中国とのチーム得点差「56.3」を超えることを目指して臨む日本の最終種目は、「ゆか」。

外国人選手に比べると脚力が弱いといわれる日本にとっては決して得意な種目ではない。

中国もゆかでは得点を伸ばしきれなかったことを思えば、日本のゆかも低調に終わってしまう可能性もあった。

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しかし、日本の第1演技者・寺本明日香(中京大学/レジックスポーツ)の演技は、そんな不安を吹き飛ばすものだった。

寺本の演技には、小さく1歩出てしまうような細かいミスはあったが、空中姿勢も美しい高いジャンプなど、全体的な印象は非常にすばらしい演技だった。なんと言っても、大学生になってからどんどん開花してきた寺本の表現力が、この日のゆかの演技では存分に発揮されていた。今大会ではチームリーダーを務め、個人総合のメダルにも十分届く位置で最終種目を向かえた寺本の「覚悟」がその演技からは痛いほど伝わってきた。まさに気迫の演技、だった。

団体は、チーム全員の力で戦うもの。「団体金」は全員の力を合わせてはじめて勝ち取れるもの。

だが、寺本は、「まずは自分がやる!」という断固たる覚悟をもってフロアに立っていた。

得点は、13.750。上位4人で平均14点を出せば逆転の可能性のある日本にとっては、もう少し高い得点がほしかったところではあるが、この寺本の演技は、続く選手たちに大きな力を与えた。

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内山由綺(スマイル体操クラブ)は、抜群のプロポーションを生かした美しい演技を披露。美しいだけでなく、難度の高いタンブリングでも着地までしっかりまとめる強さも見せた。森の中をさまよう妖精を思わせる、幻想的な曲を繊細に表現しきって、14.000。待望の14点台が出た。

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個人総合優勝の可能性もある杉原愛子(梅花高校)は、まるで優勝などは意識していないかのようにのびやかで、思い切りのいい演技だった。試合後の会見で杉原は、4種目を振り返って「ゆかは、最後なので楽しく! と思っていた」と言ったが、本人のその「楽しさ」が見ている側にも伝わってきた。とくに演技中盤でのターンのスピードと完璧な締めは、素晴らしかった。得点は、14.300。

この演技で、杉原は個人総合優勝を確定し、さらに日本女子の団体金をぐっと引き寄せた。

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4番演技者は、この日、段違い平行棒と平均台で悔しいミスの出ている笹田夏実(日本体育大)。試合後の会見でもなかなか笑顔の出なかった笹田は、おそらくこの時点でもかなり気持ちは落ちていたと想像できるが、そんなマイナスの感情を振り切って、このゆかではダイナミックで雄大な彼女らしい演技をやりきった。すべての着地をきっちり丁寧に決めてきたところに、今大会では悔しい思いのほうが大きかっただろう笹田の意地が見えた。得点は13.900。

ここまでの4人のゆかの合計得点は、55.950。中国を逆転するのには、あと0.350足りない。

最終演技者で、ゆかのポイントゲッターである宮川紗江(セインツ体操クラブ)が14.100以上を出せば逆転。

日本女子体操、2008年以来となるアジア選手権金メダル獲得へのお膳立ては整った。

この大一番で、宮川の演技は冴えわたった。第1タンブリングの伸身月面、第2タンブリングの伸身前宙からの2回宙返りもすいつくような着地を決める。宮川のゆかの曲は、勇壮な印象の威勢のいい音楽だが、この場面では、この曲が金メダルへの凱旋歌のように感じられた。

ラストタンブリングは、かかえ込みの新月面。これもきれいに決まったかに見えたが、惜しくもラインオーバー。しかし、ラインオーバーの減点はあっても、14.950の高得点をたたきだし、この瞬間、日本の団体金メダルが決定した。

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終わってみれば、日本の女子選手たち、とくにティーンエイジャーたちの活躍が印象に残る試合だった。

個人総合優勝に輝いた杉原愛子は、シニアでの代表初選出だったにもかかわらず、どの場面でも落ち着いた演技を見せ、悪くなりかけた流れも引き戻す役割を果たした。「(個人総合優勝はしたが)Dスコアを見ると、とってもらえていない技もあったので、明日の練習で修正したい。」と良い結果にも浮き立つことのない生真面目さも、頼もしい。

内山由綺も、国内大会では時折見られた脆さを、今大会では払拭した。段違い平行棒では15.000という高い評価を得たが、それでも会見で「ノーミスでできてよかったが、満足できる演技ではなかった。世界選手権までにはもっと究めたい」と強気なところを見せた。

期待された跳馬とゆかの両方で最高得点をあげ期待に応えただけなく、得意とはいえない段違い平行棒でも、大きなプレッシャーのかかる場面で持ちこたえた宮川紗江の精神力の強さも、日本にとっては明るい材料となった。

今年の世界選手権は、来年のリオ五輪の出場権の懸かる試合でもある。

団体で8位以内に入らなければ、リオ五輪への団体出場はなくなる。北京五輪、ロンドン五輪と2大会連続団体出場、それも決勝進出を果たしている日本女子体操だが、その前には団体出場ができなかった冬の時代もあった。

世界の強豪たちの中では、「団体8位」は決して楽にとれるポジションではないのだ。

それでも、ロンドン五輪の枠のかかった2011年の世界選手権(東京開催)を唯一経験している寺本明日香は、会見最後にこう言った。

「今のチームは、若い選手たちが元気で、いきいきしている。自分もそれでパワーをもらえる。

世界選手権でも今日くらいのいい流れで、堂々と演技できれば、団体8位以内は必ずとれます。」

世界に誇る日本の体操。

とはいえ、男子に比べるとかすみがちだった女子ではあるが、着々と「女子力」は上がってきている。

世界選手権、そして、リオ五輪にもおおいに期待したい。

<写真提供:岡本範和/赤坂直人>