男子だって新体操! 名門・青森大16連覇に向けて

全日本インカレ団体16連覇を目指す青森大学

女子日本代表「フェアリージャパン」の活躍もあり、東京五輪に向けて注目度が高まっている新体操。

だがじつは、男子にも新体操競技がある。

バク転や宙返りなどを駆使したダイナミックな演技が特徴だ。

大学界の王者は青森大。全日本インカレ16連覇を目指す、彼らの強さと日常に迫った。

新体操には個人と団体がある

女子と同じく、男子も「個人」と「団体」に分かれている。個人はスティック(棒)、ロープ(縄)などの4つの手具を使用し、演技時間は1種目につき1分15秒~1分半。構成10点+実施10点=20点満点で競う。

個人競技には男子も4種の手具を使用する
個人競技には男子も4種の手具を使用する

一方、団体は女子と男子でかなり違いがある。手具を用いて5人のチーム演技を行う女子に対して、男子は手具を持たず、6人で演技を行う。演技時間は2分45秒~3分。手具を使わない分、バク転や宙返りなどのタンブリングや、高いシンクロ性が求められる。大学王者・青森大の、昨年日本一を達成した迫力ある演技を、まずは動画で見て欲しい。

【↑2016年全日本インカレ決勝】

人気低迷も、「テレビ番組」と「鹿実」で上昇

男子新体操は約70年前から日本で行われていたが、競技人口は低迷し、2008年を最後に国体も休止種目となった。しかし、同年にバラエティー番組「笑ってコラえて!」で男子新体操が取り上げられ、ユーチューブでも、鹿児島実業高校のコミカルな演技の動画が話題となり、徐々に認知度が高まった。現在は、ジュニアクラブが増え、競技人口も2000人ほどになった。

男子新体操の知名度アップに貢献した鹿児島実業の演技
男子新体操の知名度アップに貢献した鹿児島実業の演技
2016年リオ五輪閉会式でパフォーマンスを披露(ロイター/アフロ)
2016年リオ五輪閉会式でパフォーマンスを披露(ロイター/アフロ)

また2016年リオ五輪閉会式では、青森大のメンバー20人が登場し、パフォーマンスを披露。世界中から絶賛された。

その青森大は、8月15日から岩手県で開催される「全日本学生選手権(インカレ)」に団体16連覇をかけて出場する。どんな練習をしているのか、強さの秘密は何なのか。7月下旬、同大の練習場に足を運んだ。

練習場(左)と寮(右)
練習場(左)と寮(右)

部員は47人。北海道から鹿児島まで

練習場は、大学のキャンパスから2キロほど離れた住宅街にある。

冬になれば雪に閉じ込められ、部員たちはひたすら新体操に向き合う4年間を過ごす。

部員は47名。北海道から鹿児島まで高校トップレベルの選手が毎年集まってくる。

「中1のときに大会で青森大の迫力ある演技を見て、すごい!と思いました。ずっと憧れていました」(高橋祐大・3年)「中田先生の指導をどうしても受けたかったので選びました」(萩原大恭・2年)

青森大を選んだ理由はさまざま。だが、よりレベルアップしたい、大学で最高の演技をしたいという思いは共通している。

現在の部員は47名という大所帯だ
現在の部員は47名という大所帯だ

続いて、スポーツの中で、なぜ新体操を選んだのか?という質問もぶつけてみた。

「先に弟が新体操を始め、練習の迎えに行ったときに見て、かっこいいなと思って高校から始めた」(山上大稀・2年)。中には「テレビで青森大学の演技を見て、新体操を始めた」(湊悠馬・2年)という声もあった。

団体の練習は週6日。だいたい17時~21時まで行われる。

練習の前半は、全員でのタンブリング練習や基礎トレーニング。それを終えると部分練習になる。団体メンバーがフロアに上がり、フレーズごとに動きや位置、移動を細かく修正し、作品を磨き上げていく。「すごくピリピリした雰囲気になる。ここまでやっているから日本一なんだな、と思える練習」(五十嵐涼介・1年)、「高校までは調子が悪い日でもなんとかやれたが、ここでは自分の最大の力を出さないと演技が通せない」(渡辺剣史郎・4年)

体力、精神力、そして集中力を総動員した練習でなければ、中田監督を納得させることはできない。

2002年から青森大を率いる中田吉光監督
2002年から青森大を率いる中田吉光監督

名将・中田監督が2002年から指導

青森大男子体操部は2001年、部員わずか3人の同好会としてスタートした。その翌年、部に昇格すると全日本インカレの団体でいきなり優勝。その後も勝ち続け、15連覇中だ。

勝因は、中田吉光監督(51)の存在につきる。中田は青森県階上町出身。国士舘大学時代の1986、87年に全日本新体操選手権大会で優勝し、89年からは坂出工業高校(香川県)の指導者となる。全国大会で優勝5回を数え、2002年に青森大の監督に就任した。

青森大の団体は、その運動量の多さで他の追随を許さない
青森大の団体は、その運動量の多さで他の追随を許さない

中田監督は、演技中の指の形、かかとの高さなど細部にまでこだわる。そして運動量の多さ、斬新な演技構成において他の追随を許さないものを、と求め続けてきた。さらにはそれを「お前たちなら必ずできる」と選手達に信じさせる。高校、さらには大学で中田が幾度となくチームを優勝に導くことができているのは、その徹底した「体操へのこだわり」と「独創性」、さらに「人間力」ゆえんだろう。

