第6回体操アジア選手権に見る「日本の女子力」<前>

アジア選手権で団体金メダルを獲得した体操女子日本代表チーム

今回が第6回となる体操アジア選手権において、日本の女子は2008年の4回大会で、団体優勝、個人優勝(鶴見虹子)という結果を残したことがある。しかし、それ以降優勝はなく、2012年の前回大会では団体3位に終わっている。

アジアの中では、日本は中国、韓国と並ぶ体操強国ではあるが、いかんせん中国が抜きん出ており(過去5大会中4回は中国が団体優勝)、今大会も日本としてはなんとか中国に食らいつき、少しでも差をつめておきたい試合だった。

しかし、今回の日本代表メンバーは、6人中4人(杉原愛子・内山由綺・宮川紗江・湯元さくら)が初代表。しかも、3人は高校生という若いチームで、その経験の浅さに、いささか不安を感じるむきもあった。

そんな中、2015年7月31日、体操アジア選手権が開幕し、1日目に女子団体と個人総合が行われた。

第1ローテーション。

日本は休憩、中国は跳馬からのスタートで、中国は、ポイントゲッターのWANG Yanが15.050をたたきだし、CHEN Siyiも14.550。さすがの得点を重ね、「やはり中国は強い」と印象づけた。

が、今大会は「6-5-4制」をとっており、1つの種目につき、5人が演技をし、高いほうから4番目までの得点がチーム得点となる。中国の3番手以降の選手の得点は「13.800、13.600、13.600」で、跳馬のチーム得点は、57.000となった。

第2ローテーション。

中国は段違い平行棒に進み、日本は中国の後を追う形で跳馬からのスタート。

中国は、段違い平行棒でも、FAN Yilinが15.650、ZHU Xiaofangが14.850、CHEN Silyが14.750という高得点をマークし、チーム得点「59.500」を獲得。中国の独走にもなりかねない勢いを感じさせたが、日本も跳馬で健闘する。

跳馬でのポイントゲッターという役割を見事に果たした宮川紗江
跳馬でのポイントゲッターという役割を見事に果たした宮川紗江

第1演技者となった笹田夏実(日体大)が安定感のある跳躍で13.950といういいスタートを切ると、内山由綺(スマイル体操クラブ)も13.900、杉原愛子(梅花高校)が14.250、寺本明日香(中京大学/レジックスポーツ)が14.300と続き、4人目まででの合計得点で56.400と中国の57.000にかなり近い得点を稼ぎだす。そして、5番手で登場したのが宮川紗江(セインツ体操クラブ)だ。宮川は、跳馬とゆかのポイントゲッターとして代表入りした選手だが、その役割を見事に果たし、15.150という高得点をたたきだす。この結果、日本の跳馬のチーム得点は57.650となり、中国を抜いてトップに立った。

第3ローテーション。

跳馬では、幸先のよいスタートを切った日本だが、2種目目の段違い平行棒に試練が待ち受けていた。

第1演技者の寺本は、落ち着いた演技で14.850をマークし、追い上げムードが盛り上がりかけたが、続く笹田が、落下。それも腰を強打するダメージの大きい落ち方で、その影響もあったのか再度落下し、11.550という得点で終わってしまう。こうなると残り3人に失敗は許されないという緊迫した状況になった。

このプレッシャーのかかる場面で登場した杉原は、笹田の採点に時間がかかりかなり長く演技開始を待たされたが、それをものともせず全日本チャンピオンらしい落ち着いた美しい演技で14.850をマークし、段違い平行棒には定評のある内山に繋いだ。

段違い平行棒で本領を発揮した内山由綺
段違い平行棒で本領を発揮した内山由綺

体操選手としては長身で手足が長く、難しい移動技も入る内山のダイナミックな段違い平行棒は、実施がよければ高得点も期待できるが、国内大会ではミスして自滅したことも少なくない。しかし、今回の内山は、大きなミスなく「段違いの内山」を見せつけた。試合後の会見で「満足できる演技ではなかった」と辛めの自己採点の演技ながら15.000。

