「0.0375差の敗戦」を超えて、美しい体操を究め、勝つ!~国士舘大学男子新体操部

全日本インカレでは打倒青大にあと一歩まで迫った国士舘大学

ここ2日、青森大学の男子新体操がいかに強いか、なぜ強いか、という記事を連投してきた。

「全日本インカレ16連覇」

それはたしかに偉業に違いない。

しかし、男子新体操なんて見たこともない、という人なら、ちょっと意地悪くこう思うかもしれない。

「そもそも競技人口が少ないんだから、周りが弱すぎるんじゃないの?」

たしかに。

全日本インカレの男子団体の出場チームは毎年10チームにも満たない。

メジャースポーツに比べれば、狭い世界での勝負であることは否定できない。

だが、だからといって「周りが弱すぎる」ということは断じてない。

現に青森大学も、全日本インカレでは16連覇中だが、全日本選手権では、2003年に初優勝して以来、2回負けている。

近年では、2013年。このときは青大にミスもあったが、花園大学が伝説となるほどの素晴らしい演技を見せ、青大に土をつけた。

その前は、2008年。このとき優勝したのは国士舘大学だった。

同好会からスタートした青森大学の男子新体操部が一気に台頭する前は、国士舘大学は優勝の常連校だったが、2002年を最後に優勝からは遠ざかっており、2007年まで2位が5年続いた後の王座奪還だった。

しかし、その後は、また優勝には届かなくなった。

2010、2011年は、花園大学の急成長もあり、表彰台をも逃すという屈辱も味わった。

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だが、その経験が国士舘大学の新体操を蘇らせた。

2012年、2013年と国士舘の演技は、目に見えて「美しく」なっていった。

このころは、青森大学、花園大学のタンブリングが非常に強かった時期で、総合力では後れをとることもあったが、「体操の美しさ」や「同調性」では、決してひけをとらないチームへと国士舘は成長していった。

今の国士舘の「体操」は、勝てなくなり、低迷したり、迷走した時期もあった末にたどり着いたもの、だ。

2012、2013年と、試合ではミスが出たこともあった。メンバー不足で、5人編成で試合に臨まざるを得なかったこともあった。

が、昔の新体操の良さに原点回帰するように、かつての「規定演技」を練習に取り入れたり、「体操」にこだわってチームを鍛え直してきたのだ。

そして、2014年。

西江琢臣、吉村翔太というスーパールーキー2人が国士舘に入学してきた。

西江は、井原高校団体の中心選手。吉村は、3年時の高校総体で個人総合4位となり、一躍、注目を浴びるようになった力のある選手だった。この2人に共通していたのが、「徒手の美しさと柔軟性」だった。吉村は個人選手としても嘱望されていたにもかかわらず、断固として団体を希望した。

「国士舘の団体で勝ちたい。日本一になりたい、と1年生のときからずっと思っていた。」

という吉村。

入学当時から能力の高い選手だったが、彼は、「国士舘が勝つために、自分が練習でも引っ張れる立場になりたいと思っていたので、まずは国士舘の中で一番になることを目指した。」と言う。団体選手を決める選考会でも、常に一番の成績で選ばれることを目指していた彼は、大学入学後も成長し続け、進化し続けた。

この頼もしいルーキー達の加入で、上級生も奮起した。

一時期は、「どうせ勝てない」「2位なら御の字」という空気も漂いかけていた国士舘の団体は、やっと「本気で勝つことを目指す」雰囲気になった。

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2015年には、西江が肘の怪我で離脱するという誤算はあったが、それでもその穴をルーキーの山口聖士郎、山本悠平らが埋めた。山口、山本も高校時代は個人でも実績のある選手だったが、「国士舘で団体をやる」というこだわりが強く、団体選手となった。山口に至っては1年目は個人兼任し、個人でも全日本出場という獅子奮迅の活躍を見せた。

それだけの力をもった選手たちが、国士舘の団体に集結しつつあった。そして、この年、国士舘は体操の美しさだけでなく、タンブリングも飛躍的な進化を遂げる。

2015年の全日本インカレ。国士舘の演技に会場はざわついた。第1タンブリングからたたみかけるようなダブル宙返りの連続、交差なども明らかにそれまでとは難度が違っていた。

「国士舘ってこんなに強かったっけ?」

このとき、多くの人がそう思ったはずだ。

(※参考記事 2015全日本選手権「国士舘大学団体」

それでも。

2013年の全日本で一度負けてからの青大の強さは凄みを増していた。

インカレでも、全日本でも国士舘も素晴らしい演技を見せるのだが、得点ではなかなか青大との差は縮まらなかった。

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2015、2016年の国士舘は、それまでの男子新体操にはないPOPな曲を使い、会場中が味方になるような作品をもってきた。「国士舘スタイル」とでも呼びたくなるそのスタイリッシュな演技は、人気を博し「国士舘の演技が好き!」というファンや後進も増えてきた。

