まず、体操競技を五輪くらいしか見ないという人のために、この「全日本団体選手権」について説明をしよう。

日本の体操選手たちは、ほとんどがどこかの実業団チーム、大学、高校、クラブチームなどに所属している。

リオの金メダルメンバーでいえば、内村、加藤凌平、田中佑典、山室光史らはコナミスポーツクラブ所属、白井健三は日本体育大学所属だ。

これらの所属対抗の団体戦が、「全日本団体選手権」で、各チーム6名がエントリーし、6種目を3名ずつが演技した18演技の合計得点でチームとしての順位が決まる。

五輪しか見たことのない人なら、「当然、コナミが勝つだろう」と思うだろう。

なにしろ、オリンピアンが4人もいるのだから。

しかし、そう簡単にはいかないのが、団体戦の怖さであり、面白さだ。

現に、昨年の第69回大会では、日本体育大学が優勝しており、内村、田中、山室も出場していたにもかかわらず、コナミは4位だった。

それだけに、今年のコナミは、「王座奪還」に並々ならぬ意欲をもってはいると思うが、(67回、68回はコナミが連覇している)、昨日、記者会見で内村航平の欠場が発表された。

もちろん、加藤、田中、山室をはじめとするコナミの選手たちは、「内村抜きでも優勝」という思いを強くしているには違いないが、いかんせんリオ五輪以降、メダリストたちの強行スケジュールは並大抵ではなかった。各選手が実力を出し切ることができれば、コナミの王座奪還の可能性は十分にあるが、10月15日に行われた「全日本シニア選手権」の個人総合では、加藤こそ優勝したものの、田中は15位、山室は17位に沈んでいる。安泰とは言い難い。

白井健三を擁する日本体育大学は、当然、連覇を狙っている。

昨年の団体選手権での日体大の勢いは凄まじかった。最終種目がゆかだったため、最後の演技者は白井健三。

そこで白井が16.700という破壊的な高得点を出し、団体総合優勝をもぎとるという劇的な幕切れだった。

今年は、リオでも補欠登録だった神本雄也も急成長を遂げており、白井と神本を軸に得点を稼ぎ、持ち前のチームワークの良さで、穴を作らない試合運びができれば、連覇も見えてくる。

全日本シニア4位の齋藤優佑
全日本シニア4位の齋藤優佑

しかし、今回の台風の目になりそうなのは、徳洲会体操クラブではないかと思う。

徳洲会体操クラブは、本来、コナミ、朝日生命と並ぶ3強の一角ではあった。

が、近年の全日本団体では、コナミの後塵を拝することが多く、日体大や順天堂大などの大学生チームにも負けることもままあった。

ところが、昨年の全日本団体選手権で、徳洲会は3位になった。

1位・日体大、2位・順天堂大と大学生たちが強く、3位ではあるが、コナミには勝ち、社会人チームのトップに立ったのだ。

それも、2位の順大との得点差は、わずか0.350。

昨年の全日本団体選手権は、徳洲会が浮上してきている、と印象づける大会となった。

参考:第69回全日本体操団体選手権<前半種目>

参考:第69回全日本体操団体選手権<後半種目>

上昇気流に乗る徳洲会体操クラブはさらに、2016年4月、岡準平、長谷川智将(ともに日本体育大学卒)という強力ルーキーを獲得する。

団体選手権での日体大の優勝にもおおいに貢献した2人が、今年から徳洲会のメンバーになったのだ。

全日本シニア7位の長谷川智将
全日本シニア7位の長谷川智将

ただ、リオ五輪出場をかけた春先の競技会での徳洲会は苦杯の連続だった。

4月の全日本選手権では、齋藤優佑が4位に入り、リオの切符をつかみかけたが、5月のNHK杯で8位に後退。五輪出場を逃す。

長谷川も全日本選手権では12位と気を吐いたが、NHK杯では22位。

2015年の成績では五輪まであと一歩まで迫っていた武田一志も、全日本選手権19位、NHK杯12位。さらに代表決定の最終決戦となった全日本種目別では日本の苦手種目・つり輪で1位となり存在感を示すも、代表には手が届かなかった。

ロンドン五輪のときは、徳洲会からただ一人、代表入りした田中和仁も引退。2013、2014と世界選手権の代表となった亀山耕平も、あん馬1種目に五輪出場の夢を懸けたが、全日本種目別で2位に終わり、夢は潰えた。

リオ五輪の代表メンバー5人が決定した後、5人中4人を輩出したコナミ、大学生ながら代表入りを果たした白井のいる日体大の傍らで、徳洲会体操クラブの選手、関係者はどんな思いを噛みしめていたのか。想像に難くない。

リオ五輪での日本チームの活躍にも、同じ日本の選手としては、快哉をあげただろうが、ただ「嬉しい」という感情だけではなかったのではないか、と想像できる。

全日本シニア11位の山本雅賢
全日本シニア11位の山本雅賢

そして、10月15日に行われた「全日本シニア体操競技選手権大会」で、徳洲会の選手たちは、この夏をどんな思いで、どう過ごしてきたのかを示して見せた。

個人総合で、2位・岡準平、3位・武田一志、4位・齋藤優佑と上位に並び、長谷川智将も7位、山本雅賢が11位、瀬島龍三が14位という大攻勢を見せ、6種目×5演技=30演技の合計点で競われる団体総合でコナミをかわし、優勝したのだ。それも、得点差7.650という完勝だった。

この大会で、徳洲会でトップの成績を得た岡は、昨年は日体大のキャプテンとして日体大を団体選手権優勝に導いた選手だ。大学3年のときはインカレの個人総合でも3位という実績もある期待の選手だった。しかし、春先の大会では力を出し切れず、全日本選手権23位、NHK杯18位に沈んでいた。それが、ひと夏を超えて、一回り強くなった。

全日本シニア14位の瀬島龍三
全日本シニア14位の瀬島龍三

2016年。

日本の体操界は、リオ五輪での金メダル獲得で沸きに沸いた。

しかし、その年を締めくくる最後の試合では、「五輪に手が届かなかった」選手たちが、主役になるかもしれない。

世界レベルの選手がひしめきあう日本の体操界では、「五輪に出た選手」と「五輪には出られなかった選手」の差は紙一重だ。

「五輪には出られなかった選手」でも、十分、オリンピアンや金メダリストを脅かす力を持っている。

だから、日本の体操は強いのだ。

徳洲会体操クラブの選手たちが、きっとそのことを証明してくれるだろう。

いや、それは徳洲会に限ったことではない。日体大にも順天堂大にもほかのチームにも、「あと一歩でリオに届かなかった」選手はいる。

彼らの、2016年が最高の演技で締めくくれるよう、注目したい。

※「第70回全日本体操団体選手権」の放送予定

<地上波 日本テレビ>

女子決勝 11月13日(日)早朝4:25~5:10  関東ローカル

男子決勝 11月13日(日)15:35~17:00  関東ローカル

<CS放送 日テレジータス>

女子決勝 11月19日(日) 10:00~13:30(VTR)同日深夜に再放送あり

男子決勝 11月20日(日) 09:45~15:00(VTR)※23日早朝に再放送あり

<写真提供:末永裕樹>