Yahoo!ニュース

講談社と集英社が本気で「ゲーム開発支援」 出版大手の人材の発掘・育成ノウハウは成功するのか

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「BitSummit」の集英社ブース(※筆者撮影。以下同)

8月5~6日にかけて京都市の「みやこめっせ」で開催された、インディーゲームの展示イベント「BitSummit(ビットサミット)」の会場に足を運んでみた。

今年も例年どおり、会場内には個性あふれる作品が数多く出展されていたが、とりわけ筆者が注目したのは講談社、集英社の両出版社がブース出展をしていたことだ。

「BitSummit」の会場
「BitSummit」の会場

漫画で得た豊富な経験をゲームに活用

そもそも、なぜ出版社がインディーゲーム開発に参入したのか? その答えは「マガジン」や「ジャンプ」など、両社が長年にわたり多くの漫画家を輩出した新人コンテストによる人材の発掘、育成ノウハウなどをゲーム業界に持ち込み、新たなビジネスの確立を目指しているからだ。

講談社は、2020年9月からゲーム開発支援プロジェクト、その名も「ゲームクリエイターズラボ」の運営を開始。「年間最大1000万円支給しますから、好きなゲームを作りませんか?」という、インパクト抜群のキャッチコピーを掲げている。

・参考リンク:「講談社ゲームクリエイターズラボ」

「講談社ゲームクリエイターズラボ」公式サイトより(※本募集の応募期間はすでに終了している)
「講談社ゲームクリエイターズラボ」公式サイトより(※本募集の応募期間はすでに終了している)

同社のスタッフによると、現在までに2000件以上の応募があり、21タイトルの開発がすでに進行している。そのうち3タイトルは「BitSummit」の開催に合わせて、8月6日からアーリーアクセス、およびデモ版の配信も開始され、いずれもユーザーからは好評とのこと。

「出版社である講談社が、ゲーム事業にも本気で取り組んでいることを広く知っていただくために『BitSummit』に出展しました。『講談社ゲームクリエイターズラボ』は、我々の強みである出版のスキームをそのまま生かして皆さんを支援するプロジェクトです。発売されたゲームの権利は、漫画の単行本と同じでクリエイターさんにすべて残り、売上はレベニューシェアする形となります」(同社スタッフ)

なお同社では、より支援体制を強化した「ゲームクリエイターズラボオーディション」の募集も現在実施中だ。

講談社のブース。8月6日からアーリーアクセス、デモ版の配信を開始した3タイトルを展示していた
講談社のブース。8月6日からアーリーアクセス、デモ版の配信を開始した3タイトルを展示していた

一方、集英社は「集英社ゲームクリエイターズCAMP」と題した支援プロジェクトを昨年から開始し、今年の2月には株式会社集英社ゲームズを新たに設立。開発資金の援助のほかにも、異なる業種間での人材コラボレーションの場を提供するなど、支援体制の強化を着々と進めている。

現在、同プロジェクトの登録者は4500人を超え、第2回のオリジナルゲーム企画コンテストの募集もすでに始まっている(※数字は8月6日開催の「BitSummit」ステージイベントでの発表による)。公式サイトによると、コンテストで大賞を受賞した作品には、何と同社が開発資金を全額出資し、さらに副賞として100万円が贈られるというのだから驚きだ。

・参考リンク:「集英社ゲームクリエイターズCAMP」

「集英社ゲームクリエイターズCAMP」の公式サイトに掲載された、第2回オリジナルゲームコンテストのお知らせ
「集英社ゲームクリエイターズCAMP」の公式サイトに掲載された、第2回オリジナルゲームコンテストのお知らせ

また同社では、自社IPを活用したゲーム開発支援も行っている。

7月28日に配信を開始した、Nintendo Switch用ソフト「キャプテン・ベルベット・メテオ ジャンプ+異世界の"小"冒険」には「少年ジャンプ+(プラス)」の連載漫画に登場するヒーローたちが登場しているのがその一例だ。「集英社ゲームクリエイターズCAMP」スタッフの西島卓氏によると、本作には「少年ジャンプ+」のIPを惜しみなく提供しているという。

まだ目立った実績のない、小規模のインディーゲーム開発チームが、自力で有名IPの権利元と交渉してライセンス契約を締結するのは極めて困難だ。それゆえ支援タイトルに選ばれれば「少年ジャンプ+」などのIPを容易に利用できるのも、本プロジェクトならではの大きなメリットだろう。

「新人漫画家さんの読み切り掲載のようなノリとスピードを、そのままゲーム業界に置き換えて実施することで、新しい才能がきっと現れるのではないかと思います。インディーに限らず、ゲーム開発をされている皆さんが望む規模感に対し、我々ができる範囲でどれだけ支援できるか、というスタンスで運営していきたいと考えております 」(西島氏)

集英社ブースの「キャプテン・ベルベット・メテオ ジャンプ+異世界の
集英社ブースの「キャプテン・ベルベット・メテオ ジャンプ+異世界の"小"冒険」展示コーナー

豊富な資金だけでなく、スタッフのコーディネートなど「モノ」と「ヒト」の両面で支援するプロジェクトの誕生は、とりわけ個人、または少人数のチームで活動するインディーゲーム開発者たちには、まさに朗報だろう。事実、筆者が両社のブースにいた数名のゲーム開発者にプロジェクトの評価を聞いたところ、全員が「ありがたい」と口をそろえていた。

過去にはバンダイナムコエンターテインメントの「カタログIPオープン化プロジェクト」など、大手ゲームメーカーが自社IPを開放する形でインディーゲーム開発者を支援するプロジェクトを運営した例がいくつかある。その中には、目立ったヒット作が出ないまま、ひっそりと終了したプロジェクトもあるのが現状だ。

本家ゲームメーカーでも、必ずしも成功するとは限らないインディーゲーム開発支援プロジェクトを、はたして両出版社は成功させることができるのか? これから続々と発売が予定されている、両プロジェクトによって生み出された新作タイトル、およびプロジェクトの今後の動向には要注目だ。

(参考リンク)

・「BitSummit」公式サイト

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

鴫原盛之の最近の記事