新時代の到来! ~第67回全日本学生新体操選手権大会に注目!

全日本学生選手権13連覇中の青森大学団体

どの種目でも、「全日本学生選手権(インカレ)」は、世間の注目を集めることはあまり多くない。「大学生のみの大会」ということで身内の大会という印象がある。

しかし、2015年の全日本学生選手権は、男子新体操にとっては大きな意味をもった試合になる。

西日本学生チャンピオン・臼井優華(中京大学3年)
西日本学生チャンピオン・臼井優華(中京大学3年)

今大会は、「2015ルール」といわれる新しいルールが初めて適用される試合なのだ。

新体操、体操、フィギュアスケート、シンクロナイズドスイミングなどの採点競技はしばしば採点基準(ルール)が変更される。

その変更によって、不利になる選手もいれば、有利になる選手もいるが、基本的にはその競技の公平性を保ち、発展させるために、ルール改正は行われる。女子新体操や体操競技の場合は、国際ルールの改正はFIGが決定するが、国際化されていない男子新体操は、2006年以来、大幅なルール改正が行われていなかった。

そのため、男子新体操の個人競技は、今だに10点満点で採点が行われており、多くの問題が生じてきていた。

器具の進化(マットにスプリングが入った)と、競技開始年齢の低年齢化などにより、近年の男子新体操は急速な進化を遂げた。

選手たちの演技の内容は、「5年で全く変わった」と言われるほど、高度化してきた。

とくにタンブリング、手具操作は、選手によっては高いレベルのものを取り込むようになってきた。

しかし、10点満点の中にその差を反映されることは困難で、明らかに突出したレベルの演技と「まずまず」の演技に差をつけきれない、という問題が起きてきた。

さらに、男子新体操のルールには「あいまいな点」が多く、基準が明確でないものも少なくなかった。

東日本学生チャンピオン・永井直也(青森大学2年)
東日本学生チャンピオン・永井直也(青森大学2年)

そのため、大会のたびに「採点がおかしい、納得がいかない」といった批判が噴出した。

また、競技中の審判の協議もたびたび行われていた。それだけ、男子新体操は評価が難しい状況になっていたのだ。

不正を行っているわけではなく、基準があいまいなゆえに起こる多くの批判は、審判員を疲弊させた。

競技者、指導者は何を改善すれば、点数を伸ばすことができるのか、確信をもてないまま努力をするしかなかった。

体操競技の選手たちは、「来年までに、Dスコアを1点あげたい。」と明確に数字を口にする。それは、何をすれば得点が上がるかがわかっているからだ。現在2回ひねりのところを3回ひねりに変える、新しくE難度の技を入れるなど、そうすることで自分のDスコアをあげることが可能か、彼らは知っている。しかし、男子新体操はそうではなかった。

畠山可夢(国士舘大学4年)
畠山可夢(国士舘大学4年)

なぜルール改正がなかなか行われなかったのか。

ルール改正という煩雑な仕事をこなせるだけのマンパワーがなかった。

それもひとつの理由だろう。しかし、それは現に今回、ルール改正が行われたのだから、本気で取り組めばできないことではなかったはずだ。

いちばん大きな理由は、現場が切実には、ルール改正を望んでいなかったということだろう。

「男子新体操のよさがなくなる」

ルール改正が話題になると、そういう人が驚くほど多い。ファンだけでなく現役の競技者でもそういう人がいる。体操競技や女子新体操と同じように、「この技が何点、この技が何点」という足し算だけが男子新体操のよさは判断できないというのだ。たしかに、難しい技をより多くできた人が勝ち、とは言い切れないのが男子新体操のよさであり、味でもある。そういう面は否定しない。が、だからこそそれぞれの価値観による評価で、必ず「審判がおかしい」という話になってきたのではなかったか。

細羽勇貴(花園大学4年)
細羽勇貴(花園大学4年)

そういう、ルール改正を歓迎しない空気もある中で、ルール改正を推し進めることは並大抵の苦労ではない。

さらには、現行ルールからあまり大きく変えると、審判の負担が大きい、という声も少なくなかった。

競技人口2000人と言われる男子新体操は、当然、指導者の数もそれほど多くない。その中から、大会ごとに審判の数を確保することにも大きな苦労があるのだ。そのうえ、その審判たちに新しいルールを徹底することは、困難だというのだ。

となると、ルール改正はなかなか進められない。

2006年から今年まで、ほとんどルールが変わらなかったのは、それがもっとも大きな原因だ。

五十川航汰(中京大学2年)
五十川航汰(中京大学2年)

今回の「2015ルール」も、まだ第一段階だという。本来ならもっと細かく、もっと明確に決めるべきことが多いことは承知のうえで、現状に則した「現実的な改正」にとどまっているのだ。

わかりやすい変更点は、10点満点だった個人競技が「構成10点+実施10点」の20点満点になること、演技中に入れなければならない手具の投げの回数が1回多くなること、などだが、まずは、「2015ルール」を適用し、見直しも行っては、次の改正につなげる。

その流れの中で、少しずつ、よりクリアなルールつくりに取り組んでいくことになるだろう。

男子新体操は、近年、その芸術性の高さで評価が高まってきている。

FIGさえも、男子新体操に言及するようになり、それも好意的なものが増えている。

このいい流れの中で、より普及し、いずれは国際化もとなれば、競技経験者だけにわかる感覚的な評価ではなく、多くの人を納得させる客観性をもったルールが必須となってくる。

長年進まなかったルールの整備が、今年、やっと1歩前進した。

まだ最初の1歩にすぎないが、この1歩は大きい。

前田優樹(花園大学4年)
前田優樹(花園大学4年)

ルール改正に携わった人たちは、気が遠くなるほどの煩雑な作業、数多くの判断をやり遂げて、今、「2015ルール」が出来上がったのだ。この改革を、停滞されることなくよりよい方向へと進めていけるかは、男子新体操のすべての関係者にかかっている。

誰かがやってくれるのを待つだけ、人がやったことに不満を言うだけ、からは脱却し、当事者意識をもって、みんなでよりよいルールを作り上げていく、という気概をもって取り組むことが、求められているのだ。

「スポーツとして」男子新体操が、本当に認められ、今まで以上の発展をとげていくための大きな改革が今、始まったのだ。

「だれが優勝するのか?」「どんな演技が見られるのか?」という興味だけでなく、このスポーツの行く末を見届けるという意味で、8月25~27日、リージョンプラザ上越(新潟県)にて行われる今回の全日本学生選手権は見逃せない。

<写真提供:清水綾子>