中田監督はトップ選手の才能を伸ばす一方で、「オレは弱いやつが好きさ」と言う。

「もっと強くなりたい! 自分を変えたい!」と必死になる選手のことが、この熱血漢は愛おしくてたまらないのだ。

「青森みたいな辺ぴなところの大学を選んで、中田を選んで来てくれたやつらをオレは全力で守る」

その思いは、おそらく創部当初から変わっていない。

 

青森大の練習には常に良い緊張感が漂っている
青森大の練習には常に良い緊張感が漂っている

当初は高校の体育館を借りて練習

15連覇中の青森大だが、練習環境に恵まれていたわけではなかった。13年までは、系列校である青森山田高校の体育館を間借りして練習していた。フロアマットの上で団体練習ができるのはせいぜい2時間。当然それでは足りず、タンブリング以外の部分は、体育館のロビーなど硬い床の上で練習していた。その環境ゆえに、「恵まれた環境でやっている大学には負けない」というハングリー精神があり、勝利への執念になっていたように思う。しかし、2014年からはマット常設の練習場、寮の完備と飛躍的に環境は向上した。それでも、青森大のハングリー精神は失われてはいない。

背中にしょった「青大」の文字は彼らのプライドの証だ
背中にしょった「青大」の文字は彼らのプライドの証だ

レギュラーと補欠を徹底的に競わせる

団体では、本番でフロアマットに乗るのは6人だけだ。しかし、補欠の2人もほぼ同じ運動量の練習をする。派手な組み技やタンブリングに加え、ひとつひとつの動きを極限まで大きく、深く、高くと理想を追い求める。演技を1本通せば、息があがる。レギュラーを務める選手でもだ。

その後は、補欠2人だけでの通しが行われる。そこで演技が上手くいかなければ、レギュラーの座は遠のく。いい演技をすれば、「どのポジションがいい?オレはお前を入れる気満々だから!」と中田監督は声をかける。頑張っている選手を認めてやりたいという気持ちと、レギュラーに発奮してほしいという気持ち。おそらくどちらも本物だ。

補欠にとっては天にも昇るような福音だが、レギュラーは背中に刃を突きつけられたような思いだろう。

レギュラー以外の選手たちも全員参加して作品を作り上げる
レギュラー以外の選手たちも全員参加して作品を作り上げる

さらに、レギュラーと補欠の周りには、演技の細かい部分をチェックする者、動画撮影をする者、演技を終えた選手にタオルを渡す者など、多くのサポートメンバーがいる。彼らとて、「いつかはメンバー入り」を虎視眈々と狙っているのだ。そんな多くの目が、熱が、みんなの代表としてマットに乗る6人の強さをゆるぎないものにしていく。

全員揃ってのタンブリングは迫力満点
全員揃ってのタンブリングは迫力満点

寮で共同生活 自炊もする

練習場から10秒歩けば、彼らのプライベートスペースである寮がある。2人部屋の個室のほか、共同のキッチン、ダイニング。ここで部員全員が過ごす。彼らは自炊をし、勉強もし、好きなアイドルの話もする。

レポートに苦戦する後輩に先輩たちがアドバイス中
レポートに苦戦する後輩に先輩たちがアドバイス中

清水大和(3年)は言う。

「厳しいと覚悟して入ったが、思った以上に先輩方はフレンドリーです。練習とは切り替えて、寮では楽しく過ごせる」。

一心不乱にテスト勉強中の選手
一心不乱にテスト勉強中の選手

取材に訪れた日はちょうど試験期間中で、ダイニングで勉強中の後輩に先輩がアドバイスをしていた。食事は、空き時間に手早く作って食べている。少し体重増加を気にしている選手は野菜中心で、たんぱく質は鶏肉で摂るようにしていた。

共同のキッチンはきれいに整頓されていた
共同のキッチンはきれいに整頓されていた
しっかり野菜も摂るように気を配っている選手の昼食
しっかり野菜も摂るように気を配っている選手の昼食

大半の選手が、高校までは親に面倒を見てもらっていた。それが、今ではわずかな時間で食事を作り、後片付けまでする。寮の2階の手すりには布団も干されていた。青森大に来たことで、生活力も大きく向上し、「人間力」がついてきている。

18歳から22歳というおそらく人生の一番輝いている時期を、彼らは青森という北の地で新体操に捧げて過ごす。「青森に来てよかった」と思えるように、ひたすらに新体操に打ち込む。そして中田監督は、その思いに応えるために、常に「さらに上」「もっと強く」を目指すのだ。

「連覇を達成し、後輩につなげる!」

今年の全日本インカレは8月15~17日まで、「盛岡タカヤアリーナ」(岩手県盛岡市)で開催される。男子団体は16日が予選、17日が決勝だ。

青森大は今回もまた、「圧倒的な強さ」を見せることができるのか。取材した限りでは死角はないように思えた。

お互いの揺るぎない信頼あってこそアクロバティックな技も可能になる
お互いの揺るぎない信頼あってこそアクロバティックな技も可能になる

「自分は1年の全日本インカレからメンバーに入って、今まで負けていない。ここまできたら先輩たちがつないできた連覇を達成し、後輩にしっかり繋げたい」(植野洵・4年)、「青森大の練習はきついが、それだけ達成感がある。他にはできないものをやっているという自信も持っている」(前田春希・4年)

彼らがその強さを存分に発揮することができれば、自然と16連覇はついてくる。

47名全員の力を合わせて16連覇を目指す!
47名全員の力を合わせて16連覇を目指す!

<撮影:清水綾子>

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】