最終演技者・宮川は、国内大会の段違い平行棒では、よく落下している。跳馬とゆかでは抜群の得点を上げながら、個人総合ではメダルに届かないのは、段違いと平均台で得点をおとしてしまうことが多いから、という宮川にとっては鬼門の種目だ。しかし、ここで宮川が落下すれば、中国に逆転され、さらに大きな差がついてしまう。

この段違い平行棒を振り返って試合後に宮川は、「演技する前は少し緊張して、あわただしい演技になってしまったが、途中で落ちそうになったとき、みんなの応援の声が聞こえて踏ん張れた。」とコメント。たしかに、つなぎの部分で流れが止まったり、ひやりとする場面が何度かあったが落下という大過失を犯すことなく宮川は粘りの演技を見せ、13.400という得点を得た。

この結果、段違い平行棒でのチーム得点は日本が「58.100」、中国は「59.500」で日本は跳馬で得たアドバンテージをここで吐き出し、逆に中国に0.75差をつけられてしまった。それでも、今年のNHK杯や全日本選手権では、12点台で終わっている宮川の段違いが13点台にのったのは大きかった。ここで中国との差を最小限にとどめたことが後半種目での追い上げの大きな布石となった。

第4ローテーション。

日本が平均台、中国は最終種目のゆかに進む。

中国は、第3ローテーションの平均台で、「15.050、14.950、14.600、14.350、12.400」と4番手までが14点超えという猛攻を見せ、チーム得点「58.950」をマーク。前半2種目を終えて0.75ビハインドの日本は、平均台でなんとかこの「58.950」を超えるチーム得点をあげ、少しでも中国との差をつめておきたいところだが、この得点はかなり高い壁だ。

日本の平均台。第1演技者の笹田は、段違いでの失敗をやや引きずっているのか、ターンでの大きなふらつきや落下も1回あり、13.500に終わる。日本はいきなり、チームとして「もう失敗はできない」という状況に追い込まれるが、2番手の内山は、ターンでわずかにふらつきはあったが、足先まで神経のゆき届いた美しい演技で14.450と踏ん張る。

平均台で完璧な実施を見せた寺本明日香
平均台で完璧な実施を見せた寺本明日香

続く杉原も第1シリーズでは微動だにしない確実性を見せつけ、14.650。寺本は、ふらつきすら見えない隙のない実施に加え、情感も伝わる深みのある演技で14.550と、日本もこの平均台で猛チャージをかける。

最終演技者となったのは、今大会、平均台のみの出場となる湯元さくら(中京大学/ならわ体操クラブ)。湯元は、今年の全日本選手権、NHK杯では平均台で15点台をあげてはいるが、この緊迫した場面で今大会で唯一の出番がめぐってきてしまったのは気の毒にも思えた。しかし、湯元は、強気で美しい彼女らしい演技で14.950をマークし、しっかりと自分の役割を果たしてみせた。結果、日本の平均台のチーム得点は「58.900」中国には及ばなかったものの、その差わずかに0.05。高い壁と思われた中国の平均台得点に限りなく迫る大健闘だった。

第5ローテーション。

すでに中国は演技を終え、日本のゆか終了を待つ態勢になっている。

第4ローテーションで、日本が平均台で驚異的な粘りを見せている傍ら、中国は最終種目のゆかで思わぬ苦戦を強いられていた。幅10センチの平均台の上であれほど精密な演技を見せていた中国の選手たちが、ゆかではふらつきや着地のミスなどを連発、MAO Yiだけが14.300と14点台にのせてきたが、ほかの選手たちが13点台に終わり、チーム得点が「55.500」で終わっていたのだ。結果、4種目を終えての中国のチーム得点は230.950。日本は3種目目を終えた時点で、174.650。気がつけば、日本は、ゆかのチーム得点が56.3を超えれば中国を逆転できるという展開になっていた。

4人で56.3ということは平均、14.075。不可能な数字ではない。が、高得点の出にくいゆかで全員が14点台をそろえることは、簡単なことではない。

それでも、可能性はゼロではない。

そんな中で、日本の最終種目ゆかがスタートした。    (つづく)

<撮影:岡本範和/赤坂直人>