2017全日本学生新体操選手権が終わった。
多くの名演技、名勝負が見られた同大会だが、なんと言ってもハイライトは、
青森大学団体の16連覇達成!
これに尽きるだろう。
しかも、今年は「奇跡の逆転劇」というおまけまでついた。
大会2日目に行われた男子団体予選。
6チーム中4番目に登場した青森大学は、演技終盤の大技「ブランコ」で、かつて誰も見たことのないような大崩れを見せた。連続して行うブランコの序盤でミスが出、この大技がまったく機能しなかった。その瞬間、フロア上に選手たちは立ち尽くした。青森大学がこれまで試合では見せたことなかった大きな綻びが、16連覇のかかったこの大事な場面で出た。
得点は、17.725。
試技順1番で、「さすが青森大学!」と思わせる演技を見せた青森大学NEO(いわゆるBチーム)の17.950よりも低い得点だった。
さらに、予選最後に登場したライバル・国士舘大学は、わずかに小さなミスは見受けられたが、持ち前の美しい演技を存分に披露し、18.350を獲得し暫定首位に躍り出た。
近年では、2010年の青森インカレの際、予選で青森大学に着地のミスがあり、国士館大学と同点だったことがあった。あのときも予選終了後の青森大学の応援席は、水をうったように静まり返っていた。それが今回は、0.625のビハインドで決勝の演技を迎えることになった。
16連覇に黄色信号! 誰もがそう思った。
しかし、冷静に考えてみると、予選の得点は2分の1が持ち点となり、決勝での得点を合計して総合優勝が決まる。
つまり、国士館大学との差は、0.3125。
昨年の大会での、青森大学と国士舘大学の得点差は、全日本学生選手権決勝では1.025、全日本選手権決勝では、0.250。
青森大学が、完璧な演技をすれば、もしくは国士舘大学に少しでもミスが出れば、逆転は不可能ではない。そんな点差だった。
それでも、現在の青森大学の団体メンバーたちは「追う試合」をしたことがない。
「逆転のためには1つのミスも許されない」という状況を経験していない。
そのことが、決勝での演技にどう影響するか。
不安があるとしたらその一点だった。
8月17日。男子団体競技決勝。
競技に先立って行われた公式練習のときから、青森大学には異様なまでの気迫があった。
誰も近寄ることなどできないほどの重さ、厳しさ、そして熱さ。
この土壇場で、彼らは「絶対に負けない!」という思いで、まさにひとつになっているのが感じられた。
フロアにのっている6人と、周囲のサポートメンバーたち、さらには観客席で選手たちを見守っている部員たち。みんなが熱いひとつの塊になっていた。
予選上位3チームの中で最初に演技をするのは青森大学。
とにかくここは、ノーミスでつけいる隙のない演技を見せ、圧倒するしかない場面。
そこで。
青森大学は、見事にやりきった。
練習とおりに、もしかしたら練習以上に。
みんなが知っている「いつもの青大」の強さを見せつける演技だった。
前日は失敗した大技も、なんなくクリア。
命がけとも言えるリスキーでアクロバティックな技なのだが、寸分の狂いなく実施されると、まるで簡単なことのようにさえ見える。
表示された得点は、18.825。
王者・青森大学らしい、いつもの高得点が出た。
続く青森大学NEOも、予選でも素晴らしい演技だったが、決勝ではさらに上げてきた。
いざとなったら自分達が連覇を繋ぐ! そのくらいの思いで彼らはこの決勝に臨んでいたのだろう。得点は、18.125。予選では国士舘大学だけだった18点台にのせた。
そして。
トリで登場した国士舘大学の演技は、これもまた予選を上回る精度だった。
青森大学が「追う立場」を経験していないのと同様、国士館大学も今のメンバーたちは「リードを守る立場」を経験していない。
極度の緊張があるに違いなかった。「勝てるかもしれない」という今までに味わったことのない状況で、いつも通りにやることがどれほど難しいか。
青森大学が完璧な演技をした以上、国士館にミスが出れば0.3125差は簡単にひっくり返る。
そんな中、国士舘大学も演技は攻めに攻めていた。
タンブリングや組みは強く、速く、高く。そして、動きの美しさには、観客が息をのむ。
そして、予選以上にその精度は高かった。
「これは国士舘が逃げ切るかも」
そう思える演技を、彼らはやりきった。
得点は、18.475。決勝での青森大学の得点を超えることはできなかった。
そして、総合は…。
青森大学が、27.6875。
国士舘大学は、27.6500。わずか0.0375差で青森大学が逆転し、この瞬間16連覇を達成した。
0.0375.
「あの一歩が」とか「あのふらつきが」と言える点差ではない。
互角、だったのだ。
予選、決勝ともノーミスでハイレベルな演技で通した国士舘も優勝にふさわしいチームだった。
それでも、予選での大きなミスをカバーして逆転Vをつかめるほどに、青森大学の目指してきた強さが突き抜けていた、ということだと思う。
7月に青森取材に行ったときの中田監督の言葉を思い出す。
「ただ勝てばいいのではない。連覇すればよいのではない。
運動量ひとつとっても他チームの3倍はあると思わせる圧倒的な演技で勝ちたい。
男子新体操の認知が高まってきたのは嬉しいし、広まってきたのもいいことだと思う。
が、その過程で見落とされそうなこと、徒手とはなんなのか? 体操の質とはなにか?
それを知らしめる演技をするのが、青森大学だと思っている。」
どうしてもアクロバティックな大技だけが注目されがちだが、青森大学はそれだけでなく、体操の質、運動量、すべてにおいて「圧倒的な勝ち」を目指していた。
だからこそ、すでに何回も優勝してきた選手達をもってしても、ミスが出る。
インカレまで2週間という段階でも、練習でもがっちりノーミスとは言えない状況にあった。
(↑この動画は、7月28日に青森大学の練習場で撮影したもの。この後、構成に手直しを繰り返し、本番の演技はまた違ったものになっている。青森大学の許可いただき公開する。)
求めるところが高ければ、それだけリスクも増える。
そのリスクが露呈したのが、予選での演技だったのだろう。
そして、そこから逆転できたのは、青森大学がそこまで「圧倒的な強さ」を目指してきたからこそ、なのだ。
16連覇達成という大仕事を終えた団体メンバーの植野洵(4年)に話を聞いた。
「予選後は、中田先生から“やったことは仕方ない。今日という日は二度と帰ってこない。明日は明日。しっかり切り替えて(青大)全員でいくぞ!”と言われました。
おかげでぐっすり眠れたし、がっつり食べられました。びびってはいられないと思ったので。
決勝のときは、今日は今日でしっかり『自分達の団体』をやろうとみんなで話し合いました。決勝の演技は、部員全員と応援に来てくれた保護者や関係者がひとつになれた、と感じました。
今までに経験してきたのと違って、逃げ切ったと思ったし、意地を見せられたな、と思う優勝でした。」

16連覇達成で底力を見せた青森大学。
そして、その青森大学を、中田監督をして「しんどかった」と言わしめるところまで追いつめた国士舘大学。
その再戦は、2017年10月26~28日に行われる「全日本新体操選手権」で見ることができる。
今回以上に、熱く、美しい戦いが期待できそうだ。
<撮影&インタビュー:清水綾子>