それでも、青森大学の背中が見えそうで見えない。そんな2年間を経ての今年の全日本インカレだった。

使用曲は、アニメのサントラが原曲だそうだが、久しぶりにしっとりとした静かな曲調のものをもってきた。

今は、スキャットを入れた楽曲が流行しているが、あえてボーカルは入れず、シンプル、かつ美しい曲だった。

吉村翔太をリスペクトする山口聖士郎(3年)は、発想が豊かで、構成つくりや選曲でも積極的に意見を出す選手だ。その山口は、

「2年間、POPな曲でやってきて、評判はとてもよかったが、自分達がいちばん見せたいと思っている体操の質や、演技の流れのよさ、などを際立たせるのは、POPな曲ではないだろう、と思った。あえてボーカルもなしで、古き良き新体操という雰囲気を出したかった。」

と言う。

たしかに、その作戦は当たっていた。

音楽が控えめなだけに、インカレでの国士舘の演技は、まるで選手たちの体が音楽を奏でているように見えた。

「コンセプトもしっかり決めて。自分たちが伝えたいものが伝わる演技にしようと考えた。」

というその演技の冒頭は、ジャングルの中を風が吹きぬけ、花びらが舞い散る、そんな情景をイメージしていたそうだ。

彼らが描き出そうとしたその情景そのままが、頭に浮かんだ人がどれくらいいるかはわからない。

だが、その「伝えようとする意思」は、おそらく観客には伝わっていたと思う。

全日本インカレ3日目、団体決勝で、絶体絶命だった青森大学が、鬼気迫る演技をし、18.825をたたきだしたことで、

最終演技者の国士舘大学は、18.5125を出さなければ青大に逆転を許すという展開になった。

18.5125は、楽に出せる点数ではない。

目につくようなミスがあれば、すぐにこのラインは下回ってしまうだろうことは、選手たちもわかっていたと思う。

ただでさえ、「青大に勝てるかもしれない」そんな状況で決勝の演技を迎えた経験はない選手たちだ。

緊張、もしくは気負いから力を出しきれずに、国士舘は自滅するかもしれない。

そんな不安もあった。

が、彼らは決して怖がっていなかった。萎縮もしなかった。

堂々と、自分たちの演技をやりきり、自分たちの強みを見せつけた。

このとき、彼らがいかに本気で「青大に勝つ!」と思って練習してきたかがわかった。

「優勝」は彼らにとって夢ではなく、現実につかみとれる可能性のある目標になっていたのだ。

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キャプテンの宮澤一成は言う。

「組み技は正直、青大のほうが強いと思う。

でも、国士舘は、徒手の美しさやキレでは青大を上回りたいと思ってやっている。」

吉村翔太も、

「指先、足先まで神経の届いた、文句の言えない正しい動き。体操の深さ、重さを見せるために、目には見えないところまで意識している。」と言う。

2年間のブランクを経て、最終学年で復帰し、また素晴らしい体操を見せている西江琢臣は、

「国士舘の強みは、徒手のきれいさと、タンブリングの着地のこなし。着地後の姿勢をしっかりとること、転でもなめらかに着地することで減点されない着地を意識している。」と言う。

彼らの言う、目指す演技は、全日本インカレでも十分にやれたと思う。

あの日の国士舘の演技は、本当にどこまでも美しかったし、怖がらず攻めた演技だった。

それでも。

やはり勝ったのは青森大学だった。

国士舘の選手たちも、一瞬何が起きたのかわからなかったのではないかと思う。

予選での点差があった分、決勝で予選以上の演技をやり切った時点で、「勝った。逃げ切れた」と思っても無理はなかった。

「勝てなかった」という事実を受け止めるのには、しばらく時間が必要だったに違いない。

9月の全日本男子新体操クラブ選手権のときに話を聞くと、吉村は、「インカレで勝てなかった悔しさはある。でも、それは全日本に向けてやり直すいいきっかけになったと思う。」と言った。

宮澤は、「インカレでの負けは悔しいけれど、正直あそこまでの僅差は、今まででは考えられなかった。悔しさの中にも希望が見えたと思っていいと思う。」と言った。

彼らは、もう後ろは振り向いていなかった。

ただ、前を向いていた。

10月28~29日の全日本のことだけを考えていた。

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今度こそ勝ちたい!

もちろん、そう思っている。

4年生の吉村、西江、宮澤にとっては「青大に勝つ最後のチャンス」であり、「日本一になる最後のチャンス」でもある。

だからこそ。

勝ちたい気持ちが表に出るのではなく、見せたい演技、見せたい体操が表に出る演技を彼らは目指す。

「どこにも負けないレベルの徒手を」

「高い難度でも、落ちない実施力を」

「これが新体操だ、という演技を」

「伸びたつま先、高いかかとなど体操の質の高さを」

それが見せられたときに、彼らの「勝ちたい気持ち」はおのずと伝わってくるはずだ。

※2017全日本インカレ決勝「国士舘大学」

この演技を見て、「青大が連覇しているのは他が弱いから」と言える人がいるだろうか。

国士舘も十分強かった、美しかった。

ただ、わずか0.0375上回ったチームがいたというだけのことだ。

ただ、その「0.0375」が重く、厚い。

全日本選手権では、この重しをはねのける演技を、国士舘には期待したい。

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※第70回全日本新体操選手権詳細はこちら。ぜひ足をお運びください。

<写真提供:清水綾子/浪江誠弥 動画提供:国士舘大学>