シルク・ドゥ・ソレイユと男子新体操

2012年インカレの花園大学団体。この中の4人が現在はシルクアーティストだ。

2月25日に日本テレビで放送された「笑ってコラえて2時間SP」で久々に男子新体操の話題が取り上げられた。

「笑ってコラえて」は、2008年に「男子新体操の旅」という企画で、インターハイに懸ける各地の新体操部を追いかけており、当時は今よりもずっと知名度が低かった男子新体操の普及におおいに貢献した番組だ。

北村将嗣(2011年社会人大会)
北村将嗣(2011年社会人大会)

今回、番組がフューチャーしたのは、現在、世界的パフォーマンス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のパフォーマーとして活躍している田原丈嗣。

2008年の放送時には、男子新体操の強豪校・神埼清明高校(佐賀県)のキャプテンを務めていた選手だった。当時から非常にタンブリングの強い選手で、高校卒業後には花園大学の新体操部員としてインカレ、全日本選手権などでも活躍したのち、大学4年生時にシルク・ドゥ・ソレイユのオーディションに合格、卒業を待たずに渡米し、現在は、ラスベガスのマンダレイホテルでのシルク・ドゥ・ソレイユ常設公演「One」に出場している。

男子新体操の関係者やファンには、よく知られた選手であり、彼がシルクの一員として活躍していることも周知の事実だが、男子新体操そのものもよく知らないであろう一般の人は、そこに入ることを夢見る人が世界中にいるシルク・ドゥ・ソレイユに、日本人の、それも「男子新体操」というマイナースポーツの選手がいるいうことに、まず驚いたのではないかと思う。

そして、番組内でも触れられていたが、じつはシルク・ドゥ・ソレイユで活躍している男子新体操選手は、田原丈嗣だけではない。

青森大学団体(2012年インカレ)
青森大学団体(2012年インカレ)

シルク・ドゥ・ソレイユが、最初に男子新体操を演目に取り入れたのは、マイケル・ジャクソンをモチーフにした「ザ・イモータル・ワールドツアー」というツアー公演だった。この公演がスタートしたのが、2011年10月。この公演のために、シルク・ドゥ・ソレイユは男子新体操経験者のリクルーティングを行い、2010年度で大学を卒業予定だった外崎成仁、鈴木大輔(ともに青森大学)、清水翔吾、田村允宏(ともに国士舘大学)、谷本竜也(花園大学)のメンバー入りが決定。すでに大学を卒業していた高橋雄太(青森大学卒)、野呂昴大(光明学園相模原高校⇒国士舘大学)らも加えた7人が、シルク・ドゥ・ソレイユのメンバーになった最初の男子新体操選手たちだ。

菅正樹(2012年インカレ)
菅正樹(2012年インカレ)

世界的に有名なパフォーマンス集団で、男子新体操は果たして通用するのか? という不安もあったと思うし、このころのメンバーには、「もともとシルクを目指していた」というわけではない者がほとんどだった。自分が海外で生活することになるなんて想像もしていなかっただろう。ただひたすらに「男子新体操」という競技に打ち込んできていた青年たちに、降ってわいたようなシルク入りのチャンスだった。

しかし、彼らはその不安や困難も乗り越え、「ザ・イモータル・ワールドツアー」で、男子新体操は大好評を博する。

花園大学団体(2012年インカレ)
花園大学団体(2012年インカレ)

そして、シルク・ドゥ・ソレイユは、マイケル・ジャクソンをモチーフにした公演の第2弾となる「One」にも、男子新体操を取り入れる。

2013年5月に幕を開けたこの公演のために、シルク入りしたのが、今回の番組でスポットを当てていた田原丈嗣、石井勝也、菅正樹、遠藤竜馬(ともに花園大学)ら、渡米当時、花園大学の現役学生だった選手たちだ。彼らは、大学を休学してまでシルク・ドゥ・ソレイユに入ることを選択した。すでに大学を卒業し、シルクのオーディションにも合格しながらウェイティング状態にあった北村将嗣(花園大学卒)、柴田翔平、青木雄太郎(ともに青森大学卒)らも「One」のメンバーとなり、彼らの演じる男子新体操は、テレビでも紹介されたように公演の中でも、非常に人気のある演目となっている。

