知ってましたか? 男子新体操選手の柔軟性がモノ凄いことになってるんです! ~2018高校選抜

3月25日高校選抜男子団体で優勝した神埼清明高校

 3月24~25日に行われた第33回全国高等学校新体操選抜大会において、男子団体で優勝したのは、昨年夏の覇者・神埼清明高校(佐賀県)だった。

 神埼清明高校といえば、男子新体操界においては強豪校。優勝したこと自体には、驚きはない。とくに今回は、夏に続いての優勝。夏春連覇。今年の夏も優勝すれば、まさに男子新体操は「神埼時代」の様相となる。

神埼清明高校の演技。上にのっている選手の開脚度も素晴らしい!
神埼清明高校の演技。上にのっている選手の開脚度も素晴らしい!

 しかし、今の神埼の強さは、以前の神埼とは明らかに違う。

 この強豪チームの強さの変化は、男子新体操全体の方向性にも少なからず影響を与えると思われる。

 春も夏も、常に「優勝候補」には名前のあがる神埼清明だが、じつは、3月に行われる選抜大会での優勝は、2007年以来、10大会ぶりだ。神埼が優勝から遠ざかっていた間に優勝しているのは、小林秀峰(2008年までは小林工業)が4回、青森山田が2回、盛岡市立、井原、恵庭南が1回ずつだった。

 これらのチームに共通していたのは、ジュニア時代から全日本ジュニアに出場している選手たちが、数多くいるチームだったことだ。神埼も当然そうだろうと思われがちだが、優勝から遠ざかっていた期間の神埼はそうではなかった。(それ以前は、神埼中学校として全日本ジュニアに出場していた選手たちが入ってきていた時期もあった)

 中学までは陸上部だった、バレー部だった、あるいは何も部活はやっていなかった、そんな選手たちを高校の3年間でいっぱしの新体操選手に育てあげる、新体操界の重鎮ともいえる中山智浩監督は、その手腕にたけており、基礎もおぼつかない状態で入部してきた選手たちをうまく使い、毎年、優勝争いができるところまではもってくるのだ。

 ただし、春の選抜大会となると、さすがに少し時間が足りないことが多かった。そこでは、ジュニアから新体操をやってきたキャリアのある選手たちの多いチームには後れをとることもあり、なかなか優勝には手が届かなかった。

名将・中山智浩監督
名将・中山智浩監督

 そんな神埼に変化が起きてきたのは、2012年だった。

 以前から、近所の子ども達が神埼清明高校に練習に通ってきていた。みんな元気で、暴れたい盛りの男の子たちで、とにかく跳び回るのが楽しい! そんな子ども達だったが、競技を目指すという感じではなかった。その小学生たちで、チームを組んだ。神埼ジュニアだ。

 なにしろ身近で神埼清明の演技を見ている子ども達だ。そのころから小学生とは思えぬタンブリングの強さはもっていた。しかし、2013年1月、長野県で行われたテレビ信州杯に出てきた彼らは、「キッズ選手権(男子小学生対象の徒手の個人競技)」で上位を独占はしたが、優勝できなかった。このとき、優勝したのは乾蒼真(当時:華舞翔新体操倶楽部⇒神埼清明高校に進学。今回の優勝メンバー)だった。

 このとき、彼らを率いていたコーチは、「全国には強い選手がたくさんいる。勉強になりました。」と言って、佐賀に帰っていった。タンブリングでは、この当時、すでに彼らは同世代ではトップレベルにあった。が、徒手体操や表現などの面では、乾が所属していた華舞翔や、ジュニア育成に本格的に乗り出していた国士館ジュニアなどの選手たち、さらには、全日本ジュニアを連覇していた井原ジュニアなど、神埼を凌ぐチーム、選手がいたのだ。

 

 中学生になった神埼ジュニアは、持ち前のタンブリング力だけでなく、徒手にも磨きのかかったチームになった。

 しかし、彼らのジュニア時代は、北海道の恵庭ジュニア全盛期だった。癖のないまっすぐな体操と安定感のある実施力、そして神埼同様ジュニア離れしたタンブリングの強さを誇った当時の恵庭ジュニアに勝つことのないまま、彼らは高校生になった。それが現在の神埼清明高校の2年生たちだ。

上にいる選手が作った輪の中を他の選手がくぐり抜ける。
上にいる選手が作った輪の中を他の選手がくぐり抜ける。

 高校1年生の高校総体では、惜しくも優勝は逃したが、高校2年生になった昨年は、見事優勝。言ってみれば、5年がかりで彼らは頂点に立ったのだ。彼らのタンブリングの強さや、勇猛果敢な組み技は、「いかにも神埼清明!」であり、それも十分凄まじいのだが、特筆すべきはその柔軟性だ。神埼のスーパージュニアとして、全国に登場してきた当時は、彼らにここまでの柔軟性はなかった。

 しかし、強さだけでは勝てない、と知ったうえで、虎視眈々と頂点を狙ってきた彼らは、「柔剛併せ持った」チームを作ってきたのだ。現在の神埼清明高校が持っている強さは、己を知り、他者の強さも知っていたからこそ、得られたものなのだ。

 

 タイトル画に使った画像のこのバランス! 男子で、ここまでまっすぐに高く、この角度で脚を上げられるチームは他にはない。

 驚くべきことに、神埼では、控えの選手たちも、これに近いレベルでこの形のバランスができるのだ。(ちなみに今回の優勝メンバーの中にも高校から新体操を始めた選手が含まれている)

 「志を高くもつ(限界を作らない)」「自分が一番ではないことを知る」

 それが、神埼の選手たちをここまでにした。

 ちなみに、現在、彼らの下の世代=神埼ジュニアは、全日本ジュニア2連覇中。そして、このジュニアたちの柔軟性も凄まじいことになっている。

全日本ジュニア2連覇中の神埼ジュニア新体操クラブ
全日本ジュニア2連覇中の神埼ジュニア新体操クラブ

 ひと昔前は、男子の新体操といえば、高さを競うような組み技やダイナミックなタンブリングは凄い! が、柔軟性など美しさではやや劣る、そんな印象だった。それが、ここまできた。

 この流れを作ったのは、井原ジュニア、井原高校であることも忘れてはいけない。

元祖・柔軟男子「井原ジュニア新体操クラブ」(2017年のもの)
元祖・柔軟男子「井原ジュニア新体操クラブ」(2017年のもの)

 かつて神埼にも「ジュニア時代から井原に勝ったことがない。いつかは勝ちたい」をモチベーションに頑張っていた選手たちがいた。

 美しい体操、男子とは思えぬ柔軟性。それは現在の井原にも引き継がれているし、神埼にもおそらく影響を与えている。

根強いファンが多い井原高校の演技(2016年のもの)
根強いファンが多い井原高校の演技(2016年のもの)

 2011年。

 当時は初心者も含むメンバーで優勝争いをしていた神埼清明の中山監督に、決して恵まれているとはいえないメンバーでも強くできるのはなぜか? と訊いたことがある。そのとき、中山監督が、「ごまかしようはある」と答えたことを今でも覚えている。たしかにそれも戦略としてはアリだ。そこが中山監督の名将たるゆえんでもあった。

 しかし、今、中山監督は、どこのチームよりも「ごまかさない新体操」を、やってのけている。強くて、美しい。

 それは、ジュニア時代から、彼らを育んできた「神埼」の力でもあると言える。

 完全無欠にも思えるこのチームが、この夏、どんな演技を見せてくれるのだろうか。そこには期待しかない。

<写真提供:清水綾子>