.900。

この瞬間、福岡舞鶴を破り、鹿児島実業高校が2年ぶりに全国高校総体への出場を決めた。

すでに準備されているだろう「鹿児島実業2018」を、今年は全国高校総体という大舞台で見ることができる。

それは多くの新体操ファン、鹿児島実業ファンにとって大きな喜びだろう。

久しぶりの全国高校総体で、彼らはきっとのびのびと、自分たちらしい演技を見せてくれるに違いない。

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しかし、この日、鹿児島アリーナで彼らが見せた、「誰も笑わせない鹿実の演技」には、値千金の価値があった。

今までの演技会で多くの笑いを巻き起こしてきた作品と、基本的には曲も振り付けも同じなのだ。

それでも、ときには批判にさらされてきた「おふざけ」要素を削ぎとって見せてくれた彼らの演技は、あまりにも美しく、真摯だった。

いつもなら、笑いをとるために懸けてきただろう時間のすべてを、技や同調性の精度を高めるために使ってきたのだ、と思った。

他のチームがやらないような演技で、話題になり、人気を獲得してきた鹿児島実業の男子新体操部が、

他のチームがやらないようなところまでこだわって、評価(点数)を取り、全国高校総体の出場権を獲りに来たこの演技を見ることができて本当によかった。

そして、ちゃんとそれを評価した審判も素晴らしかったと思う。

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「カジツだからきっと面白いことをしてくれるはず」と思って見ていた人の期待は裏切る演技だったかもしれない。

が、彼らは、「全国高校総体の出場を逃すこと」が、なによりも期待を裏切ることになると身にしみていたのだと思う。

「笑わせる」という面では裏切ったかもしれないが、演技では決して裏切ってはいない。

むしろ、今までで一番! とも思える演技を見せてくれた。

「男子新体操をやっていることで、選手たちに自信をもたせてやりたい」と言っていた樋口監督も、いついかなるときでも「面白いカジツ」にこだわって、その結果、選手たちが目標としてきた舞台に上がれないという思いをもう二度とさせたくないと考えたのではないか。

そんなことを、この日の演技から感じた。

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樋口監督はいつだって、選手たちが「やりました!」と笑顔で帰ってくるのを、笑顔で迎えたいのだから。

【高体連九州大会男子団体結果】※4位までが全国高校総体出場

1位:神埼清明高校 17.450(構成9.000+実施8.450)

2位:小林秀峰高校 15.850(構成8.700+実施7.150)

3位:芦北高校 14.475(構成7.800+実施6.675)

4位:鹿児島実業高校 13.900(構成7.500+実施6.400)

5位:福岡舞鶴高校 12.600(構成7.050+実施5.550)

<撮影:椎名桂子>