柴田翔平(2011年インカレ)
柴田翔平(2011年インカレ)

現在は、「ザ・イモータル・ワールドツアー」は終了しており、すでに帰国した者もいるが、男子新体操は、シルク・ドゥ・ソレイユに重宝されているようで、2015年、「Varekai(バレカイ)」というツアーショーに再び男子新体操を取り入れる。

そのメンバーには、「ザ・イモータル・ワールドツアー」メンバーから高橋雄太、外崎成仁、野呂昴大が回り、さらに、新メンバーとして弓田速未(国士舘大学卒)、朝留涼太(花園大学)が加入する。

わずか4年の間に、のべ17人のシルク・ドゥ・ソレイユアーチストを生み出した男子新体操。(注:「オーヴォ」に出来田和哉(国士舘大学卒)も単独で出演していた。)

2000人にも満たないと言われている競技人口の少なさを考えると、驚異的な数字だ。

もちろん、「男子新体操」というスポーツそのものが、現時点では日本でしか行われておらず、いわば日本の独占市場ではあるが。

昨日放送された番組の中で、田原丈嗣は、「男子新体操は、難しいこともやるんだけど、それだけではない」と言った。

「どんだけキレイに見せるか。どんだけおもしろく見せるか。それが新体操。」だと。

田原は言った。

「体操競技のように、たくさんひねったからすごい、というのとは新体操は違う」

たしかにそうなのだ。だから、男子新体操の評価は、「スポーツ」「競技」としてはかなりわかりにくい。

カウントできる「難しさ」よりも、説明できない「味」のようなものが勝ることもある。

それが男子新体操の魅力でもあり、だからこそ、エンターテイメントであるシルク・ドゥ・ソレイユとは親和性があったのだろう。

弓田速未(2013年全日本選手権)
弓田速未(2013年全日本選手権)

しかし、「スポーツ」としての発展、普及を考えると、難しい面もあり、2015年度はルール改正も行われる。

マイナーチェンジはあっても、大きなルール改正は、この20年あまり行われていなかった男子新体操にとって、今回のルール改正はかなりの冒険だが、ついにその必要に迫られるようになってきたのだ。

かつてはマイナースポーツと言われていた男子新体操にとって、シルク・ドゥ・ソレイユのような華やかな道が開けたことも、さまざまな形でパフォーマーとして活躍する場が増えてきていることも歓迎すべきことだと思う。競技の普及発展のためにはそういった「夢」は大きな力になることは間違いない。

だが、今回の番組で、シルクで活躍する田原のジュニア時代からのライバル・日高祐樹(青森大学卒)が、「シルクでやりたい気持ちもあった」としつつも、「自分が身につけてきたことを、後輩たちに還元したい。」と指導者の道を選んだことを取り上げていたように、そういう地道な努力を絶やさないこともまた不可欠なのだ。

ここ数年、男子新体操の「夢」の部分は大きく開けてきた。

数年前では考えられないくらいに、シルクやパフォーマーを目指す選手も増えてきている。

だからこそ。

足元を固めることが今、求められているのだと思う。

夢を見られるようになったからこそ、その夢をかなえるためには、しっかりとした技術が必要で、競技者としての厳しい鍛錬や試練を乗り越えることも必要なのだ。

あのシルク・ドゥ・ソレイユにそんなにも大勢の男子新体操選手がいる、ということを、今回の「笑ってコラえて」で初めて知ったという人も多いと思う。

そして、そんなにもシルク・ドゥ・ソレイユから評価されている男子新体操ってどんなものなんだろう? と関心をもった人は、ぜひ会場で生の男子新体操を見てみてほしいと思う。

●男子新体操の情報は、以下のサイトに数多く掲載。

「ジムラブ」

「新体操研究所」